(※写真はイメージです/PIXTA)

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かつて「学歴社会」は、古い時代の遺物として批判の対象になることが多くありました。しかし、AIの台頭によって労働市場が激変するなか、その価値観に変化が起きています。最新調査では、意外にも若年層ほど学歴の必要性を強く感じているという結果が出ました。ある若手ビジネスパーソンのリアルな声から、学歴の再定義について見ていきます。

高学歴でも安心できない!若手社員、AI時代の焦燥感

「会社は『実力主義』とか『人物重視』なんて言っていますけど、実際は学歴でランク分けされているのがバレバレなんですよ」

都内の大手企業に勤める佐藤健太さん(26歳・仮名)。出身は、いわゆる「MARCH」の一角を占める有名私立大学です。新卒時の就職活動では、その肩書きが大きな武器になったと自覚しています。

昨今の深刻な人手不足もあり、佐藤さんの勤める会社でも若手の賃金が大幅に引き上げられました。現在の彼の月収は約32万円。これにボーナスが加われば、20代半ばとしてはかなりの高水準です。しかし、この「若手優遇」が社内の微妙な空気感を生んでいると語ります。

「30代後半の中堅層からは、『羨ましいよ。俺たちが新卒だったころは月20万円そこらで、サービス残業も当たり前だったのに』なんて愚痴をこぼされることがしょっちゅうです。上の世代からすれば、自分たちより経験の浅い若手が高い給料をもらっている状況が、面白くないのでしょう」

そう語る一方で、佐藤さんの胸の内にあるのは自信ではなく、むしろ焦りです。社内の評価制度を冷静に見渡すと、ある現実が透けて見えるからです。

「配属先も昇進のスピードも、結局は学歴順だと感じます。同期のなかでも、やはり早慶や旧帝大卒は、チャンスの多い花形の部署に優先的に配属されている。私自身の評価も、仕事の実績以上に『MARCH卒ならこれくらいはできるだろう』という期待値で底上げされている部分がある。そこは否定しません。でも、今の実務で使っている知識って、大学で習ったこととはほぼ無関係なんですよね」

特に最近は、生成AIの台頭で仕事の仕方が激変しました。

「これまで時間をかけていた作業がAIで一瞬にして終わるようになり、会社から求められるスキルのハードルが急激に上がりました。そうなると、大学の名前という看板だけでは、いつまで通用するか分からない。同僚とも『もし戻れるなら、今の仕事に直結するデータサイエンスなど、より専門的な学部を選び直したいよね』とよく話しています」

「学歴は自分を守ってくれるもの。これからも必要だとは思う」と話す佐藤さん。一方で、学歴の肩書きだけではいつか仕事がなくなる――そんな不安が消えないといいます。

2年で5ポイント上昇……「学歴の必要性」が再評価される背景

パーソルキャリア株式会社/Job総研による『2026年 学歴とキャリアの実態調査』によると、学歴社会を「必要」と回答した人は71.0%に達し、2024年の調査時から5.0ポイント上昇しました。特に注目すべきは年代別の結果で、20代では79.8%と、約8割が学歴社会の必要性を肯定しています。この背景には、AI時代特有の「専門性への渇望」があります。

同調査では、もう一度学歴を選べるなら「違う学歴を選ぶ」と答えた人が51.3%にのぼり、その理由の第1位は「AI時代に強い専門性を得たい(34.6%)」でした。単なる大学名ではなく、そこで何を得られるかという「教育の質」への意識が高まっているのです。

また、公的なデータを見ても、学歴がキャリアの初期段階において重要な指標である事実は揺らいでいません。厚生労働省『賃金構造基本統計調査』などでも大卒・院卒の初任給は上昇傾向にあり、企業側が高度な教育を受けた人材を確保しようとする姿勢が顕著です。文部科学省『学校基本調査』においても、大学進学率は過去最高水準を維持しており、学歴が社会進出の標準的なステップであることに変わりはありません。

しかし、今回の調査結果が示唆しているのは、単なる「学歴至上主義」への回帰ではありません。学歴を「努力を評価する客観的な指標(65.5%)」や「論理思考力の証明(61.8%)」として捉える向きが強く、AIという予測不可能な技術と共生する上で、個人のポテンシャルを測る数少ない「信頼できる物差し」として再評価されているといえるでしょう。

――学歴なんて古い。けれど、必要。

そのような複雑な感情を抱きながらも、現代のビジネスパーソンは自らの価値を証明するものとして、学歴という指標と向き合い続けています。

[参考資料]

パーソルキャリア株式会社/Job総研『2026年 学歴とキャリアの実態調査』