軽量なボディを持ち、大排気量エンジンを搭載するという点、そしてレースフィールドで大活躍した”バードケージ”のヘリテイジは、まさに奥山の水素エンジン・スポーツカーに対するイメージにぴったりであった。F61Hは気体水素を専用インジェクターからポート噴射するシステムを採用しているが、ガソリンと水素では燃焼速度や特性が大きく異なり、そのコントロールには経験に基づいたノウハウが必要である。

水素化によっても充分な馬力は確保できるが、ガソリンエンジンと比較してトルクは薄くなる。そこで、大排気量エンジンと高い親和性があるというのだ。今回の水素化においてはガソリンエンジンのスポーツカーのフィーリングを保持することが大きなテーマであり、その上で、CO2排出ゼロのクリーン・エミッションを実現するというミッションが課された。

奥山は最新のハイパーカーを手掛けるだけでなく、カーガイとしてクラシックカーで世界中のカー・イベントに参加し、クラシックカー・ソサエティに関しても様々な問題意識を共有している。

「BEVは日常生活では間違いなく大きな存在となっています。しかし次世代へ向けて投資的価値の維持が求められる趣味性の高いハイパーカーにとってバッテリーや制御システムの寿命は大きな問題です。バッテリーセルは入手できても、それが収まる箱である専用設計のスタックをメーカーは永久に作り続けることができるでしょうか?それが果たして、皆が愛するクラシックカーになり得るか? 100年後のペブルビーチ・コンコースデレガンスに並ぶ車になり得るか?そして、内燃機関ならではのドライビングプレジャーにも拘りたいじゃないですか。そんなワケで水素エンジンという選択肢をぜひ残したいと思い、このプロジェクトを進めているのです」と奥山。

そう、このガソリンエンジンの水素化によって、これから100年先まで私たちは内燃機関を楽しむことができるのではないだろうか。環境への負荷に対して厳しい対応のEU圏内では、歴史的な公道ラリー競技ですら、主役たるクラシックカーが市街地へ侵入できないという事態が既に発生しているのだから、時間の猶予はない。

イベントではF61Hのデモランも披露された。今回の個体はベースとなるkode61 Birdcage 3号車のリアに大きな構造の改造無しに一基の汎用水素タンクを押し込んだだけであるから、巡行可能距離はまだ微々たるものだ。しかし、これから制御システムのアップデートやボディ形状にマッチした大容量タンクの装着によって、大きく改善可能という。さらに、カートリッジ式の数秒で交換可能な水素タンクの開発も進行中だという。