受刑者を更生へ導く ″対話″ の時間 北極圏で生まれた手法が日本でも 「拘禁刑」導入で刑務所は大きな転換期に 核となる更生プログラムを取材(山形)
特集です。今回取り上げるのは刑務所の受刑者の更生についてです。去年導入された刑罰「拘禁刑」により、刑務所は今、大きな転換期にあります。その核となるプログラムを取材しました。
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受刑者「一番の悩みというか課題は人間関係ですね」
受刑者と刑務官が向き合い、話し合う時間があります。説教でも指導でもありません。釤対話釤の時間です。
かつて、受刑者を懲らしめる場所だった刑務所に、いま大きな変化が起きています。
山形市北部にある山形刑務所。ここでは受刑者や起訴後に裁判の判決を待つ人あわせて1000人近くが生活しています。
多くが26歳以上の男性で懲役10年以上の長期受刑者です。
■受刑者の更生と再犯防止を目的にした「拘禁刑」
厳しい規律のもと社会復帰に向け生活するこの場所は去年、大きな転換期を迎えました。受刑者の更生と再犯防止を目的にした「拘禁刑」の導入です。
「拘禁刑」は刑務作業が義務の「懲役刑」と刑務作業の義務がない「禁錮刑」を一本化した新たな刑罰です。
受刑者を年齢や刑期、介護の必要性などに応じて24のグループに分類し、刑務作業や教育・指導、治療などを組み合わせて受刑者ひとりひとりに合わせた更生のプログラムを実施します。
その取り組みの一つが受刑者と刑務官による釤対話釤です。
■リラックスして話せる空間
刑務官「ここで話したいこととか、普段の生活で感じていることとか何かあったら教えてください」
受刑者「特に困ったってことはほとんどないようにしている」
対話の部屋は、刑務所の中でも特別な場所です。受刑者がリラックスして話せるよう、緑色の壁に木目を多用し、落ち着いた空間が作られています。
受刑者1人と刑務官4人が輪になって座りますが、刑務官はこの部屋では制服を身に着けません。
受刑者はまず、「聞き役」の1人の刑務官に胸の内を話します。
受刑者「自分は刑が長いので、ここに来た以上腹据えて受刑まっしぐらでやるしかない。だからなるべく悩まないようにしているつもりだが…一番の悩みというか課題は人間関係。自分が真面目にやっていてもそれを気に食わない人がいて足を引っ張られたりすることも多々」
生活の不安。人間関係の悩み。
聞き役以外の刑務官3人は「観察役」として受刑者と聞き役の刑務官の会話に耳を傾けます。
■「聞き役」の刑務官が「観察役」の刑務官と向き合う
刑務官「(今の受刑者の話を聞いて)感じることであったり、ここもっとこうだったらいいよねと話し合えればいいな」
「聞き役」の刑務官は「受刑者」と話した後に「観察役」の刑務官と向き合い「受刑者」との話で感じたことを話します。
「受刑者」はその間は刑務官たちの話をじっと聞き、対話の時間の最後に、自分がどう受け止めたのかを語ります。
受刑者によって頻度は違いますが、必要に応じてこの対話を繰り返します。
■なぜこうした方法が?専門家に聞く
なぜ、こうした方法がとられるようになったのでしょうか。
釤対話釤実践の第一人者で、山形刑務所で対話の研修の講師を務める県立保健医療大学の安保寛明教授です。
県立保健医療大学 安保寛明 教授「受刑者の人からするとおそらく自分が話したことに対してあなたの考えはここが不足しているとか、いわゆるダメ出し、指摘をされると思っているんじゃないか。でもそれがすぐにダメ出しをされなかった、心配事は心配事というのを隣の人に言っている様子を見ることができる。ということによって、出来事と自分の評価を分けることができるというのが受刑者側にとってはすごくいい体験になると思う」
この対話の特徴は、1対1ではない点にあります。
受刑者は、自分の気持ちを聞いた刑務官が別の刑務官にその内容を話す姿を第三者として見ることで、自分の言葉や行動について考える時間を持つことができます。
さらに、自分とは異なる意見に触れることで気づきを得て、立ち直りへとつなげていくことを目的としています。
■北極圏の精神医療現場で生まれた手法
この釤対話釤は「リフレクティング」と呼ばれる手法で、北極圏の精神医療の現場で生まれました。
県立保健医療大学 安保寛明 教授「(北極圏の地域では)そう簡単に医療者、専門職に会えない。冬になるとかなり移動が閉ざされる、心理的にも物理的にも。アルコール依存とか虐待とかが起こりやすい可能性がある。そうすると何が必要かというと、安全に人と人とが話せるということを組み立てる必要があった」
専門家にすぐには頼れない北極圏で、心理的な安全地帯をつくるために生まれた「リフレクティング」。
その考え方が、いま日本の刑務所にも取り入れられています。
■笑顔が出る受刑者
受刑者に本音で話してもらうため、対話の前にはアイスブレイクも欠かさず行われます。
刑務官「終わってみて今笑顔が出ている」
受刑者「終わってほっとしている」
刑務官「ちょっと緊張していたんだ」
対話は1回40分から50分ほどで、多くても1日に2人しか行いません。
受刑者「自分の考えを伝えるのはそんなに得意な方じゃない。普段話せないこととかを話せたからそれですっきりしている部分はある。ちゃんと伝えることができてうれしい」
受刑者の心境が変化し問題行動が減ると、日々緊張の中での職務を強いられる刑務官の負担が減ることにもつながります。
「すぐに受刑者に結論を言わず、受刑者自身に自らの言動などを見つめてもらう」「対話」が日本の刑務所で受刑者たちの更生にどのようにつながっていくのか。取り組みは、まだ始まったばかりです。
