EVに不可欠。アメリカの地中には、328年分のリチウムが眠っている
生産もサプライチェーンに潜む諸問題も国内でまかなう方が…マシ…よね?
重要なエネルギー資源と聞いて思い浮かぶのは、石油や天然ガス、石炭、最近だと太陽光や風力ではないでしょうか。でも、電力網を稼働させ続けるうえで欠かせない役割を果たしているものすごく重要な鉱物があるんです。
今回、その重要な鉱物であるリチウムがアメリカ東部にたんまりと眠っていることを米国地質調査所(USGS)が発見しました。
電力網を支えるカギとなる鉱物
Springer Natureに掲載された新たな研究結果によると、アメリカ東部のアパラチア地域(ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、メイン州、ニューハンプシャー州)には、経済的に採掘可能なリチウムが推定230万t存在しているそうです。
2025年の需要を基準にすると、アメリカの輸入量の328年分に相当する量なのだとか。
もちろん、リチウムを燃やすわけではありません。でも、電力系統を安定させ、需要と供給のバランスを調整し、再生可能エネルギーの統合を支える大規模エネルギー蓄電システムの主要な構成要素なんですよね。
また、リチウム電池は、家電製品や医療機器、電気自動車をはじめとする重要なテクノロジーにも使用されています。
USGSのNed Mamula所長は、プレスリリースで次のように述べました。
今回の調査は、アパラチア山脈にはアメリカの増大する需要を満たすのに十分なリチウムが存在することを示しています。世界的なリチウム需要が急速に高まっている現在、アメリカにおける鉱物資源の安全保障に大きく貢献します。
同機関によると、電気自動車の生産拡大や、エネルギー貯蔵需要の拡大を背景に、リチウムの需要は2028年までに48倍以上に膨れ上がると予測されています。
眠れる巨人のポテンシャルは激高
30年前、アメリカのリチウム生産量は世界一でした。その後はじり貧で他国の後じんを拝することに。規制の障壁や、資金調達の困難さが国内のプロジェクトを停滞させ、生産は海外市場へとシフトしてしまったとのこと。
現在、世界のリチウムのほとんどはアメリカ国外、主にオーストラリア、中国、チリで採掘されています。中国は最大の生産国ではないものの、加工能力において、世界で圧倒的なシェアを誇ります。
調査によると、2025年の時点で、アメリカはリチウム供給量の半分以上を輸入に依存しており、それが原因でサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性が高まった結果、国内でリチウムの生産と精製能力を拡大する動きが再び活発化しています。
USGSの地質学者たちは今回、地質図、地殻変動の歴史、地球化学的サンプル調査、地球物理学的調査、鉱物の産出記録などを用いて、アパラチア地域におけるリチウム埋蔵量を評価しました。
さらに、花崗岩に似た粗粒の火成岩であるリチウムペグマタイトに関する世界的なデータセットを用いてシミュレーションを実施し、未発見のリチウム鉱床の数と、そのリチウム保有量を推定しました。
USGSによると、今回確認された230万tの酸化リチウムは、大規模電力貯蔵用バッテリー160万基、あるいは電気自動車1億3000万台を製造するのに十分な量に相当するとのこと。
国際競争の舞台へアメリカは返り咲けるのか
リチウムの埋蔵量を特定したことは成功と呼べますが、ここから採掘して競争力のある市場を再建するのはまったく別の話です。規制や資金面のハードルは依然として立ちはだかっていて、リチウムプロジェクトの開発には10年以上かかることもあります。
ダラス連邦準備銀行のデータによると、2025年8月自転において、アメリカ国内で正式に建設中のリチウムプロジェクトはわずか3件にとどまっているそうです。
それでも、アメリカのリチウム生産量は増加傾向にあり、連邦政府の改革が道を切り開く後押しになっています。直近3代の政権は、いずれも重要鉱物の国内採掘と加工の拡大を推進してきました。
現在のトランプ政権は、世界の重要鉱物市場における中国の支配を、国家安全保障上の脅威として捉えています。
3月には大統領が関係省庁に対し、許認可手続きの迅速化、連邦所有地の開放、連邦融資プログラムの活用を通じて、アメリカ国内における重要鉱物の採掘と加工を優先するよう指示しました。
この動きに対し、環境保護団体からは、重要な鉱物資源の採掘を効率化するために、環境政策を後退させることへの批判が寄せられました。
また、トランプ氏が掲げる反再エネ政策は、自身が再建を目指す市場の需要そのものを損なうとの指摘もあります。
アパラチア地域のリチウム資源を本格的に活用するまでに、アメリカにはまだ多くの課題が残されているのは明らかです。
新たな許認可制度や資金調達の機会が整ったとしても、アメリカがこの資源を信頼できる国内エネルギーの重要な要素として完全に開発できるようになるには、まだ長い時間がかかりそうです。
「掘って掘って掘りまくれ」が、「ドリル・ベイビー・ドリル(Drill baby, drill)」から、「マイン・ベイビー・マイン(Mine, baby, mine)」に変わっていくのでしょうか。
鉱物の採掘は、開発途上国の現場で人権侵害や児童労働の温床になっているので、少なくともサプライチェーンが抱える諸問題を国内で解決する方向に進めば、モヤモヤがちょっとだけ小さくなるような気がします。
Reference: AP

