この記事をまとめると

■同じ車名で「セダン」「ワゴン」「ハッチバック」と複数モデルを展開するケースがある

■空力や剛性など形状によってそれぞれ異なることも珍しくない

モータースポーツの世界では3ボックスセダンが愛される傾向にあった

ボディ形状による走りの違いとは

 現代のクルマは、ミニバン、SUVが市場の趨勢を占めているが、それ以前のクルマは3ボックスセダンがごく常識的、標準的な存在だった。大ざっぱないい方だが、1990年代中盤頃までこうした傾向は続いていた。そして、こうしたモデルのいくつかには、共通するクルマ作りの特徴があった。

 それは、3ボックスセダン(4ドアセダン)を基本型としながら、2ドアクーペ/2ドアハードトップ、3ドア/5ドアハッチバック、さらにはワゴンまで派生モデルをリリースしていたことだ。現在は、車種の増加に併せて車両性格の細分化が進んだこと、また、基本モデルから派生モデルへの発展がむずかしくなったことなどから、単一モデルとして上梓される例がほとんどだが、かつては一石二鳥、一石三鳥、場合によって一石四鳥まで意図した車型構成のモデルも少なからず存在した。

 基本(アンダーフロア)が同じ、違うのは建屋(ボディ形態)だけということで、作り手としては複数のモデルを基本から設計・生産する必要はなく、派生型モデルのリリースはコストパフォーマンスに優れた効率的な車種設定・生産が行えるというメリットがあった。多様化するユーザーニーズに臨機応変、対応した結果のことだ。また、ユーザーである市場の評価眼も、フォーマルな3ボックスセダン、スポーティでスタイリッシュな2ドアクーペ、ユーティリティに優れたワゴンとそれぞれを異なる価値観で受け止めていた。

 さて、気になるのは、同一シリーズでボディ形状の違いがあるそれぞれのモデルの走りの違いではなかろうか。動力性能、運動性能、ハンドリングに違いはあるのか、またあるとすればどう違うのか、といったようなことだ。

 結論からいうと、モデル性格に応じて搭載エンジンやサスペンション形式・仕様などが使いわけられていたため、たとえばセダン、クーペ、ワゴンの3タイプを単純にボディ形状の違いだけで評価することはできなかった。車両重量やエンジンパワーなどが異なっていたためだ。

 派生モデルを複数リリースする車両作りは、まだ車種数の少なかった1960年代後半からバブル期まで多く見られた手法で、代表的な成功例を挙げると、トヨタでいえば40系コロナ(リヤにハッチゲートをもつ5ドア仕様、別にバン車型もあり)、70系カローラ(2/4ドアセダン、2ドアハードトップ、3ドアハッチバッククーペ、5ドアハッチバック、ワゴン)、日産でいえば510/610系ブルーバード、C10〜R31系スカイラインなどということができるだろう。

 余談だが、C10系スカイライン(とくにGT系:GC10とPGC10)の場合は、3ボックスセダンと2ドアハードトップでホイールベース長が70mm異なるという特殊なクルマ作りがおこなわれ、ショートホイールベースの2ドアハードトップのほうが運動性能(レース仕様車ではボディ剛性も)に優れるという評価があった。

 どのモデルにも共通して見られる傾向は、もっともスポーティな2ドアクーペに強力なエンジンが与えられ、サスペンションや装備類もそれに見合った仕様で商品化されていたことだ。単純にボディ形状の違いだけで性能の違いを指摘するのはむずかしいが、それぞれのボディ形状に準じた特徴を挙げてみよう。

ボディ形状による走りの違いとは

 まず、4ドアセダンだが、ボディ構造的にはセンターピラーをもつだけに車体剛性的には捻り、曲げの両面に対して高い。なお、単純にドア枚数を減らしただけの2ドアボディも4ドアに準じると考えてよいが、デザイン優先でセンターピラーのないハードトップボディの場合は剛性面で劣ったようだ。

 ワゴンボディ、あるいは5ドアハッチバックボディはどうか?

 これらはリヤに大きな開口部をもつため、やはり剛性的には3ボックス形状より不利だが、ルーフが車体後端まで長く伸びた形状であることから、車体後部の空力では逆に有利になる面ももっていた。

 では、ボディ形状の違いによる空力性能の差だが、空力性能を大きくわけると、空気抵抗の大小、ダウンフォースの大小という、背反するふたつの要素によって構成されている。同一車種でホディ形状の違いによる空力性能差は、主に車体の後部形状の違いによるものだが、よく知られるように速度の2乗に比例する空気抵抗値は、前面形状がほとんど同じ(前面投影面積もほとんど同じと考えてよい)同一車種の場合、かなりの高速走行域にならないと明確な差は生じてこない。

 逆のいい方をすれば、たとえばリヤエンドにスポイラーをもつスポーツグレードなどの場合(認可されたのは1990年代と考えてよい)は、それだけでリヤのダウンフォースを増す効果があるので、ホディに空力付加物を持たないモデルと較べて高速走行時の安定性で有利になるという利点がある。

 では、車体剛性や空力の違いがもたらす走行性能の違いだが、厳密にいうなら車体剛性が高く、空力に優れたボディ形状が有利であることは確かだが、空力や車体剛性の解析レベルが、ひとつの車種でさまざまなモデルを展開していた1960年代後半からバブル期では、現代と較べるとかなり遅れていた(それほど重要視されていなかった)ということも見逃してはならない。

 それでも、たとえばボディ剛性についていえば、秒単位の遅速が問われる競技車両、たとえばラリーカーの場合、セダン、ハードトップ、3ドアハッチバックに2T-G型DOHCエンジンを用意していた70系カローラの例を見ると、ラリー参加者の一部はボディ形状の違いによる車体剛性の違い、また、車両重量がもっとも軽かった(他モデルよりマイナス20〜30kg)ことから、3ボックスセダンを好んで選ぶ傾向があった。ただ、そのことが戦績に直結したという結果は残っていない。

 そのほか、ボディ形状の違いから考えられる性能への影響は、車両重量の違いが挙げられる。当然ながら、車両重量は軽いほうが運動性能は良化する。また、前後/上下、前後オーバーハング重量のバランスも大きな要素となる。とくに重心点、ロールセンター/ロール軸の違いが問題となるが、正直にいって、この時代の性能配慮がそこまで進んでいたとは考えにくい。もちろん、低重心、適切なロールセンター位置、ロール軸の傾きなどが走行性能に影響することは明らかだが、3ボックスセダンだから、ワゴンだからと熟慮して作られていたわけではないようだ。

 結果論だが、実車の状態から振り返ってみると、じつはベーシックなモデルとなる3ボックスセダンがいちばん性能バランスがよかった例が多い。なぜかといえば、3ボックスセダンを車両開発の基本としていたからだ。バランスに優れるのは、ある意味、当然といってよいのかもしれない。