「稼ぐ社員こそが正義」プルデンシャル生命元社員が語る「 31億円詐取」の温床となった売上至上主義
「マイ・クライアント」になれ
フラッシュを浴びながら、経営陣は深々と頭を下げた。’26年1月23日、プルデンシャル生命保険が開いた記者会見。壇上に並んだのは、間原寛社長(2月1日付で引責辞任)ら同社のトップマネジメントである。
「膿(うみ)を出し切る覚悟で確認を行ってきた」
調査結果によると、1991年から2025年にかけて社員・元社員107名が関与し、503名の顧客から計約31億円を不適切に受領したことが判明。架空の投資話や金銭の借り入れが常態化していたという。
外資系生保の雄として「最強の営業集団」の名をほしいままにしてきた同社で、なぜこれほど大規模な組織的逸脱が起きたのか。フライデーデジタルは、同社の内情を熟知する元ライフプランナー(以下A氏)の証言を得た。そこからは顧客に寄り添うという営業スタイルの裏で、末端の社員が必然的に不正に走っていく組織の歪んだ実態が浮かび上がってきた。
プルデンシャル生命の営業マン、通称「ライフプランナー(以下LP)」は、単に保険を売るだけの存在ではない。記者会見で、間原寛社長が、
「お客様に1人の営業社員が一生涯担当する『マイ・クライアント』という考え方が、お客様と営業社員の関係性の根幹」
と語ったように、LPには顧客の人生すべてに関わる”コンシェルジュ”としての役割が求められている。
「単なる保険の営業マンになるな。お客様の人生のパートナーになれ。会社は僕らにそう教えます。お客様の困りごとがあれば、保険以外の分野でも人脈を駆使して解決する。それが『優秀なLP』の証だとされていました」(A氏)
ありとあらゆる要望に応えられるのが、優秀な”コンシェルジュ”たちの仕事だという。
「たとえば、お客様から『ベンツのゲレンデが欲しい』と言われれば、中古車屋を。『マンション一棟欲しいんだけど』と言われれば、不動産の仲介業者を紹介する。僕らはそうやって人と人をつなぐハブになることで、顧客の信頼を勝ち取り、最終的に保険契約に結びつける。会社も『人脈を広げ、見込み客を見つけろ』と、そういうスタイルを称賛していました」(A氏)
しかし、このスタイルは「会社が関知しない場所でLPが顧客の資産に深く介入する」という危うい土壌を作り出した。さらに歪んだ報酬体系と結びつき、この”コンシェルジュ・システム”はその欠陥を露呈していくこととなる。
絶大な権力を持つ社員の存在
なぜ、これほど多くのLPが「不適切な金銭受領」に走ったのか。背景には、より深刻な構造的問題があったという。プルデンシャルには「エグゼクティブ・ライフプランナー」という最高位の職位が存在する。彼らは社内で神格化され、時には経営陣すら口を出せない権力を持つという。A氏は、
「彼らで構成される『エグゼ会』での決定が、今回の事件の隠れた原因の一つだと思います」
と指摘する。
「5年ほど前、エグゼ会で、ある議題が挙がりました。『若手の質が落ちている。採用を絞って精鋭化すべきではないか』と。しかし、別のエグゼは全く違う懸念を口にしました。『待てよ。俺たちのボーナスはどうなる?』と」(A氏)
プルデンシャルの給与は、保険1件を売るごとにもらえる販売手数料、つまり「販売報酬」と、その成績に応じて上乗せされる「ボーナス」の2階建てだ。問題はこのボーナスの決まり方にある。ボーナスは「全社員の平均報酬」を基準に決める特殊な仕組みだという。
A氏によると、全社員平均の2倍を売り上げると、販売報酬とは別に、その8割相当という莫大なボーナスが上乗せされる。つまり、売れない社員が大量にいればいるほど全体の平均値(ハードル)が下がり、上位層は容易に「平均の2倍」というボーナス基準をクリアできるのだ。
「売れていない社員はドンドン辞めていきますから、社内に残るのは精鋭ばかりになり、全体の平均報酬が上がる。一番高い時の平均報酬は900万円くらいになっていましたね。そうなると、ボーナスの算定基準である”平均の2倍”を超えるのが難しくなってしまう。だからレベルが低くてもいいから、ともかく『人を増やそう』という意向がエグゼ会の中で共有され、会社もその意向を汲み取り、結果的に質の低い社員が大量に採用されるようになったのです」(A氏)
では、なぜ一介の営業社員に過ぎない彼らが採用方針まで歪めることができたのか。A氏はプルデンシャルのパワーバランスをこう語る。
「社内においてエグゼクティブは『神様』であり『横綱』です。会社の経営幹部の人事にまで口を出せるほどの影響力を持っています。たとえば業務報告は部下が上司に出すのが当然ですが、現場では逆転していました。所長(管理職)が年下のエグゼクティブの席までわざわざ出向き、『すいません、先週の活動結果表をお願いします』と頭を下げる。管理職になるのは営業として芽が出なかった『半端者』と見なされる一方、稼ぐエグゼこそが絶対的な正義だからです。上司が部下に媚びへつらう環境で、ガバナンスなど効くはずもありません」(A氏)
「頭を使って副業しろ」
入社3年目以降、LPから固定給は消滅し、報酬は業績に連動する。法に基づく最低賃金は保障されているものの、LPは交通費や顧客への接待費、贈答品代などを全て「自腹」で負担しなければならない。A氏は、年収400万円程度の若手LPの例を挙げる。
「年収400万円といっても、そこから多額の活動経費を差し引けば、手元に残る金は生活していくには足りません。ある若手が支社の管理職に生活苦を吐露したところ、『稼ぐ方法は保険だけじゃないんだから。頭を使って副業しろ』と言われたそうです。不動産でも投資でも、人脈を使って頭を使って稼げ、ということです。そうやって追い詰められた社員が、顧客に投資話を持ち掛けておカネを受け取ったり、紹介料目当てで怪しい投資話に加担してしまうんです」(A氏)
この実態に対し、1月23日の記者会見において間原社長も、
「収入の不安定さが、不適切行為につながった」
と、はっきりと認めている。コンシェルジュとして培った人脈ネットワークが、生存のために「不適切な集金装置」へと変質したのである。
実際、今回の調査で判明した不正行為者の大半は、成績不振者だったとみられている。しかし、A氏は、不正認定された107人の中に、
「社内でもトップクラスの稼ぎ頭であるエグゼクティブが数人含まれていた」
という。
「幅はありますが、エクゼの年収は5000万円くらいですよ。彼らは紹介料欲しさに、その地位を捨てるようなリスクを冒すはずがないのです」
では、なぜ彼らは不正と認定されたのか。
「コンシェルジュというシステム自体が持つ、落とし穴があるのです。例えば、太客から『3000万円でフェラーリが欲しい』と頼まれ、善意で知り合いの中古車屋を紹介したとします。ところが、その業者が金を持ち逃げしたり、倒産して納車されなかったりしたらどうなるか。顧客からすれば『お前の紹介だろ』となる。今回の調査ではこんなトラブルも『不適切な金銭トラブル』としてカウントされているのです。結局、優秀なLPはその優秀さが故に、たくさんの顧客の要望に応え、結果、たまたま起きた紹介先のトラブルに巻き込まれてしまう」
「人脈を使え」と言いつつ、会社はそこで起きたトラブルの責任を個人に押し付けてしまった可能性があるのだ。
「そのような事実はございません」
フライデーデジタルは、プルデンシャル生命に、これらの事実関係について質問。エグゼ会による社員採用への介入については、
「そのような事実はございません」
とし、不正を行った元社員らの中にエグゼクティブが数名含まれていたか否かについては、
「公表文に記載の弊社社員・元社員の詳細についての回答は差し控えさせていただきます」
と回答した。上司による副業の示唆に関しては、
「そのような事実は把握しておりません」
と否定。報酬制度については回答を控えた。また、紹介先で起きたトラブルが不正事案に含まれるかについては、
「社内規程で取り扱いが認められていない投資商品やその取扱業者などをお客さまに紹介した事案を含んでおります」
と説明。そして、顧客からの新たな被害申告があった場合には、
「適切な調査を行う」
としている。会社のこの見解についてA氏は、「会社としては『事実はございません』と答えるしかないでしょう」とした上で、こう反論する。
「エグゼ会には役員も参加します。そのエクゼ会で、『ボーナス維持のために人を増やそう』という議論が行われ、その意向が会社に共有されたされたことは間違いのない事実です。副業に関しても、もちろん社内規定では禁止されています。しかし、ここ数年で所長になったような若い世代はモラルが欠如しており、自分の採用責任(ペナルティ)を逃れるために『辞めるな、副業で食いつなげ』と指導している実態は確実にあります」(A氏)
1月23日の会見で、会社側は「膿は出し切った」と強調した。1991年からの三十余年にわたる調査結果だというが、A氏はこんな見方をする。
「会社は1991年からの累計だと言っていますが、実際には社員の質が急激に下がったここ数年の事案が相当数を占めているはずです。その質の低下ぶりを肌感覚で知る身からすれば、今回の107件という数字は少なすぎる気がする。実際にはもっと不正が潜在していると思います」
最強の営業集団を支えていたのは、顧客とのパイプを強力にする独自の企業文化だった。しかし、それが公私の境界をあいまいにし、倫理的なハードルを下げてしまった事実は否めない。
今回の不祥事は、プルデンシャルを「最強」たらしめてきた”コンシェルジュ・システム”を状況に合わせてアップデートできなかった、制度疲労の必然の結果だったのではないだろうか。
取材・文:酒井晋介
