RM Sotheby's

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2026年4月25日、RMサザビーズ主催で開催されるオークション「モナコ」において、極めて希少な1台が出品される。ロット151として登場するのは、1999年式ブガッティEB112。推定落札価格は150万〜200万ユーロ、日本円にしておよそ2億4,000万円〜3億2,000万円。現存わずか3台のうち最後に完成した車両である。

【画像】幻の4ドアラグジュアリーサルーン、ブガッティEB112の外観やインテリア(写真10点)

この車両は、モナコの実業家ジルド・パランカ・パストールのために完成されたものだ。彼は2015年までこの車両を手元に置き、その後現在のオーナーへと引き継がれた。新車時から数えて2人目のオーナーによる出品であり、カタログ掲載時の走行距離はわずか388km。まさに新車同様と見なされるコンディションを保つ。

シャシーナンバーはZA9CC030ERCD39003で、所在地はモナコ公国。ブガッティ再生期における重要なプロジェクトの成果として位置づけられる1台だ。

1987年、イタリアの実業家ロマーノ・アルティオーリがブガッティの名を取得し、ブランドは復活を果たす。イタリア・カンポガッリアーノに設けられた未来的な工場で開発されたのがEB110だ。カーボンコンポジット製シャシーに、3.5リッターV型12気筒クアッドターボエンジンを搭載し、600馬力超を発揮。四輪駆動を標準装備とするなど、当時としては最先端の技術を惜しみなく投入したモデルである。

そのEB110を基盤に、新たな領域への拡張を試みたのがEB112だった。2ドアスーパーカーにとどまらず、4ドアサルーンへ。かつてのタイプ41ロワイヤルに代表されるブガッティのラグジュアリーサルーンの伝統を、現代的に再解釈した。

EB112は、EB110由来のカーボンファイバー製シャシーをベースとしながら、エンジンをフロントに搭載。排気量は6.0リッターへと拡大され、自然吸気化されたV12は6,300rpmで460馬力、3,000rpmで590Nmを発生する。トランスミッションは6速マニュアル、駆動方式は前後トルク配分38:62の四輪駆動。0-100km/h加速は4.3秒、最高速度は300km/hと、サルーンの枠を超えた性能を備えていた。

スタイリングはイタルデザインのジョルジェット・ジウジアーロによるもの。流れるようなボディラインに、縦方向のスパインと分割リアウィンドウを組み合わせ、タイプ57SCアトランティックを想起させる意匠を採用する。ホイールはタイプ41を思わせるソリッドディスク風のデザインへと進化し、フロントには象徴的なホースシューグリルが力強く主張する。付属のアンブレラにあしらわれたレムブラント・ブガッティの象のモチーフも、歴史へのオマージュだ。

インテリアは4座構成。後席はアームレストで区切られ、ヘッドレストには”EB”ロゴが刺繍される。インストルメント周辺やドアパネルにはペルレ仕上げの金属パネルが配され、全体としては過度な装飾を排した端正な空間。後のヴェイロンへと通じる思想が、すでにここに見て取れる。

だが、この計画は実を結ばなかった。1993年のジュネーブショーで走行可能なプロトタイプが公開されたものの、1995年にカンポガッリアーノ工場は閉鎖。開発は頓挫する。

転機となったのが、パストールによる資産買収である。モナコ・レーシングチームの名のもとでEB110 SCをレースに投入していた彼は、スペアパーツ確保の目的でブガッティ・アウトモビリの資産を取得。その中に未完成のEB112のシャシーと部品が含まれていた。最終的に彼は2台のEB112を完成させ、本車両はそのうちの1台、そして全3台中最後の1台となる。

完成後、この車両はモナコで登録され、街中でも走行。2000年代半ばにはシュルンプ・コレクションに展示されるなど、公の場にも姿を見せてきた。ホースシューグリルを備えた見慣れぬ4ドアのブガッティが街を走る光景は、目撃者に強烈な印象を残したに違いない。

現オーナーのもとでは整備も抜かりない。モナコのガレージ・デ・モネゲッティにより2021年から2022年にかけてブレーキおよびサスペンションの修理、排ガスシステムのオーバーホール(触媒コンバーター交換を含む)、外装の補修、新品ミシュランタイヤの装着が行われた。さらに2022年5月にはロルテック・レース・エンジンズによるエンジン作業も実施。総額3万7,000ユーロ以上、日本円で約600万円超が投じられている。付属品としてラゲッジ2点、工具ロール、そして象のマスコット付きアンブレラも完備する。

フォルクスワーゲン傘下となった現在のブガッティは、EB218や16Cガリビエといった4ドアコンセプトを発表してきたが、市販モデルとしてのサルーンは未だ実現していない。つまり、EB112は現代において唯一、実際に所有し走らせることのできるブガッティの4ドアモデルである。

技術的優位性、造形美、そして圧倒的な希少性、そのすべてを備えた4ドアサルーンが他にあるだろうか?すでに1台はイタルデザインのコレクションに、もう1台は個人の手にある。残されたこの1台に触れられる機会は、ほとんど奇跡に近いといっていいかもしれない。