μ's「それは僕たちの奇跡」

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 10年前の2015年、とある声優ユニットが、『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)の歴史に名を刻んだ。マルチメディアミックス作品『ラブライブ!』発のスクールアイドルグループ・μ'sである。

(関連:【映像】声優ユニット・μ's、活動に一旦区切りをつけた東京ドーム公演

 今年15周年を迎えた『ラブライブ!シリーズ』だが、10年前のあの熱狂が、シリーズをここまで大きな存在へと押し上げた一因だったことは間違いない。当時、9人の少女たちが放つ熱に人々が虜になっていく様は、まさに“社会現象”だったと言って過言ではないだろう。実際、『ラブライブ!』について深く知らなくても、名曲「Snow halation」や、「にっこにっこにー」といったフレーズに聞き馴染みのある方も多いはずだ。

■430枚から始まった奇跡 μ’sが描き、Aqoursが継いだ『ラブライブ!』の物語

 そんな、現在では巨大なコンテンツとなった『ラブライブ!シリーズ』だが、そのスタートは決して順風満帆ではなかった。いまだにファンやキャストの間で語り草になっているが、μ'sのデビューシングル『僕らのLIVE 君とのLIFE』(2010年)の初動売り上げ枚数が約430枚だったという話だ(リリース当時はμ'sというグループ名も存在していなかった)。現在ではCDを発売すれば、ほぼ毎作オリコンチャートTOP10入りを果たす『ラブライブ!シリーズ』の始まりとしては、考えられない数字だろう。ちなみに、そのうちの10枚は、高坂穂乃果役の新田恵海が、親族のために購入していたという(※1)。

 それほど、何もない真っ白なキャンパスのような状態だったコンテンツに、μ'sはファンとともに夢を描き、『ラブライブ!』を作り上げていった。2013年のアニメ化を皮切りに知名度は一気に上がり、2015年に劇場版が公開されてからは、社会現象と呼べるほどのセンセーションを巻き起こす。ちなみに、2015年12月15日に発売された劇場版のBlu-rayは、発売初週で約19万4000枚を売り上げ、当時のアニメ作品の初週売り上げで歴代4位の記録となっている。同年には『第66回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出場。そして、翌年の2016年3月31日、4月1日には、『ラブライブ!μ's Final LoveLive!~μ'sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪~』を東京ドームで開催。しかし、このライブをもって、μ'sは活動に一旦区切りをつける。

 ようやく世間に認められ、最盛期を迎えた中で彼女たちは終わりを選んだのだ。もしかしたら、それをもったいないと感じた人もいるかもしれない。だが、μ'sがスクールアイドルであることを思えば、その選択は必然だったと思うのだ。『ラブライブ!』で描かれるスクールアイドルは、高校生の間という限られた時間の中のみで活動できる刹那的な存在だ。劇場版でも「続けてほしい」という世間の声を振り切って、μ'sは終わりを選ぶ。そして、リアルでもμ'sはスクールアイドルのあり方をリスペクトするように、盛り上がりの最中であってもピリオドを打った。あまりにも唐突すぎる終わり。だが、瞬きする間にμ'sがみせた、限られた時間を精一杯駆け抜ける姿は、むしろ鮮烈に人々の瞼に彼女たちの存在を焼きつけた。それこそが、μ'sが今日まで伝説として語られる理由だろう。

 しかし、μ'sが第一線を退いたあとも、『ラブライブ!』のスピリッツは、確かに次の世代へと受け継がれていった。その精神を育て、シリーズとしての『ラブライブ!』を確立させたのが、第二作目『ラブライブ!サンシャイン!!』のAqoursだ。Aqoursの辿った道のりは、“苛烈”の一言に尽きるだろう。μ'sの偉大さゆえに、厳しい目を向けられ、μ'sが達成してきた偉業を当たり前のように求められた。だが、Aqoursは逆境の中であっても、『ラブライブ!』の炎を絶やさぬよう、自分たちの使命と真正面から向き合った。

 その結果、2018年には東京ドームでのワンマンライブを実現。同年末には、『第69回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出場を果たしている。そして、2019年1月には劇場版『ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow』を公開。同月に発売したシングル『僕らの走ってきた道は…/Next SPARKLING!!』は、シリーズで初めて「オリコン週間シングルランキング」で1位を獲得した(オリコン調べ/※2)。先代と同じ道を辿りながら、先代が成し得なかったことを達成したAqours。しかし、彼女たちはそこで満足せず、活動開始から約10年近く最前線で走り続けた。2020年以降はコロナでいくつもライブが中止になったが、2022年6月にはシリーズで唯一、二度目となる東京ドームでのライブを開催。さらに、シリーズ初のスピンオフ作品のアニメ化や、初音ミクとのコラボステージなど、彼女たちだけの輝きを提示し続けた。

 そんなAqoursも、10周年を迎えた2025年6月にはフィナーレライブを開催。解散や休止したわけではないが、本ライブをもって長い歴史にひとつの区切りが打たれた。ちなみに、フィナーレライブに合わせてリリースされたシングル『永久hours』は日本レコード協会でプラチナ認定を受けている。これは『ラブライブ!』のみならず、Lantisレーベル初の快挙だった(※3)。

■“みんなで叶える物語”は続く――熱が連鎖する『ラブライブ!』15年目の現在

 こうしたAqoursの軌跡もあり、μ'sが作り出した『ラブライブ!』は、“シリーズ”となった。そして、彼女たちに魅せられた人々が後に続き、シリーズに新しい色を足している。『ラブライブ!』における、ソロ活動の可能性を切り拓いた虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会。一般公募で募ったメンバーを加え、“叶える”という行為をより身近なものにしたLiella!。3Dモデルを用いてバーチャルとリアルを連動させる蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ。SNSを中心にリアル連動を図るいきづらい部!。現在では、主にこの4シリーズが、それぞれの強みを活かしながら『ラブライブ!シリーズ』に新たな可能性をもたらし、間口を広げ続けてくれている。

 近年では、外の世界に対する発信にもより力が注がれている。その最前線に立つのがLiella!だろう。シリーズ随一の高いパフォーマンス力を活かしたメディア露出の多さは、シリーズでも屈指のものとなっている。『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)には2021年から2023年まで3年連続で出演し、2024年には『FNS後夜祭』に登場。2025年4月から5月には、地上波初の冠番組『Liella!のちゅーとりえら!!』(日本テレビ系)が放送された。直近では、音楽番組『Venue101』(NHK総合)に、2025年10月、11月と2カ月連続で虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会とLiella!が出演している。

 シリーズ全体としては、『大阪・関西万博』で開催された『U-NEXT MUSIC FES』に、μ'sからいきづらい部!までの全6シリーズが参加。3日目を丸ごとジャックし、『ラブライブ!』の単独フェス『U-NEXT MUSIC FES LoveLive! Series EXPO 2025 STAGE ~Right now!~』を行った。あの日、さまざまなジャンルの最前線を走る“トップアーティスト”の一員として、『ラブライブ!シリーズ』が出演できたのは、各シリーズの活躍と、それを取り巻く人々の熱意があってこそだろう。加えて、2025年に巻き起こったAiSCream「愛♡スクリ~ム!」の世界的ヒットも欠かせない。有線で彼女たちの声を聴かない日はないし、ショート動画SNSをスクロールすれば、愛を叫ぶ人に必ず出会う。テレビや外部イベントにも引っ張りだこだった2025年は、恐らく、ここ数年で最も『ラブライブ!』の名が飛び交った年だったと言えるのではないだろうか。

 μ'sの活動開始から15年もの月日が経った。今もなお『ラブライブ!』の火は強く燃え続け、人々の心を打ち続けている。その理由を、あえてひとつに絞って挙げるとしたら、コンテンツとファンが持つ“熱”だと考える。『ラブライブ!』を愛し、それを体現するキャスト。彼女たちが届ける熱に、最大限の“好き”で応えるファン。コンテンツから生まれた熱と、それを受け取ったファンの熱が相乗効果を生み、『ラブライブ!シリーズ』の世界は広がり続けていく。だからこそ、この場所に身を置いていると、胸の奥が熱に満たされ、どこまでも走り続けられるような感覚を覚えるのだ。

 『ラブライブ!シリーズ』はコンテンツコンセプトとして、“みんなで叶える物語”を掲げてきた。そんな物語は、“夢”と“好き”の数だけ今も生まれ続けている。そして、叶えたい夢が生まれる限り、これからもスクールアイドルは歌い続けるだろう。

※1:https://x.com/nittaemi85/status/1955549265041985786※2:https://www.oricon.co.jp/news/2128379/full/※3:https://gamebiz.jp/news/399054

(文=北野ダイキ)