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いじめや不倫などの「被害」に遭った側が、SNSで告発する風潮が止まらない。関係機関に相談しても解決しなかった問題が、告発によって一気に動く可能性があるからだ。

だが、その代償も小さくない。民事上の損害賠償を負うリスクにとどまらず、ときには刑事罰を科されるなど、法的責任を追及されることもある。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●配偶者の不倫疑惑めぐり、妻がSNS上で投稿を繰り返した

今年1月、夫の「不倫相手」と指摘する情報をSNSに投稿していた女性に対し、東京地裁は150万円の賠償を命じる判決を言い渡した。

判決文などによると、原告のA子さんは、被告である妻の夫(いずれも当時)と性行為を伴わない「不貞行為に準じた行為」に及んだとされる。

裁判に至る前の2023年、A子さんが妻に謝罪し、今後は夫と接触しないことや慰謝料を支払うことで示談した。これには、お互いが誹謗中傷しないという約束も含まれていた。

その後も妻はSNS上にA子さんの情報を投稿していたことから、2024年には、投稿1回につき違約金50万円の支払いなどを約束する公正証書が改めて作成された。

それから数カ月後、妻はおよそ2週にわたり、A子さんの氏名や住所、顔写真、生い立ち、勤務先といった情報をSNSに繰り返し投稿したうえで「旦那の不倫相手」などと指摘した。こうした投稿は17件に及んだとされる。

これらの投稿を受けて、A子さんは妻を提訴し、公正証書の合意に基づいて計850万円を請求した。

●妻は一連の投稿後に自殺未遂したと主張

東京地裁の川北功裁判官は判決で、妻が支払うべき違約金は200万円と判断し、それを超える部分については公序良俗違反として無効とした。すでに支払い済みだった50万円を差し引いた150万円の支払いを命じた。

妻側は、一連の投稿について、A子さんが示談の合意に反して夫と接触したことがきっかけであり、自身が自殺未遂に至るほど重大なものだったと反論した。

一方、A子さん側は、公序良俗に反しておらず無効にならないと主張していた。双方のこれらの主張は採用されず、A子さんは控訴している。

弁護士ドットコムニュースは、A子さんと妻に考えを聞くため、双方の代理人を通じて取材を申し込んだ。

●A子さんは判決を不服として控訴した

A子さんは取材に対して「単なる名誉毀損にとどまらず、多数の個人情報が公開された点や、訴訟前から違反行為が繰り返された経緯を踏まえると、判決とは受け止めに相違があると考え、控訴しました」と控訴理由を明かした。

「住所を晒されたことにより引っ越しをせざるを得なかったこと、電話番号やSNSが晒されたことにより不特定多数から連絡が来たことが主な被害です」(A子さん)

示談や公正証書の締結、警察からの2回の警告を経ても執拗な違反行為が止まなかった」ため、提訴に踏み切ったという。

妻側にも見解を求めたが「今後の審理の影響を避けるため、現段階での回答は差し控え」とされた。

●SNS上の「告発」に寄せられる共感

妻はSNS上で、同じように配偶者に「不倫」された一部の経験者から支持を受けている。

不倫をめぐっては、同じような「被害者」が励ましあったり、訴訟対策などの知見を交換する動きがある。

背景には、不倫で受けた精神的苦痛が、損害として低く見積もられているとの不満もあり、当事者以外からも共感が寄せられることもある。

判決文によれば、裁判で問題とされた投稿の中で、妻は、自分を捨て身にしてA子さんの人生を壊したいと思って行動したことも明かした。法的責任が問われるリスクを承知だったことも察せられる。

●弁護士のもとに「相手を社会的に抹殺したい」

男女問題にくわしい原口未緒弁護士のもとには「相手を社会的に抹殺したい」「法的リスクは承知のうえで名誉毀損も辞さない」といった相談が寄せられるという。

「そのような依頼者には、相手に不倫の慰謝料を請求するなど、法的に許される最大限の範囲で行動を起こすことを助言しています。

相手のことをネットで晒すなどとしようとされる場合は、法的な問題になりうるからやめるように伝えています。そうなる前に弁護士に相談してほしいと思います」

●「協力者」も賠償請求されていた

実は、今回の訴訟のなかで、A子さんは自身の個人情報を妻に渡した知人に対して損害賠償を求めて、すでに判決が出ていることも明らかになった。

A子さんは「SNSでは背景や事実関係が十分に共有されないまま、一部の情報のみで評価が形成されることが少なくないと感じています。本件に限らず、事実関係が不明瞭なまま、誹謗中傷や拡散がおこなわれる現状は慎重に考える必要があると思います」と話す。

●子のいじめで追い詰められた両親は「唯一残された手段だった」

民事上の損害賠償責任を追及されるだけでなく、場合によっては刑事罰が科されることもある。

昨年10月、小学校に通う子どものいじめ被害に悩む都内在住の両親が名誉毀損罪に問われ、それぞれ罰金20万円の有罪判決を言い渡された。

この両親は、同じ小学校に通っていた児童が「いじめに関与している」とする内容のビラを、児童が住む集合住宅の郵便受けに投函し、家族の名誉を傷つけたとして起訴された。

被告人質問で母親は、ビラの投函が「唯一残された手段でした」と述べた。父親も「正しいものではなかった」と反省しながらも「他の行動ができたのかいまだにわからない」と振り返った。

犯行前には、子どもがいじめを悲観して自殺未遂する出来事もあったとされる。

●前科がつけば仕事や生活に影響

東京地裁の宮田祥次裁判官は、数十戸に投函されたビラの内容が児童らの社会的評価を低下させたと認めた。

また、子どもが自殺未遂に至ったことを踏まえ、改めて公的機関に相談に行くなど、両親には他の選択肢もあったと指摘。名誉毀損罪が成立すると判断した。

父親は法廷で、前科がつけば海外渡航できなくなり、仕事や生活に影響が出てしまうとして、無罪を求めていた。

両親は判決を不服として控訴している(取材を求めたが「遠慮したい」ということだった)。

元の被害が適切に“救済”されなければ、不満は告発という形で噴出しやすい。

もちろん、中には社会的意義があるケースもあるかもしれないが、大きなリスクを伴うのも事実だ。

また、注意しなければいけないのは、SNSユーザーに見える情報は、ことの全容を伝えるものとは限らないことだ。

告発は感情を大きく揺さぶるかもしれないが、こうした情報は一面的であることもあり、冷静に向き合う必要がある。

●A子さん「被害者の立場を放棄することになる」

不倫やいじめに限らず、昨年来、学校現場の暴行やいじめ被害をSNS上で告発する動きが盛んとなり、教育現場に混乱も招いている。

先のA子さんは、SNS上の被害告発の動きについて、このように考えを述べる。

「被害や問題を訴えること自体は悪いことではないと思いますが、その過程で自身が結果として違法と判断される行為に及んでしまった場合、被害者の立場を放棄することになるという自覚が必要だと考えます」