Ryota SATO

写真拡大

2020年に登場したマセラティMC20は、ブランドにとって久しぶりの本格ミドシップスーパースポーツだった。その進化版として登場したのが「MCPURA Cielo」である。”PURA”はイタリア語で「純粋」を意味し、”Cielo”は「空」。つまりこのモデルは、マセラティが考える純粋な走りと、オープンエアの開放感を組み合わせた存在というわけだ。

【画像】派手さだけでは終わらない。速さだけでもない。ピュアな魅力を放つマセラティMCPURA Cielo(写真7点)

今回、そのMCPURA Cieloを3日間にわたって連れ出す機会を得た。単なる短時間の試乗ではなく、東京から富士、そして奈良までを往復する長距離ドライブである。スーパースポーツとしての速さだけではなく、長距離移動の道具としてどこまで使えるのかを試すには十分すぎる条件だった。

東京を出発したのは金曜日の夕方。都内では小雨程度だった空模様は東名高速を西へ向かうにつれて次第に悪化し、厚木を過ぎたあたりから激しい雨へと変わった。高速道路の路面には大量の水が浮き、前方を走る大型車が巻き上げる水煙で視界が一気に悪くなる。こうした状況では、低くワイドなスーパースポーツは緊張を強いられることが多い。
しかしMCPURAは意外なほど落ち着いていた。

ドライブモードを「WET」に切り替えると、アクセル操作に対する反応が穏やかになり、後輪へ伝わるトルクもていねいに制御される。600psを超える高性能車とは思えないほど扱いやすく、濡れた路面でも神経質な動きは見せない。ステアリングに余計な緊張感がなく、高速巡航を続けても疲労感が少ないのが印象的だった。

エクステリアはMC20をベースにしながらも、細部の印象がかなり違う。フロントまわりはよりシャープで力強くなり、グロスブラックのアクセントが車体全体を引き締めている。派手に自己主張するというより、イタリア車らしい色気を残しながら洗練度を高めた印象だ。

ドアを開けてシートに身を沈めると、室内には独特の空気感が漂っている。アルカンターラを多用したインテリアはスポーティでありながら冷たすぎず、長時間乗っていても不思議と落ち着く。最近のスーパーカーは大型ディスプレイや派手な演出で未来感を強調するものも多いが、MCPURAはドライバーが運転に集中できる空間づくりを優先しているように感じられる。ステアリングにはエンジンスタートボタンが組み込まれ、各種スイッチも機能的に整理されている。操作系に迷いがなく、走り出してしまえば自然と車との距離が縮まっていく。

試乗車にはカーボンパーツや高級オーディオなど、多数のオプションが装着されていた。総額は4500万円を超える仕様である。もちろん簡単に手が届く世界ではないが、実際に長距離を走らせてみると、この車が単なる高額な趣味車ではなく、かなり実用性を考えて作られていることがわかってくる。

翌日は富士スピードウェイで仕事を終え、そのまま奈良へ向かった。深夜の新東名は交通量が少なく、MCPURAの能力を自然に引き出せる環境だった。120km/h巡航ではネットゥーノエンジンからはほとんど余裕しか感じられない。車内は驚くほど静かで、オープンモデルとは思えないボディ剛性の高さも印象に残る。路面の継ぎ目を越えた際の振動処理もしなやかで、いわゆる”硬いだけのスーパーカー”とは明らかに性格が異なる。

長距離GTとしての資質が非常に高いのだ。

一方で、アクセルを深く踏み込んだ瞬間には空気が変わる。3リッターV6ツインターボが一気に回転を上げ、背中を押し込むような加速が始まる。速度の上昇は鋭いが、それ以上に印象的なのはエンジン音だった。最近のターボエンジンは効率重視で音の演出が薄いものも少なくない。しかしMCPURAは違う。エンジンのメカニカルな響きに加え、吸排気の荒々しい音がしっかり耳に届く。特にオープン状態では、ターボの過給音やシフトアップ時の音まで鮮明に感じられ、まるでレーシングカーを少しだけ公道向けに整えたような感覚がある。