Shinichi EKKO

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「たかだか50名あまりの小さな所帯である私たちがなぜ、水素エンジン・スポーツカーの開発に取り組んでいるのか、そのワケを今日お話ししましよう」

【画像】Ken Okuyama Carsによる「F61H水素燃料自動車プロジェクト日本先行プレビュー」の様子(写真8点)

去る9月1日、袖ヶ浦フォレストレースウェイにて開催された、Ken Okuyama Carsによる「F61H水素燃料自動車プロジェクト日本先行プレビュー」の冒頭で奥山清行が放った第一声であった。

奥山清行はピニンファリーナ在籍時にイタリア人以外で初めてフェラーリをデザインしたオトコとして知られる生粋のインダストリアル・デザイナーだ。その奥山氏であるが、近年はカロッツエリア(コーチビルダー)としてワンオフ・スポーツカーを次々と発表しており、スポーツカー界においてその存在感を高めている。そう、エンジニアリング開発においても大きな力を入れているのは事実だ。本来のデザインとはイノベーションやインフラも追い求める物だと本人は強調する。だが、なぜ、水素なのか?

水素といえば、多くが連想するのはFCとも呼ばれる燃料電池だ。それは基本的にEVであり、車内に水素タンクに加えてバッテリーや燃料電池など大きく重い機器の搭載の必要性など、パフォーマンスを競うスポーツカーのイメージとは少し離れたところにあるではないか。今回Ken Okuyama Carsが発表したのは、水素自動車と言っても燃料電池ではなく、ガソリンの代わりに水素を燃やす内燃機関エンジンである。その基本構造はガソリンエンジン搭載自動車と等しい。

「今回発表するF61Hは世界で初めてイタリア製V12大排気量ガソリンエンジンを水素化したパワートレインを搭載したモデルで、トランスアクスル・レイアウトのマニュアル・トランスミッションでスポーティーなドライビングを楽しんでもらうことができます。そう、水素と言っても難しいものではなく、未来のスポーツカーへの選択肢の一つとして、皆さんと一緒に考えてみたいという意味での提案なのです。ですから、このモデルを直ぐに市販してビジネスに繋げようと考えているわけではないのです」と奥山。

F61Hのベースとなったモデルは一昨年、イタリアのコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステにてワールドプレミアを行ったバルケッタボディのkode61 Birdcageだ。マセラティTipo61Birdcageへのオマージュとして開発したオーダーメイドの少量生産モデルであるが、2005年、彼がピニンファリーナ在籍時に、その原点ともいうべきBirdcage75thコンセプトを製作し、そのインパクトのあるスタイリングDNAはマセラティの現行モデルMC20やグラントゥーリズモ系にも生きている。

軽量なボディを持ち、大排気量エンジンを搭載するという点、そしてレースフィールドで大活躍した”バードケージ”のヘリテイジは、まさに奥山の水素エンジン・スポーツカーに対するイメージにぴったりであった。F61Hは気体水素を専用インジェクターからポート噴射するシステムを採用しているが、ガソリンと水素では燃焼速度や特性が大きく異なり、そのコントロールには経験に基づいたノウハウが必要である。

水素化によっても充分な馬力は確保できるが、ガソリンエンジンと比較してトルクは薄くなる。そこで、大排気量エンジンと高い親和性があるというのだ。今回の水素化においてはガソリンエンジンのスポーツカーのフィーリングを保持することが大きなテーマであり、その上で、CO2排出ゼロのクリーン・エミッションを実現するというミッションが課された。

奥山は最新のハイパーカーを手掛けるだけでなく、カーガイとしてクラシックカーで世界中のカー・イベントに参加し、クラシックカー・ソサエティに関しても様々な問題意識を共有している。