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優秀な人材を確保するために、あえて「退職金」という縛りを手放す。そんな逆転の発想を20年以上も前に実行していたのがユニクロです。当時、人事責任者が厚労省と交渉してまで実現させたのは、会社が決めるのではなく社員が自分で選ぶ「選択制」の導入でした。本記事では、岩崎陽介氏の著書『頭のいい会社はなぜ、企業型確定拠出年金をはじめているのか』(青春出版社)より、ユニクロの事例が教える教訓と、実利面での差について解説します。

「退職金」が経営を圧迫する可能性も

企業によっては、退職者のために、退職一時金を積み立てているところもあります。このやり方はリスクが伴う手法です。退職者が出るたびに支払いが発生するので、退職人数に応じて大きく払う費用が変わってきます。

きちんと退職金分を避けて管理していればいいのですが、特にそのようにしていない場合は注意が必要で、経営に大きく影響を与える事象になりかねません。それに対して、確定拠出年金は、毎期損金処理していくので、支払いが集中せず、リスクが分散されます。

「企業型確定拠出年金」なら、老後のお金が“自分事”になる

企業型確定拠出年金以外の企業年金・退職金制度は、積立金の管理・運用を、従業員以外の外部の組織が行います。それゆえ、従業員は、制度や積立金に対してそれほど意識を向けておらず無関心であるケースが多いのです。言ってしまえば、他人事だからです。

それに対して、企業型確定拠出年金は、従業員自身で積立金を管理・運用しなければいけないがゆえに、否が応でも制度や積立金に対して意識がいきますし、考えなければいけなくなります。このことで、制度自体や積立金が自分事になります。

経営者としては、従業員のためを思って、何かしらの企業年金制度や退職金制度を導入していることと思います。ただ、悲しいかな、従業員側から見ると、自分の会社にどんな退職金が用意されていて、どれくらいの金額をもらえるのか、などはほとんどの方が把握していません。

経営者としては、従業員のために、将来に少しでも安心を感じてもらいたい。また、そうやって福利厚生を充実させることで、自社で働くことの喜びを感じてほしい、と思っているはずです。しかし、従業員が、そもそも自社の制度についてそこまで詳しく認識していなければ、その経営者の思いは伝わっていないのと同じです。

企業型確定拠出年金を会社の退職金制度にすれば、その心配はなくなります。自分で掛金をどれくらい出すかも決めることができますし、その運用方法も自分で選択します。

従業員が、他人事から自分事として考えるようになるのです。企業型確定拠出年金は、積立金が見える化、意識化できる制度ともいえるのです。そこで、将来のお金の不安から少しは解放されるかもしれませんし、そのような制度を整えてくれている会社へのロイヤリティも高まるかもしれません。

企業年金・退職金を見える化、意識化することは、経営者の思いを従業員に正確に伝えるためにも重要なのです

企業型確定拠出年金が、「自立した人材」をつくるきっかけに

そして、従業員が自分自身のお金について考えるようになったり、資産運用に対して興味を持ったり、お金のことを勉強したりと、さまざまな効果も生まれてきます。

実際に企業型確定拠出年金を導入している企業の従業員からは、「将来や投資について考えるようになった」「退職後の生活設計や老後資金を考えるきっかけになった」「企業型確定拠出年金加入を機に投資をはじめた」などの声はよく聞かれます。中には、「新聞をよく読むようになった」という方もいます。

自分のお金のことを自分で考えたり、運用を自分でやっていけるようになることは、お金の不安なく、豊かな人生を歩んでいくためには必要なことです。

企業型確定拠出年金が金融リテラシーを高め、お金の面で自立した人材へと成長を促すきっかけを与えたわけです。

会社が守るというより、自分で自分を守れる強い個へと成長していってもらうことこそ、真の意味で従業員のためなのではないでしょうか。そのように成長できれば、回り回って、本業にもプラスの効果は間違いなくあるはずです。

社員の貢献に“即時払い”で応える…ユニクロが予見した日本の未来

日本で企業型確定拠出年金が導入できるようになったのは2001年で、当初は、個人が拠出するかどうか、金額をどうするか、などは選択できず、会社が決めるもの、という状態でした。実は、今でいう“選択制”の企業型確定拠出年金を日本で一番初めに導入したのはユニクロでした

当時、ユニクロの人事執行役員であった松岡保昌さんは、次のような世界観を持ち、“選択制”での導入を厚労省と交渉したそうです。

「社員の企業への貢献に対しては、即時払いの報酬で応える。その報酬を老後に備えて蓄えたい社員もいれば、いま使いたい社員もいるだろう。それを決めるのは社員本人。自分の人生やライフプランは社員が自分で考えることで、会社が決めることではない。だから確定拠出年金に加入するか、加入しないかも社員が自分で決めてほしい。自分の将来を自分で考える力を当社は社員に求めている」

その結果、厚労省は日本で初めて“選択制”での導入を認めて、今に至ります。松岡さんは、約20年も前から今の「働く期間が長くなり、多くの人が50年近く仕事をする時代」の到来を予見していました。

「50年という数字は、下手すると企業の寿命より長い。そんな時代、会社としては、保証を与えるより、強い個になるための支援をしていく、という発想が必要だ」と考えたわけです。

また、転職などが当たり前の時代、従業員をグリップする(関係性を維持する)施策を講じないと優秀な人からどんどん離れていきます。

「社員をきちんとグリップするためには、会社としての社員に対する想いや考え方を示していかなければいけません。福利厚生の充実はその一環と捉え、真摯に取り組んでいかなければいけません」(松岡さん)

これからの経営を考える上で、「自立した個になるための支援を会社がする」「社員への想いや考えを示し社員をグリップする」というような考え方は、参考になるのではないでしょうか。

ぜひ、皆様の会社にも活かしていってください。

岩崎 陽介

株式会社Financial DC Japan

代表取締役社長