年齢よりも明らかに小さくて幼い…獣医師が診察室で想像以上に多いと感じる「犬猫の月齢偽装」現実と飼い主側の課題

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「春先は、ペットを新たに迎える人が増え、初めて動物病院に来られる方も少なくありません。『迎えたばかりの子なんです』と診察台に上がった犬や猫を診て、『あれ!? もしかして8週齢に満たないのでは……』と感じることがあります。特に、子犬で思うことが多いですね」というのは、作家で獣医師の片川優子さんだ。

日本では、2021年26月に動物愛護管理法の改正で生後56日以下での展示・販売を禁じる「8週齢規制」が導入された。犬や猫は、生まれてから母親と過ごす時間を経て、「社会化」を学んでいく。この期間を飛ばして早期に離乳させられた犬や猫は、将来的に攻撃性や分離不安といった行動問題(問題行動)を抱えるリスクが高まると言われているのだ。詳しくは前編で触れているのでぜひとも確認してほしい。

しかし、片川さんが診察室で感じるように、8週齢規制を守らず、販売される犬猫が存在し、環境省も以前から指摘をしているがなかなか改善されないという。後編では、片川さんが育てる愛犬と愛猫の実例とともに、この問題を片川さんが引き続き寄稿する。

売れ残っていた猫をお迎えした

現在、私は2頭の犬、3頭の猫と暮らしている。そのうち3頭は病気の子を引き取ったのだが、最初に飼い始めた猫はペットショップで、犬はブリーダーから、それぞれ迎え入れた。この2頭は非常に対照的だった。

猫はペットショップで売れ残っていた。当時もうすぐ4ヵ月だった猫は、他の子猫の2倍ほどの大きさで、ひどくつまらなそうな顔をしてショーケースの中からこちらを見ていた。そして、彼女はひどい噛み癖を持っていた。ペットショップで抱っこさせてもらったときから私の腕に噛みつき続けていた。

メインクーンという大型猫種だったこともあり、パワーも強く、採血の際には鎮静処置をしなければならないほどだった。我が家に来て他の猫との関わりの中で、だんだん性格は丸くなり、噛み癖も治ってきたものの、手を焼くことも多かった。今思えば、彼女はペットショップのケージの中で、母猫や兄弟から「噛む加減」を学ぶ大切な時期を奪われていたのかもしれない。

母親の愛情を受けてから引き取った犬

一方、犬はブリーダーから直接迎えた。まだ目が開かない時期に会いに行き、母犬の元で離乳が進むのを待ってから家へお迎えした。母犬が子育てする環境も見せてもらい、どうやって親となる犬を選んでいるかもブリーダーから直接話を聞くことができた。我が家に来たその子犬は驚くほど気立てがよく、とても優しい性格に育った。その後、新しく迎えた小型犬に尻尾と足の毛を引っこ抜かれても、一切怒らなかった。

もちろん、あくまでもこれは我が家の話であり、この2頭が典型パターンであると言うつもりはない。ブリーダーから迎え入れても神経質だったり、過敏だったりする子はいるだろうし、長くペットショップで過ごしていても穏やかで優しい子もいるだろう。生まれ持った気質は、母親のお腹の中で過ごしたときの母親のストレスレベルの影響を受けるという報告もある。

ただし、生まれてからどのように「社会」と出会ったか。その最初の数週間が、その後の性格や暮らしに与える影響は少なからずある、と私は感じている。

海外では踏み込んだ対策が進んでいる

前編でお伝えしたペットの誕生日情報の不透明である問題は、日本だけではなく、諸外国でも問題となっている。しかし、すでに厳しい対策を講じている国もある。

イギリスでは2020年に「ルーシーズ・ロー(Lucy's Law)」(※1)が導入され、生後6ヵ月未満の子犬・子猫の第三者販売が原則禁止された。これにより、購入者はブリーダーを直接訪ね、母犬と子犬が育った環境を確認することが求められるようになった。

欧州連合(EU)でも、マイクロチップ登録と個体情報のデジタル追跡を義務化し、出生から販売までの履歴を明確にするトレーサビリティの強化が加速している(※2)。そもそも、イギリスをはじめ、フランスやスペイン、アメリカの一部の州では、ペットショップでの犬猫の販売が禁じられている。これは「小さくてかわいい」ペットの衝動買いをなくすための取り組みと言えるだろう。

月齢に違和感を覚えたら、どう向き合うべきか

もし、お迎えした子に対して「幼すぎる」という違和感を覚えたら、どうすべきか。大切なのは、まず目の前の命を守ることだ。

まずは信頼できる動物病院に相談してほしい。そこで獣医師に、発育段階を客観的に評価してもらうと良いだろう。もしペットショップなどで言われた月齢より幼い可能性があれば、「低血糖」のリスクに備え、食事の回数を1日3〜4回に増やし、血糖値を一定に保つ細やかな配慮が必要になる。

また、体温調節が未熟なため室温管理も通常以上に慎重に行わなければならない。ワクチン接種のタイミングや避妊・去勢手術のタイミングも、相談してみると良いだろう。万が一でも「そういう可能性がある」と頭の片隅に留め置いてもらうことで、避けられる危険があると知ってほしいと思う。

「ペットの誕生日」の意味とは

正直に言えば、私自身は愛犬や愛猫の誕生日に豪華なケーキを用意して盛大に祝う、といったことはしない。そもそも保護した猫の中には、正確な誕生日を知らず、暫定的に1月1日を誕生日としている子もいる。これは保護猫あるあるなんじゃないだろうか。

それでも誕生日は、その子にとって1年に1回のこと。暫定だろうがなんだろうが、生まれてきてくれて、うちに来てくれて、一緒に1年ともに過せたことをうれしく思う日である。

ただしその誕生日が、誰かの思惑によって操作されているとしたら、それは保護した子に暫定で誕生日を決めるのとは、意味合いも重みも全く違うはずだ。

もし、これから新しく家族を迎えようとしているのなら、どうか「小ささ」や「幼さ」という物差しを一度手放してみてほしい。そして、ペットショップ以外の選択肢にも目を向けてみてほしい。ブリーダーの元を訪ね、親犬が過ごす環境を自分の目で確かめること。あるいは、保護犬・保護猫という道を選ぶこともぜひ考えてほしいこういったひとつひとつの誠実な選択が、命を「商品」として消費し、数字を書き換えてまで早く売ろうとする歪んだサイクルを止める力になる。

「この子が、この日に生まれてきてくれて良かった」

そう確信を持って言える社会を、飼い主と、送り出す側、そして私たち獣医師がともに作っていく。それこそが、言葉を持たない彼らに対する、私たちの誠意の見せ方なのではないだろうか。

※1:UK Government News

※2:Council of the EU Press Release 2025/11/25

【前編】獣医師が診察室で覚えた違和感「子犬が小さすぎる」…購入したばかりの子犬の月齢偽装、ペット業界の闇