【記者解説・後編】「医療保護入院」制度の課題 富山の事例から考える
精神障害の診断を受けた人を本人の同意なしで入院させられる「医療保護入院」制度の課題、きょうは後編です。
息子との金銭トラブルを背景に健康なのに医療保護入院させられた富山市の男性のケースがきっかけとなり、法律改正を目指す動きが出ています。
田近記者がお伝えします。
富山市に住む江口實さん(84)です。
8年前、仕事場から拉致同然で栃木県にある民間の精神科病院へ搬送され、違法な医療保護入院を経験しました。
理由は、当時江口さんと金銭トラブルがあった長男が病院に診察を依頼し、入院に同意したためでした。
「あっという間。足音も何もしないんですいきなりこう、後ろからがバーッとしてやられて羽交い絞めというやつ。そしていきなり引きずられながら外へ引っ張り出されたわけですね。大きな声で言いました、助けてくれーってね」
江口さんの入院は閉鎖病棟に11日、その後移った普通病棟とあわせて37日間に及びました。
江口さんの妻らが弁護士に相談するなどして長男を懸命に説得、何とか同意を取り下げさせ、ようやく退院できました
江口實さん
「本当にうれしかったですよ。あんなうれしい気持ち的には。こんなとこから出られて」
江口さんは病院などに損害賠償を求める裁判を起こしました。
宇都宮地裁は「違法に身体の自由を制限した」として病院におよそ300万円の支払いを命じ、判決は確定しました。
西前啓子弁護士
「これみなさん聞いてどう思います。医療保護入院。何かさも、なんかちょっと高度な医療をね、与えてもらって、なんかこうすごく大変な人をですね、助けてあげて、保護してあげる。すごい手厚い保障の制度みたいな感じがなんかするんじゃないですか。保護だから。だけどですね、実際この名のもとで行われているのは、単なる人身の自由の侵害です。ただの強制入院です」
江口さんの裁判で代理人を務めた西前啓子弁護士です。
医療保護入院は精神保健指定医1人が入院が必要と判断し、家族の同意が得られれば強制的に入院させることができる制度です。
西前弁護士は相続トラブルや離婚トラブルなどで、制度が悪用されているとして今の制度は法律から見直すべきと指摘します。
国会では議員が党派の垣根を越えて勉強会を開くなど、動きが出てきています。
西前啓子弁護士
「江口實さんのように精神障害などないにも関わらず入院させられたりですとか、あとはもういろいろな相続の関係だとかね、悪用されているわけなんですけれども、これだけの悪用事例があるということは法律自体に欠陥があるのが間違いないんですね」
厚生労働省によると、おととし6月末時点で全国の精神科に入院している患者はおよそ25万人。
ほぼ半数にあたる12万1000人余りを医療保護入院が占めています。
これに対し、自らを傷つけたり他人に危害を及ぼしたりする恐れがある人を、2人以上の精神保健指定医が診断し、一致した場合に行政の権限で強制入院させる「措置入院」は、およそ1400人でした。
この差が医療保護入院制度の特殊性を表しているといえます。
去年10月、世界メンタルヘルスデーにあわせ、江口さんと西前弁護士は人権擁護団体の依頼で対談を行いました。
江口さん
「(入院中)書いた字を読んでみたら、私にはわからないんです。そういう字になってるんですよね。『ミミズ字』。だから、そういうあれでね、かなり薬は強いかなと思ったりしてね、で、失禁をしたり、いろいろそういうね、まず目が、字が二重三重に見えたりして」
西前弁護士
「ちなみにその薬をね、薬をね、飲んだかどうか、舌を、口を開けさせて、チェックまでしてたと。でも、でも、そのチェックをくぐり抜けて、一部は捨てて、全部は飲まなかったからこそ、脱出できたかもしれないですよね」
江口さん
「これで病院でいいのかな、と思ってね。いつもそれを、なんて言いますか、疑問を感じつつ、病院のやることじゃないな、という、病院の先生の言う言葉じゃないな、とか、そういうことを頭にずっとしみ入っています。今でも、時々思い出しております」
日本弁護士連合会は、こうした強制入院制度の廃止を求める決議を2021年に採択し、その後、法律の改正案を示すなどしています。
西前弁護士
「強制入院っていうことで、人のその人権を奪ってまで無理やり入れるんだから、ちゃんと行政が責任を取ってくださいということで、その行政の措置としての入院に一本化して私人が私人がやってしまうのはなくしましょう、という形でやっていくっていうのは方向としていいんじゃないかなと思っています」
取材した田近記者です。
行政が関わる措置入院に比べて比較的簡単な手続きで入院となる医療保護入院の現状にはいろいろ問題点がありますね。
人権を守るという意味でも実施の判断は厳格かつ慎重であるべきだと思います。
しかし現実には、江口さんのケースのように誤った制度の運用があります。
県に届けられた医療保護入院が適切かどうかきちんとチェックされているのでしょうか。
県の精神医療審査会が医療機関から出された入院届が適当かを審査していますが、おととしまでの10年間、合わせて1万8400件余りの医療保護入院は、全て適当という結果でした。
100%ですか?
全国でも同じような高い割合です。
西前弁護士は「事後追認機関」だと指摘しています。
今回、法改正を目指す弁護士会や国会議員の勉強会などの動きをお伝えしましたが制度の抜本改革は道半ばです。
引き続き取材を進めます。
