PARTYNEXTDOOR & DRAKE “$OME $EXY $ONGS 4 U” FEBRUARY 14

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 先月発表された『第67回グラミー賞』では、Kendrick Lamarの主要含む5部門での受賞や、Doechii『Alligator Bites Never Heal』の「最優秀ラップ・アルバム賞」受賞など、多くの注目すべきトピックに溢れた。一方で、その前後においても、USのヒップホップ、ラップアルバムの多様な新作が数多くリリースされた。中でも今回は、実験性や野心に溢れるアンダーグラウンドな動きや、メインストリームの中に潜むオルタナティブでラディカルな感覚に目を向けてみたい。

Lil Baby『WHAM』

 アトランタ出身のラッパー Lil Babyは一貫したストリートの語り部だ。2020年にリリースした『My Turn』のヒット、あるいはジョージ・フロイド殺害を起因としたBlack Lives Matter運動にアクチュアルに反応したシングル「The Bigger Picture」で、メインストリームのトップに躍り出た彼は、アトランタのフッドスターになった。地元にて、裏稼業で金を稼いで家族を養っていた時期や、刑務所に約2年間服役していた背景を持つ彼は、ストリートの構造的な貧困の話から決して逃げず、どんなにメロディアスなロマンスや現在の自分のサクセスについて歌おうと、泥臭さとハードさを手放さないアーティストだ。

 今回の『WHAM』でも、地元の状況に視線を向け続ける。例えば同郷の幼馴染であるYoung Thugが収監、法廷に引きずり出されたことにも起因しているであろう楽曲「By Myself (feat. Rod Wave & Rylo Rodriguez)」は、メロウな情感を持って“密告者”について歌い、「Stiff Gang」では、これまでの自分の人生をモンタージュのように振り返っていくハードなラップで、ストリートの現実を回想する。彼はスターになった以降でも、今の加速主義的な音楽業界の中で切り取りやミーム化を狙ったムーブを起こさず、一貫してまとまった音源作品でのアウトプットをし、アルバム全体が内包するムードを通して、テーマを語るのだ。また、『Complex』のインタビュー(※1)によると、よりパーソナルな内容の『Dominique』というセルフタイトルアルバムを近日中にリリースする予定だということで、そちらも期待したい。

Pink Siifu『BLACK'!ANTIQUE』

 Pink Siifuによる新作は、彼のディスコグラフィの中でもアバンギャルドな実験性に溢れた作品になっている。鋭い金属の鳴りやノイズ、本人の1990年代~2000年代頃のR&B趣味が出たメロディから、トラップの要素など、多くのサウンドをカオティックに混ぜながらも、アルバム全体の流れを途切れさせないような展開を携えることで、一種のロードトリップのように作品を成り立たせる手腕は圧倒的だ。それは、B. Cool Aidとしてリリースした『Leather Blvd.』の細やかなコンセプチュアルさや、ラップ主軸による『GUMBO'!』のような作りを融合させ、自らの音楽的な引き出しを大いに活用しながら、より大胆なアレンジを施した作品という見方もできるかもしれない。前半でアンダーグラウンドの空気を充満させながら、「Girls Fall Out Tha Sky feat. Turich Benjy, 454 & Jaas」をはじめ、メロウなトラップの鮮やかな色を後半に塗していく多様な展開。「SCREW4LIFE'! RIPJALEN'!」や「LAST ONE ALIVE'!」など、めくるめくサンプリングワークも豊穣な感覚を作品に残している。ヌーヴェルバーグ作品のような「TRANSLATION'!」のMVなど、収録曲のモノトーンなビデオも実にユニークだ。

MIKE『Showbiz!』

 MIKEも音楽的な旅に誘ってくれる優れたトリップアルバムの創作者だ。新作『Showbiz!』は、Tony Seltzerとの両名義アルバム『Pinball』や『Burning Desire』などの近作に比べて、幻惑的なムードが濃厚になり、数々のサンプリングワークで、アルバムを通してモザイク的に一つの形を浮かび上がらせていく。断片をつなげていくような構成はこれまでの作品と同様だが、今回はよりソウルフルな感触や、浮遊感を醸し出すようなシンセの音などが通底している。「man in the mirror」ではダンサブルなグルーヴと、柔軟なフロウを見せるMKEのラップの楽しさを再確認でき、「Lost Scribe」から「You’re the Only One Watching」の流れはロマンチックで美しい。MIKEが、一貫した作品形式を崩さずに毎回違う感触の作品をリスナーに提供してくれる豊かな作家性を持つアーティストであることを今一度実感することができる。ほとんどの曲が1分~2分台と短めに構成され、それらを通しで聴くことで実体が浮かび上がっていく様は、Earl Sweatshirt『Some Rap Songs』以降のラップアルバムにおける、最上級のコラージュアートと言えるだろう。

Larry June, 2 Chainz, The Alchemist『Life Is Beautiful』

 ラッパーであるLarry Juneと2 Chainz、そしてプロデューサー The Alchemistによる3者名義の本作は、最高のブレンドを目指したのか、あるいは難解な計算式に挑んでいるのか。印象としてはLarry JuneとThe Alchemist名義のアルバム『The Great Escape』の延長で、泥臭さと煌びやかさを同居させる2 Chainzによるトラップの風味を取り入れた、各々の作品の中でも他にない味わいの独特な1枚に仕上がっている。全体のムードとバイブスはリラックスしているが、それぞれの音楽性が相互的に影響し合い、化学反応を見せていく様は極めて刺激的だ。時折歌心を発揮する緩やかで安定したLarry Juneのラップと、言葉を詰め込みながらスピードに緩急をつける2 Chainzのラップの協奏、そしてThe Alchemistによる優雅に変化を見せるトラック。まるで自由なセッションを見せられているようでもある。メロウなトリップに誘われる「Munyon Canyon」やタイトルトラック「Life Is Beautiful」、トラップ調のThe Alchemistのトラックが新鮮な「Generation」は特に耳を惹く。極上にして、珠玉のラップアルバム。

Drake & PARTYNEXTDOOR『$ome $exy $ongs 4 U』

 ビーフを経た失意のDrakeはPARTYNEXTDOORと組んで、OVO SOUNDのムードをパッケージするような、近作の中で最もR&Bメインと言えるような作品を放った。その様相は、いかにも『Views』や『So Far Gone』系統のDrakeのアルバムと言えそうだが、時折挟まれる彼らしい音楽的な趣向、ある種の偏執的なサウンドの捻り方が垣間見えることが、現代的なスリリングさを醸し出している。それこそが、この2010年代的な作品を、ギリギリのところで2020年代的な作品にしている所以でもあるだろう。

 アルバム全体は浮ついたシンセサウンドに顕著な、2010年代のアンビエント/R&B以降の音像を再現しながら、例えば、「MEET YOUR PARADE」ではスペイン語のコーラスを本人が歌い、ラテンミュージックの要素を取り入れ、「NOKIA」においては、ファンク調のサウンドの中でビートをスイッチさせ、巧妙に転調させていく。さらに、ビーフに直接言及したことでリリック的に話題になっている「GIMME A HUG」でも、言葉を詰め込むようなスタイルのラップを畳みかけながらビートスイッチを試み、1曲の中で前半と後半にシンメトリーな質感を生み出している。そういったサウンド展開があるからこそ、本作は言い訳がましい部分にだけ耳を取られるような退屈な作品にはなっていない。彼は、一貫してメロディとビートとラップの快楽を、統一感のある感触とムードで実現する。また、これまでのDrakeの興味(ラテンやハウス、ベースミュージック)が詰め込まれているのはもちろんのこと、ダンスミュージックとラップ的なフロウの多様な解釈がオーバーグラウンドに点在していく現在のポップミュージックシーンにおいて、そのパースペクティブを捉えながら、自らのフェティッシュを追求した作品とも言えるかもしれない。

※1:https://www.complex.com/music/a/jordan-rose/altitude-adjustment-lil-baby-cover-story

文=市川タツキ