これにチャットGPTなど AI革命による需給逼迫が加わる。エヌビディア が一手に供給するGPU(画像処理半導体)は品不足に陥り、価格が急騰している。オープンAIのサム・アルトマンCEOはこの需要に対応するために、5~7兆ドル(過去累計半導体投資額の5~7倍)という天文学的な半導体投資が必要だとして、政府と投資家に協力を呼び掛けている。今後3年間でデーターセンターのコンピューティング能力を3倍に高める必要があるとされている。それは電力需給を逼迫させるので、省電力化のために更なる半導体需要が出てくる。

●PC、スマホも需要回復へ

 短期循環的にも、2023年の半導体ミニ不況からの立ち上がりがはっきりしてきた。SIA(米国半導体工業会)は世界販売額が2023年の526.8億ドル(前年比8.2%減)から2024年には600億ドル(13%)に回復する、と予測している。車載用半導体の伸びに加えて、長らく低迷していたパソコン、スマホの買い替え需要が、AI化による機能向上により大きく高まりそうな気配である。

●「地の利」次期ブレークスルー技術は日本に蓄積されている

 日本が世界の半導体投資の要になりそうな「地の利」も重要である。半導体技術のブレークスルーがこれまでの前工程でのウェハーの平面微細化から、日本が得意な後工程の3D化、組み立て技術にシフトしていくからである。

 過去40年間続いてきた1.5年で2倍という集積度の高まりをムーアの法則と呼ぶが、平面の微細化は物理的限界に達しつつある。これからは異なる複数のチップを一つのパッケージとして組み込み複合化することで高機能化が進められる。これをチップレットというが、そのカギは後工程にある。

 日本はプロービング、ダイシング、ボンディング、モールディングなど後工程の製造装置に強い上に、素材では世界シェアの5割を占めており、チップレット化に求められる技術要素を世界で一番蓄積している国といえる。TSMCは海外で唯一、日本(つくば市)に開発拠点を設けているが、それは日本の後工程技術に着目しているからである。また、サムスン電子は横浜に研究所を建設中だが、その狙いも日本に集積している後工程技術の確立にある。日本が世界の後工程技術のハブになる可能性が高まり、それが日本におけるハイテク投資ラッシュを引き起こしつつある。

●需要構造変化は主役交代を引き起こすことが多い

 過去に半導体産業は製品の進化とともにリーディングカンパニーが変わってきた。半導体需要が民生用エレクトロニクスと大型メインフレームコンピュータ主体であった時の覇者日本は、パソコン、スマホ主体の時代に完全に流れから取り残された。しかし今後、AIとIoT、DX/GXが半導体の主力需要先になり、大量の汎用品が求められる時代からASIC(用途別半導体)が必要とされる時代となった。パソコン、スマホ時代の勝者インテル 、サムスンが安泰ではいられなくなる時代である。この新時代は、先端半導体に再参入を目指す日本にとっては、願ってもない有利な条件といえる。

●苦節30年の賜物

 このように米中対立のみならず、「天の時」、「地の利」があるからこそ日本の半導体産業の復活が展望できる。関係者の皆様の苦節30年の努力に敬意を表したい。

(2024年3月18日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン351号」を転載)

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