─ 失敗の経験を経たからこそ辿り着いたわけですね。

 喜田 私は若手時代、会社に文句ばかり言う社員でした。そうしたら当時の部署の課長から「ゆりかごから墓場までできる仕事をやってみるか」と言われて担当したのが、先程お話した大手自動車メーカーの仕事でした。

 自分で設計した塗料を持っていってトライして、OKだったら認めてもらえる。そして、実際に量産化するまで自分でフォローすることが私の仕事だと。できなければ、君は文句を言っているだけの人間だと言われて送り出されたんです。部署全体で助けてくれる体制ではありましたが、基本的に仕事は1人で完結させられるようにならなければならないと教えられました。そして理屈、理論を持たなければいけないとも言われました。

 ─ 哲学を持った上司だったんですね。

 喜田 そうです。そして、我々はシェアを取らなければ売り上げ、利益は上がっていきませんから、自分が学ぶだけでは意味がないんです。ライバルメーカーとは現場では仲がよかったですが、勝負していましたね。


原材料は高騰、製品値上げの動向は?

 ─ 喜田さん自身の仕事は、自動車塗料の後、汎用塗料に移ったわけですね。

 喜田 ええ。今から11年前に汎用塗料の技術部長になり、技術の強化に携わりました。自動車塗料は塗った後に140度で焼いて硬化させるのに対して、汎用塗料は常温で天日干しして自然と乾かすものですから、設計のイメージも、使う材料も全く違います。

 その後、14年に汎用塗料事業本部長になり、全体を見る仕事をするようになりましたが、15年に会社はホールディングス体制になりました。この時に、私が見ていた日本ペイント汎用塗料事業本部と、旧日本ペイント販売という販売会社が統合し、新生日本ペイントとなりました。

 日本ペイントが手掛けているのは、建築用塗料、鋼構造物用塗料、自動車補修用塗料、DIYなどで使われる家庭用塗料の4つです。

 ─ それぞれの塗料の需要動向はいかがですか。

 喜田 建築用は昨年に比べて上向きになってきました。鋼構造物は自治体向けの公共物需要があるので、一定のスパンで出ていくという意味では堅調です。家庭用塗料はコロナ中は「巣ごもり需要」で伸びましたが、足元ではピークに比べると落ちているという状況です。

 ただ問題は、原材料が高騰していることです。我々の業界は全体で値上げをしている形になっていますが、21年から値上げを始め、現時点までに3回実施しています。徐々に効果が出始めたかなというところです。

 ─ 製品値上げは日本全体の課題ですね。海外に比べても遅れていると言われます。

 喜田 ええ。海外では年に3、4回の値上げをしていますが、日本でそれをやったら買ってもらえません。日本では販売店は各社の塗料を併売しており、日本ペイントだけを売っているお店はありません。例えば我々だけが一気に値上げをしたら、他社の塗料を売りますという話になる。そうすると我々の販売量が減りますから、状況を見ながら動く必要があります。

 ─ 原材料高騰が収まる気配はありませんから、日本全体で製品値上げ、賃上げの好循環をつくる必要がありますが、なかなか難しいですね。

 喜田 我々化学系企業は、他の業界と比較しても地道な仕事です。我々のビジネスを決めるのは販売店さん、塗装店さん、ゼネコンさんといった特定のお客様です。

 この方々が「日本ペイントの塗料はいいね」、「すごく塗りやすいね」と言って下さらないとビジネスが成立しないんです。