サバンナ高橋

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「大変な事態になった」と驚いている人は当然ながら多いだろう。バラエティ番組で「10年間ぐらいずっといじめられた先輩がいる」と後輩芸人が告発してネットは炎上。その結果、先輩芸人が後輩芸人に謝罪したのだ。ところが翌日になると後輩芸人は「いじめられていた」との発言を撤回。二転三転の展開にも驚かされるが、改めてネット炎上がもたらす強い影響力が再認識されているのは間違いない。

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 まずは経緯を振り返っておこう。5月5日、お笑い芸人の中山功太(45)が出演したABEMA「ナオキマンの都市伝説ワイドショーSEASON3」が配信。「10年間ぐらいずっといじめられた先輩がいる」と告発したことが始まりだった。

サバンナ高橋

 5月10日、お笑いコンビ・サバンナの八木真澄(51)がXに「全てコンビであるサバンナの責任です」などと投稿。これにより「いじめた先輩」がサバンナの高橋茂雄(50)と判明した。

 高橋は11日にXで「今回の中山功太との件ついて、多くの方々にご心配と不快な思いをおかけしてしまい、本当に申し訳ありません」と謝罪。すると12日に中山がXに「自分の意思で、サバンナ高橋さんに許可を得てこの文章を書かせていただいています。長くなりますが、ご一読ください」と投稿した。

 中山は番組での「いじめられていた」という発言は完全に不適切だったと撤回。理由として高橋と電話したことを挙げ、高橋が「カラミ」、「イジり」のつもりだったと説明されると、「高橋さんは昔から嘘が嫌いな方です。すぐに本当だとわかりました」と矛を収めた。

 だがネット上では今でも高橋を糾弾する投稿が相次いでおり、炎上は収まっていない。高橋のレギュラー番組が継続されていることを疑問視する意見も多い。CMなどプロモーションに高橋を起用しているライオンは「当面、出演を見合わせる」ことを明らかにしたと報じられた。

風評被害も発生

 炎上問題に詳しいITジャーナリストの井上トシユキ氏は「中山さんの発言に多くの人が反応し、SNSなどネット上で炎上が発生した理由として、3つの原因が挙げられると思います」と指摘する。

「原因の1点目は、ネット上でよく見られる“度を越した正義感”です。SNSでは不倫、セクハラ、パワハラ、そしていじめなど『被害者の人権が蹂躙された』とされる問題に対して、過度の正義感に駆られたネット民が強い憤りを表明して最初の炎上が発生します」

 中山の発言から最初の炎上が発生し、その後に“加害者”が高橋だと判明すると、さらに炎上が過熱した。

「原因の2点目は中山さんが番組で『いじめた先輩がいる』としか発言しなかったことです。たちまちネット上では“犯人捜し”が盛り上がり、炎上が継続してしまいました。中山さんの出演歴から共演者を調べ出し、先輩芸人をピックアップ。そして複数の芸人さんの名前がネット上に投稿されました。そのためサバンナの八木さんがXに投稿するまでの間、いわゆる“風評被害”に巻き込まれた芸人さんも出てしまったのです」(同・井上氏)

マスゴミ批判でも炎上

 そして3つ目は、番組の内容にも批判が殺到したことだという。

「SNS上の批判を要約すると『中山さんが先輩芸人の名前をカメラの前で堂々と明かしたのなら放送も理解できる。だが最終的に編集でカットしたのなら、いじめられたという発言を放送してはならない』という内容になると思います。こうした批判は、いわゆる“マスゴミ批判”と結びつき、さらに炎上が激しくなってしまいました」(同・井上氏)

 今回の炎上から「いじめは絶対的な悪だという社会認識の広がり」や「前近代的で封建的な上下関係が色濃く残る芸人社会にも変化が生まれた」といった論点が浮かび上がったのは事実だろう。

 かつて芸人の世界では、厳しい上下関係、師弟関係が当たり前だったことは言うまでもない。

 ところが今回の炎上がきっかけとなり、先輩芸人の高橋は後輩芸人の中山に謝罪した。芸人の常識からすればこれだけでも驚くべきできごとかもしれない。

 高橋の謝罪を「炎上が正義を実現させた」と受け止める人もいるようだ。だが、SNSなどに激しい批判を投稿した人々の全員が“純粋な正義感”に駆られていたかと言えば、それは違うという。

三越伊勢丹「内定取り消し」事件

「最近のネット社会では『悪いことをした人は必ずバッシングされるべきだ。炎上という社会的制裁を受ける必要がある』という考え方が主流となっています。炎上を容認するというより、必ず炎上させる必要があるというわけでしょう。その対象は芸能界やスポーツ界に限らず、政界でも財界でも変わりません。ある人の不祥事が報じられたのに、様々な要因が重なって炎上を免れた場合、『なぜ炎上しないのか!?』と憤りを覚える人も少なくないのです」(同・井上氏)

 ネット上の炎上がバーチャルの世界で完結せず、高橋が謝罪したことや、レギュラー番組やCM契約の継続が問題視されていることに隔世の感を覚える人もいるだろう。だが炎上がリアルな社会に影響を与える歴史も実は長いという。

 井上氏が例として挙げるのは2011年に発生した「三越伊勢丹『内定取り消し』事件」と呼ばれる炎上騒動だ。ちなみにネット上で流布されている呼称を記載したが、本当に内定が取り消されたのかは不明な点が多いことに注意をお願いしたい。

「きっかけは東京の名門私立大学に通う男子大学生が、性被害に遭った女性を侮蔑したかのような文章をTwitter(現X)に投稿したことでした。この投稿に批判が殺到し、炎上する中で大学生の個人情報が暴露されたのです」(同・井上氏)

炎上は今後も続く

「個人情報の中には大学生が三越伊勢丹から内定を得ていたことも含まれていたため、抗議メールが三越伊勢丹にも殺到しました。すると三越伊勢丹は抗議に『お詫びを申し上げます』と謝罪した上で、男子大学生が『入社しないことを確認している』と公表したのです。すると、この対応は是か非か更なる議論が勃発し、炎上が続きました」(同・井上氏)

 井上氏は「なぜ炎上が起きるのか、その理由や背景を経済的な側面から説明しようとする見解もありますが、私は違うと思います」と言う。

「具体的には『経済的な不遇に苦しんできた氷河期世代が憂さ晴らしのために炎上させている』とか、『実質賃金が伸び悩み、物価交渉に悩まされている中間層がストレス発散のために炎上させている』といった指摘です。しかしインターネットが誕生する前から、スナックのような酒場では政財界や芸能界、プロスポーツ界などに対する激しい批判が飛び交っていました。現在の炎上はそれがネット上で可視化されたに過ぎません。人間は貧富の差を問わず、老若男女の誰もが不満を溜めながら生きています。溜め込んだ不満をSNSで発散させることで炎上が起きます。ネットの世界に劇的な変化が訪れない限り、炎上は今後も続くと考えられます」(同・井上氏)

 確かに中山が発言を撤回しても、今のところ炎上が沈静化する気配は感じられない。

デイリー新潮編集部