(※写真はイメージです/PIXTA)

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東京郊外の築古アパートで、老後に備えて一人暮らしをするユリさん(仮名・52歳)は、非正規雇用で手取り20万円という余裕のない生活を送っています。そんなある日、73歳の母親が「モラハラ夫にもう耐えられない」と、熟年離婚をして逃げてきたのです。年金月6万円しか収入がない母親を抱え、みるみるうちに破壊されていく娘の日常。そして、極限状態の同居生活で放たれた、娘をブチギレさせる母親の〈悪気のないひと言〉とは。

「今日から一緒に住むからね」家賃5万円・1Kに転がり込んできた73歳母

「あの人のモラハラにはもう耐えられない……。今日から私もここに住むからね」

東京の郊外にある家賃5万円の築古1Kアパートで一人暮らしをしているユリさん(仮名・52歳)の元に、母親のカズコさん(仮名・73歳)が突然転がり込んできました。

カズコさんは、暴言を繰り返す夫との生活に限界を感じ、離婚届を置いて逃げてきたといいます。

「たしかに昔から父さんは怖かったし、ずっと耐えてきたお母さんが可哀想だとは思う。でも……私だって毎日の生活で精一杯なんだからね」

ユリさんは独身の派遣社員で、手取り月収は20万円ほどです。自分の生活費とわずかな老後資金の貯金で毎月ギリギリの生活を送っており、誰かを養う余裕など1円もありません。

カズコさんはずっと専業主婦だったため、自身の国民年金だけでは月に6万円ほどの受給額しかありません。本来なら夫の厚生年金を分割して受け取る「年金分割」の制度がありますが、カズコさんは「離婚届をテーブルに置いてきただけ」で離婚自体が成立しているかも確認していません。

「絶対に無理…」徐々に崩壊していく娘の日常

「これから何年も養うなんて、物理的にも金銭的にも絶対に無理……」

ユリさんが現状を説明し、「一度戻って、きちんと財産分与や年金の手続きをするべき」と説得しても、カズコさんは拒否します。

結局、ひとまず同居を承諾したものの、ユリさんの日常は次第に崩壊。2人分の食費や光熱費の負担に加え、狭い1Kのアパートではプライベートな空間も一切ありません。

さらにユリさんを追い詰めたのは、カズコさんの悪気のない無神経な振る舞いでした。

「おかわりないの?」無神経な母のひと言にプツンと切れた糸

ある日の夕食時、節約のために品数を減らした食卓を見て、カズコさんは不満げにいいました。

「今日のおかずこれだけ? おかわりはないの? お父さんといたときは、もっとお肉も出してたのに……」

長年の専業主婦生活で「誰かに養ってもらう」感覚が抜けていない母親の言葉に、ユリさんのなかで張り詰めていた糸がプツンと切れました。

「ふざけないでよ! こっちはお母さんを養うために、自分の昼ご飯だって減らしてるんだよ!? 勝手に上がり込んできたくせに、これ以上私を苦しめないで!」

思わず感情をあらわにして、怒鳴ってしまったユリさん。カズコさんはビクッと肩を震わせ、「ごめんなさい……」と涙をこぼします。

「これじゃあ、お父さんと同じじゃない……」と、ユリさんはだんだんと自己嫌悪に襲われました。

ユリさんは、親を見捨てるわけにはいかないという罪悪感と、貯金が減っていく恐怖感に挟まれているのでした。

無計画な熟年離婚が招く「経済不安」

厚生労働省の「離婚の年次推移」によると、令和2年の離婚件数は約19万3,000組となっています。同居期間の長い熟年夫婦の離婚も一定数存在しますが、長年のストレスから解放されたいという思いが先行し、経済的な準備を怠ったまま家を飛び出すと、その後の生活は即座に行き詰まります。

この現実は、内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」にも表れています。同調査において、現在の経済的な暮らし向きについて「心配である(家計にゆとりがなく多少心配である・非常に心配である)」と回答した高齢者は全体で30.7%にのぼります。さらに結婚状況別で見ると、現在配偶者がいる層は「心配なく暮らしている」が7割と高い安定感を示す一方、配偶者と離別した高齢者は暮らし向きに対する不安を抱える傾向が強いことが明らかになっています。

特に、婚姻期間の大半を専業主婦として過ごした女性の場合、年金分割の手続きや適正な財産分与を行わなければ、収入は激減します。感情のままに離婚を強行した結果、そのしわ寄せが子世代へと向かうと、親子共倒れになりかねません。熟年離婚には、法的な知識と冷静な経済的準備が何よりも不可欠です。

[参考資料]

厚生労働省「離婚の年次推移(令和4年)」

内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」