現在放送中のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』では、主人公の小一郎(仲野太賀)が主君の信長(小栗旬)からの命で、慶(吉岡里帆)との縁談を受け入れた。この縁談のキーマンとなったのが慶の父・安藤守就。演じているのは、大河ドラマは『軍師官兵衛』(2014年)以来12年ぶり、4作目の出演となる田中哲司である。

【画像】「僕にはもったいないくらいの人」仲間由紀恵との結婚を笑顔で語る田中哲司(全3枚)


田中哲司(『豊臣兄弟!』公式Xより)

“嫌なおじさん”役を得意とする「根っからの芝居好き」

 田中は昨年だけでも、志尊淳と岸井ゆきのがW主演を務めるドラマ『恋は闇』(日本テレビ系)の出演にはじまり、映画『ドールハウス』、『八月の声を運ぶ男』(NHK総合)、Netflixシリーズ『イクサガミ』、舞台『華岡青洲の妻』、そして大人気ドラマ『緊急取調室』シーズン5(テレビ朝日系)と途切れることなく、さまざまなフィールドで活躍している。年末に劇場版『緊急取調室 THE FINAL』が公開されると、間もなく『豊臣兄弟!』がスタートし、もはやお茶の間で田中を見ない日はない勢いだ。

 182cmという長身とがっしりした体型、ちょっと悪めの目つきという風貌の田中が得意としているのは、NHK連続テレビ小説『まんぷく』(2018年度後期)で演じた、ヒロイン福子(安藤サクラ)や夫の萬平(長谷川博己)らが研究の末に完成させた即席ラーメン「まんぷくラーメン」の類似品を製造し続ける「テイコー食品」社長の猿渡鎌作役や、同じくNHK連続テレビ小説『らんまん』(2023年度前期)での年下教授の下につく嫌味で器の小さい助教授・徳永政市役など、怪しげで“嫌なおじさん”役。

 でも、そんな役柄を「格好良い役は制約があるけど、格好悪い役はいろいろな演技ができる。自由度が高いのがやっぱり楽しいですね」(※1)と笑って話す、根っからの芝居好きだ。

音楽系の専門学校を辞め、演劇の名門大学へ

 意外にも役者になろうと思った明確なきっかけはないそうで、高校を卒業後、音楽系の専門学校に進学したが、バイト先にいた大学生が楽しそうであったため1年で辞め、大学進学を決意。「なんとなく芸術方面にっていう思いはあった」と名門である日本大学芸術学部演劇科に進学する。

 卒業後は、蜷川幸雄や岩松了、長塚圭史が演出した舞台作品に多数出演。2015年には、シス・カンパニー公演『RED レッド』で第50回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞している。近年でも映画やドラマの出演作が増えたが、必ず舞台には1年に1作品以上出演しているのが、田中のキャリアの特徴でもある。

人気絶頂期だった仲間由紀恵と6年の交際後、2014年に結婚

 2014年には、TBSドラマ『ジョシデカ!-女子刑事-』(2007年)で共演した仲間由紀恵と6年の交際を経て結婚。交際当初はドラマ『ごくせん』シリーズ(日本テレビ系)で主演を務め、『24時間テレビ』(日本テレビ系)のチャリティーパーソナリティーや、NHK『紅白歌合戦』の司会も担当し、多忙だった仲間を一回り以上も年上の田中が「君なら絶対できる!」と励ましていたと言われている。(※2)

 結婚当時は仲間の人気絶頂期だったこともあり、「仲間由紀恵を射止めた苦労人」(『週刊朝日』2014年10月3日号)、「人気女優を捕まえた地味夫」(『FLASH』2014年10月14日号)など、何かと2人の差が強調されて語られることが多かった。だが、華やかな脚光を浴びながらも孤軍奮闘していた仲間の目には、年上の田中が持つ舞台仕込みの揺るぎない芝居への矜持と、俳優同士にしか通じ合えない静かな色気こそが、誰より頼もしく映っていたのではないだろうか。

『FRIDAY』による田中の不倫報道が飛び出すという危機もあったが、2018年には2人の間に双子の男児が誕生。田中は子どもたちの食が細いことを明かし、「その双子がモリモリ食べてるのを見るとウルウルする」と子煩悩な一面も垣間見せた(※3)。

「朝から唐揚げを食べる」妻・仲間由紀恵との結婚生活

 現在は田中も60歳となり、母校の高校生へ向けたインタビューでも「健康診断、人間ドックに行きましょう。体が資本ですってことを言いたいですね」(※4)と語るほど健康には気を遣っている様子。まだ10歳にも満たない息子たちが巣立つその日まで、現役の俳優として舞台に立ち続けることへの静かな覚悟が、その言葉の裏ににじんでいるように聞こえる。

 一方で、妻の仲間の食生活について「これ言っていいのかな……」と前置きしつつ、「僕はまだ受け付けられないんですが、奥さんは朝から唐揚げを食べる」と暴露。でも、すぐに「由紀恵ちゃんごめんなさい」と謝って、夫婦の仲睦まじさを覗かせていた(※3)。「沖縄出身の妻」と暮らす夫らしい、チャーミングなエピソードである。

 家庭での幸せは芝居にも現れてくるのだろうか。仲間は仕事はセーブしつつもNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』(2022年度前期)で、おおらかな優しい母親を演じるなど新境地を開拓している。

「守るべきもの」を得た田中の演技

 一方、悪役を得意としていた田中も、『海のはじまり』(フジテレビ系/2024年)で目黒蓮演じる夏と複雑な関係にある父親を演じ、物語に深みを与えていた。また、『緊急取調室』では、天海祐希演じる真壁と同期で上司の梶山を演じ、仕事のバディ感もありつつ、パートナーとして互いに意識もしているような絶妙な関係性がシリーズを重ねるごとに話題になっている。時折、関係性を進めようと一歩踏み出してみせる梶山の“駆け引き”は大人にしか出せない色気を感じさせた。

 48歳で結婚し、52歳で父親となった田中が、人生の深みをそのまま役に乗せられるようになったのは、おそらく偶然ではない。家族という「守るべきもの」を得たことで、彼の演技には、かつての鋭利な悪役とは異なる、喜びも哀愁も知った男の柔らかな凄みが加わったのだろう。

 これからも夫婦揃って、第一線で活躍する姿が見られることを楽しみにしたい。

※1 https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/06/18/articles/20230617s00041000648000c.html
※2 『FLASH』2014年10月14日号(光文社)
※3 https://kosodate.mynavi.jp/articles/33753
※4 http://www.kaiseiob.com/interview/01/

(久保田 ひかる)