モレンベークでの2年目を闘う安部。チームメイトから厚い信頼を寄せられる。(C)Belga Image/AFLO

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 ベルギー2部リーグ最終節は実にスリリングだった。

 首位RWDモレンベーク(以下モレンベーク)から3位ラ・ルビエールまで勝点の差はわずかに1。しかも2位ズルテ・ワレヘム対モレンベークの直接対決が組まれており、どちらかがかならず勝点を取りこぼすことから、ラ・ルビエールは11位ロンメルとのアウェーゲームに勝ちさえすれば2位以上が確定=来季の1部リーグ昇格を手にすることになる。
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 MF安部柊斗の所属するモレンベークは引き分け以上の結果で昇格。ラ・ルビエールが引き分け以下の結果に終われば、ズルテ・ワレヘムに敗れても来季の1部復帰が決まるはずだった。しかしサッカーの神様はモレンベークに微笑まなかった。1−1で迎えた84分、ズルテ・ワレヘムは超ベテランストライカー、イェレ・フォッセンが技ありのシュートを決めて勝ち越す。このときラ・ルビエールはロンメル相手に1−1だったため、辛うじてモレンベークは2位にいたが、89分にラ・ルビエールが決勝ゴールを決めたため、最終的にモレンベークは3位に転落してしまった。

 モレンベークにはまだプレーオフ経由で1部に昇格するチャンスが残されているが、チームバスに乗り込む選手たちの顔を見るとショックは明らか。それというのも、彼らはズルテ・ワレヘム戦以前にもパトロ・アイスデン戦(1−1)、ロンメル戦(0−1)と二度、昇格のチャンスを逃していたのだ。15節のクラブNXT戦(0−0)から9試合連続クリーンシートを達成した水も漏らさぬ守備は、最後の3試合でわずかな綻びが生じ、上位チームに対して劣っていた得点力をカバーできなかった。
 
 ズルテ・ワレヘム戦で77分間に渡って奮闘した安部は、足取り重くチームバスのところまで歩いてきた。目はやや潤んでいるようだった。そこはスタジアムの照明が差し込まない暗いエリア。しかしピッチからほんのわずかしか離れておらず、ズルテ・ワレヘムサポーターが上げる嬌声、賑やかなミュージック、爆音と振動が入り交じる花火といった華やかさと180度、真逆の世界だった。

 彼らの歓声がここにも聞こえてきます。安部選手も悔しい思いをしているはずです――。そう尋ねると「そうですね。まあ...」と言うと、彼は15秒間沈黙してから、こう答えた。

「自分たち、モレンベークは全員、誰ひとり手を抜かずに頑張っていたと思います。ホントの最後の最後まで諦めずにゴールを狙っていたんですけれど、でも結果的に負けてしまって、また昇格のチャンスを逃してしまった。それは本当に残念ですけれど、僕たちにはまだ(プレーオフ経由で昇格する)チャンスが残っている。切り替えるのは難しいですけれど顔を上げて、次の練習から昇格に向けて頑張っていくしかないと思います」
 目の前に立つ安部は171センチ。169センチと小柄な私と比べても、それほど変わりはない。しかし観客席から見る彼は威風堂々としており、ボランチとしてチームの要の貫禄を感じさせる。特に前半半ばまで、モレンベークが主導権を握った時間帯では安部の縦に刺すパスが、チームの攻撃開始のスイッチとなっていた。そしてボックス・トゥ・ボックスの攻守に及ぶ幅広いプレー。味方のアタッカー陣を後方支援した数秒後には、相手のカウンターを追って自陣に戻っていた。

 そんな献身的なプレーに加え、ドリブルも巧み。ズルテ・ワレヘム戦では自陣からひとりで持ち運ぼうとしたところ、相手に詰められてしまったが、そこで安部はあえて急にストップすることでマーカーも静止させ、その時間差を利用して相手を置き去りにしたあと、反則で止められた。

 味方とのコミュニケーションも絶え間なくピッチの上で続けている。試合が続いているときも、一瞬、プレーが止まったときにも、安部は声を張り上げ、手を振って味方に指示を与えたり、励ましたりしている。モレンベークのCKがクリアされたシーンでは、安部が「前に出てこい!」と身振りで促したゴールキーパーがセカンドボールを拾って、そこから右サイドへのミドルパスから2次攻撃が始まったシーンもあった。

――安部選手は、足だけでなく、口、手、そしてハートでプレーするタイプですね。

「今日に関しては本当に自分は良くなかったです。もっとチームを助けられるようなプレーとか声掛け(をしないといけない)。しかし、やっぱり(サッカーは)プレー。口だけではなく、もっと足を動かさないとサッカーは意味がない。今日は自分自身、本当に反省しないといけないと思いました。試合の入りは良かったと思います。それを最後まで続けないといけませんでした」
 
 パスミスしたりボールをロストしたりすると、安部は手を上げてしっかりチームメイトに謝る。「外国では、ミスを認めて謝ると舐められる風潮がある」と伝わることが多いが、安部に関してはその姿が逆に味方からの信頼を掴んでいるようにも感じられた。要は日々、長い時間を一緒に過ごすチームメイトから、いかに自分のキャラクターを認められ、受け入れられているかが肝要なのだろう。

「モレンベークはすごくポジティブなチームです。(ヤニク・フェレイラ)監督もすごくポジティブな監督なので、毎日、練習から『ミスをしても顔を上げて次のプレーをやれ』という指示を出してくれるんです。だからミスしたからパスをもらえないとか、そういうことはない。一人ひとり、みんな信頼し合っているので、そこに関してはポジティブな感じができてます」

 背中や肩でブロックしたり、相手の足下にあるボールに躊躇なくアタックに行ったり、安部のプレースタイルはとてもアグレッシブ。そのためズルテ・ワレヘム戦でも反則・被反則のシーンが多かった。見るからにイエローカードが多そうなプレースタイル。しかし今季の安部は5枚の警告累積で15節の対クラブNXT戦を欠場したあと、後半戦の15試合でたった一枚しかイエローカードをもらっていない。

「このチームは何人か累積で出られない選手がいた。そのことを監督も口に出して言っていたので、そこは気をつけようというのがありました」

 きっと、試合の流れやレフェリーの特徴も見ながらさじ加減し、イエローカードを減らしたということだろう。
 昨季、FC東京から当時1部リーグのモレンベークに移籍した安部は、レギュラーシーズン30試合中28試合に出場と、試合の数については十分だったが、プレー時間は1474分間にとどまった。1試合平均53分だ。一方、2部で戦う今季も30試合のうち28試合に出ているが、出場時間は2317分で、1試合あたりのプレー時間は83分近くと一気に増えた。ベルギーで手応えを掴んだシーズンだったのでは?

「そうですね。でも逆に言うと2部リーグなんで、このくらいやらないとこの先、絶対にステップアップできない。今日も途中で代わっちゃいました。これで3試合連続で途中交代しているので、もっと絶対的な選手になって90分間使われる選手にならないといけない。この3試合を終えて、そう感じました」

「この3試合」とは自動昇格にリーチをかけたのに、勝点を取りこぼし続けた3試合。とりわけパトロ・アイスデン戦とロンメル戦は「ここで1点欲しい」というシチュエーションでの交代だった。中盤でのタスクとの絡みもあるが、今季2ゴール・2アシストというスタッツの向上に今後の期待がかかる。

 ズルテ・ワレヘム戦では残り13分、1−1のまま引き分ければOKという場面での交代だった。悪役のように相手サポーターからブーイングを浴びてピッチを引き上げる安倍を見て、私は快感のようなものを感じていた。背番号8を付けた彼は、それだけ敵から見ると嫌らしく、利いているプレーヤーだったのだ。相手サポーターからのブーイングは、モレンベークの主軸の証だった。

「自分自身に自信を持てるようになったところが、昨シーズンと全然違います。昨季は海外一年目だったのですごく難しかったです。今季はベルギーリーグがどういうリーグなのか、どういう選手がいるのか、そういったことに慣れました」
 
 3位モレンベークは、FW道脇豊のいる4位ベフェレン、5位パトロ・アイスデン、7位ロケレンとトーナメント方式のプレーオフを戦う(6位のクラブNXTは出場権なし)。この勝者が、1部リーグプレーダウンの2位チーム(ベールスホットの降格が決まったため、シント=トロイデン、セルクル・ブルージュ、コルトレイクのいずれか)と、来季の1部リーグ参戦を争う。

 とはいえロケレンは来季の1部リーグを戦うライセンスを取れておらず、このままだとプレーオフに参加できない。しかもモレンベークの初戦の相手はロケレンの予定だったのだ。

 あやふやな状況のなか、4月24日から始まるプレーオフに向かって一刻も早くズルテ・ワレヘム戦のショックから立ち直りたいモレンベーク。安部柊斗には運動量豊富なエネルギッシュなプレーと、絶え間ないコミュニケーションで、チームの士気を高めてほしいところだ。

取材・文●中田 徹