「ゴジラは誰の物か」泥沼裁判に 本多監督の遺族、東宝を訴える - BLOGOS編集部
※この記事は2011年11月30日にBLOGOSで公開されたものです
2002年6月、「ゴジラ×メカゴジラ」の撮影風景(AP/アフロ)
日本が誇る怪獣映画「ゴジラ」の関連商品の著作権をめぐって、裁判闘争に突入したことが11月30日に明らかになった。ニューギンが2010年に発売したパチンコ台「CRゴジラ~破壊神降臨~」のCMに対して、1954年の初代「ゴジラ」を監督した故・本多猪四郎氏の遺族が、1億2700万円の損害賠償を求めて、ニューギンや映画会社「東宝」など4社を10月13日、東京地裁に訴えた。
東宝の映画では、黒澤明監督の「生きる」などの作品は“監督の著作物”と最高裁で認められている。これまで「ゴジラ」の映画やキャラクターの著作権は東宝が一括して管理してきたが、本多監督の遺族らは「初代ゴジラ映画は本多監督の著作物だから、商品化を東宝が勝手に許諾するのは違法」と主張しており、怪獣ゴジラの無断利用を許さない構えだ。
ゴジラの著作権を巡って裁判闘争になったことで、ゴジラのキャラクターを使った商品展開に重大な影響を与える可能性が出てきた。「放射能の恐怖」をテーマに作られた映画作品が、くしくも福島第一原発の事故が発生した年に著作権トラブルが表面化することになった。30日に開かれた第一回口頭弁論は、わずか5分ほどで終了。争点整理のための弁論準備手続きに入ることになった。本多監督の遺族側と東宝側の主張は平行線を辿っており、泥沼化が懸念される事態になっている。【取材・文:安藤健二(BLOGOS編集部)】
「ゴジラ」とは何か
初代「ゴジラ」は1954年、「水爆大怪獣映画」の宣伝文句で公開された。同年、第五福竜丸の乗組員が、太平洋のビキニ環礁付近で漁をしていたところ、米国の水爆実験に巻き込まれて被曝したことが背景にある。映画中では、水爆実験の影響でよみがえったと見られる恐竜のような巨大怪獣「ゴジラ」が、日本に上陸。第二次大戦後の焼け野原から復興したばかりの東京の街を、口から吐く放射能火炎でメチャクチャに破壊するという物だった。東京大空襲を思い起こさせるような特撮シーンを後に「ウルトラマン」を生み出した円谷英二氏が担当。発足したばかりの自衛隊がゴジラを迎え撃つシーンなど、当時としては画期的な映画となった。
ゲテモノ映画のように言われて評論家の評価は低かったが、国内での観客動員数は600万人を超える大ヒットに。米国では、日本映画としては初めてメジャーの配給網に乗り「Godzilla, King of the Monsters!」の題名で公開された。
「ゴジラ」は次々と続編が作られて東宝の看板シリーズになった。2004年の「ゴジラ FINAL WARS」までの50年間に計28作品が製作されている。「ゴジラ」は、大リーグで活躍する松井秀喜選手の愛称になるなど世界各地で親しまれている。
円谷英二とのタッグで怪獣ブーム
「ゴジラ」を監督した本多猪四郎監督は、1911年山形県生まれ。日大芸術学部を卒業後、東宝の前身に当たるP.C.L.に助監督として入社。戦時中は徴兵されて軍隊生活を経験したが、復員後の1951年に「青い真珠」で映画監督としてデビューした。後に「特撮の神様」と呼ばれることになる特技監督の円谷英二氏とタッグを組み、「ゴジラ」(1954年)、「モスラ」(1961年)、「怪獣大戦争」(1965年)などを監督。日本映画界に怪獣ブームを巻き起こした。「ゴジラ」映画シリーズでは全28作品のうち、中期までの8作品の監督を務めている。
晩年は助監督時代から親交のある黒澤明監督を手伝い、「乱」「まあだだよ」などの黒澤作品で演出補佐を務めた。1993年に81歳で没した。
パチンコCMは「ゴジラ映画の翻案」と主張
今回の裁判はパチンコ台「CRゴジラ~破壊神降臨~」のCMが対象となっている。台の発売に合わせて、2010年7月ごろにテレビ放映されたもので、海中からザバーっと登場する「降臨編」と、都会でガイガンやキングギドラという敵怪獣に囲まれたゴジラが、放射能火炎で反撃をする「破壊編」がある。いずれもゴジラが大写しになり「破壊神降臨」というテロップが表示されている。このCMに対して昨年6月、製作元のパチンコ会社「ニューギン」に抗議文が届いた。「監督の著作権を侵害している」と本多監督の遺族が主張したのだ。これに対して、ニューギンは「著作権は東宝が管理している」と反論。東宝と本多隆司氏らの間で話し合いを持つが、交渉は決裂。昨年6月、東宝は本多隆司氏ら遺族に対して「著作権侵害の主張は無効である」と先手を打って訴えた。今回の裁判は、隆司氏らが東宝に対して反転攻勢に出たものだ。東宝に加えて、パチンコ化のキャラクター許諾に関わったタカラトミーと加賀電子。それに実際にパチンコ台を製作したニューギンと計4社が被告となっている。 訴状によると、パチンコ台のCMについて本多監督の長男である本多隆司氏らは、主に以下のように主張している。
■ゴジラの映像の著作権侵害
CMの映像は、「ゴジラ」という表示のもと、本多監督が「ゴジラ(昭和29年作品)」において表現したシーンを映像化している。ゴジラが海中から出現し、吼え、背びれを光らせ、白熱線(放射能)を吐くシーンなどがそうだ。原告らの許諾なく映像化しているため、本件映像は原告らの翻案権や複製権の侵害である。■ゴジラが“好戦的な生き物”にされている
このCMは本多監督の意に反する改変をしている。ゴジラ関係著作物の本質の一つである“好戦的ではない性格の生き物”としてのゴジラの表現を改変し、“破壊を好む好戦的な生き物”としてのゴジラという相反する表現を含んでいるからだ。本多監督の同一性保持権侵害となるべき行為だ■パチンコ台のCMにすることが本多監督の意に反している
パチンコは、ギャンブル依存症や反社会的勢力との関係等の問題も指摘される、いわゆる賭博の一種であることは言うまでもない。本多監督がゴジラ関係著作物を「科学の進歩から生じる“見えない恐怖”という芸術的かつ哲学的テーマに基づき創作した。そのテーマを全く無視してパチンコ台のCMという二次的著作物を作成したことは、本多監督が全く臨まなかった行為であることは明らかだ。以上のような主張をした上で、こう結論付けている。
本件映像は、世界的に著名な「ゴジラ(昭和29年作品)」の映像、脚本及び「ゴジラ(昭和29年作品)」の映像内で使用されたゴジラぬいぐるみの複製・翻案権の許諾なくして作成不可能な著作物である。原告らが上記著作権の許諾について受ける金額は、1億円を下回るものではない。
「理解に苦しむ」と遺族側
実は本多監督の遺族と東宝の関係は、パチンコ台のCMが登場する以前から悪化していた。きっかけは2010年2月8日。本多監督の長男である本多隆司氏が経営する株式会社本多フィルムが、東宝に内容証明に送っている。その内容は以下のような物だった。故本多猪四郎監督は貴社の映像作品ゴジラを始め数多くの作品の脚本・監督などを手がけている。その代表作品であるゴジラ作品は、本多監督が脚本・監督をし、言うまでもないことだが、その面での著作権・著作者人格権を有するものだ。従って翻案は勿論、2次利用を含め、本多監督の著作権の相続人である本多きみ、本多隆司氏らの監修、承諾を得なければならない。これに驚いたのは東宝だ。本多フィルムに対して同月19日に、書面で返事をした。
しかし、聞くところによると貴社では「ゴジラのキャラクターには本多監督の権利が発生してない」と説明し、本多監督の相続人の了承を得ずに同キャラクターを様々な分野で利用しているとのことだ。これは理解に苦しむ。キャラクターは脚本・監督に依拠するところが極めて大きいもので、本多監督はゴジラの形状を決める際にも最初から関与しており、決定したのは本多監督である。本多監督の著作権問題について話合いを求めたい。
当社は、昨年、貴社の代表取締役である本多隆司氏に当社の立場をすでに説明している。そもそも、故本多監督及び同監督の著作権の承継者である(妻の)本多きみ氏からは、ゴジラキャラクターの件について、未だかつて一切何らの異義を受けたこともない。当社は本多監督の著作権問題について話し合いの必要があるとは考えていないが、お会いする用意はある。この後、本多フィルムは「本多きみ氏を含む本多家の著作権の管理を任されている」と報告。本多フィルムと東宝の話し合いが続いたが、「ゴジラ」の著作権について両者の主張は全くかみ合わなかった。
ゴジラの産みの親は誰だ?
◆東宝の主張(2010年5月14日付け書面による)1.映画「ゴジラ」の撮影用台本は、故本多氏及び村田武雄氏が共同で著作されたものとされているが、この台本完成以前に、香山滋氏が著作した検討用台本が存在している。◆本多フィルムの主張(2010年4月23日付け書面による)
2.ゴジラのキャラクターは、もともと製作者である(東宝のプロデューサー)田中友幸氏が発案したもの。香山脚本は、香山氏が田中氏の発案創意に基づき創作したものであり、ゴジラ・キャラクターの基本的な特徴は、香山脚本に表現されている。
3.ゴジラのキャラクターは映画化にあたり、製作者の田中友幸氏のイメージ及びアイデアに基づき造形され、同氏の監修の下で製作された。
4.当社は、ゴジラのキャラクターの著作者である田中氏及び香山氏から、その著作権を承継取得している。田中氏は1997年4月に亡くなるまでに製作された「ゴジラ」映画シリーズ22作品全ての製作を担当。当社は、田中氏から「当社がゴジラのキャラクターの著作権を持つ」という旨を確認している。
5.故本多氏は、「ゴジラ」映画シリーズ28作品のうち、8作品の監督を務め、そのうち2作品の共同脚本家ではあることは認める。しかし、「ゴジラ」映画シリーズの製作については、故本多氏が監督していない作品も含めて、故本多氏が異議を述べたことはなかった。初代「ゴジラ」映画の公開から50年以上経過した今になって、故本多氏がゴジラのキャラクターの著作権を有するという主張には、当社は大変驚いている。
1.「ゴジラ」の原作者としては香山滋氏がクレジットされているが、本多監督は「ゴジラ」の脚本を作るにあたって、ゴジラの誕生の理由に関する描写や、ゴジラが姿を現すシーンの描写など、ゴジラのキャラクター設定につき重要な箇所において、原作に大幅な改編を加えている。こうして「ゴジラ」のキャラクターについて著作権の主張が真っ向から対立。その際、2010年にちょうど始まったパチンコ台「CRゴジラ4」のCMに対して本多フィルムが6月に抗議。今回の裁判へと発展することになった。
2.本多監督は、映画著作物である「ゴジラ」の監督として、同映画の登場キャラクターであるゴジラの挙動や、映像的表現を創作しており、映像面におけるゴジラを創作したのは紛れもなく本多監督である。
3.本多監督は、監督兼脚本家として「ゴジラ」に登場するゴジラの経歴・性格付けといった内面的なキャラクター設定を決定し、具体的に表現している。よって本多監督こそが(キャラクターとしての)ゴジラの著作者である。
4.さらに本多監督はゴジラの形状についても全面的に関与し、最終的なデザイン決定をしている。1954年の5月から7月にかけて、「ゴジラ」というネーミング決定と平行して、ゴジラの皮膚の質感、背びれの形、首や足の長さや太さ等のあらゆる外形的側面についても監督として最終的なデザインを決定した。この間、ゴジラの外見が数回にわたり大きく変化したことは、本多監督の意向を反映したものであることが、当社の調査で明らかになっている。
5.したがって、本多監督の著作権を相続した相続人らは、当然に「ゴジラ」のリメイク許諾権や、「ゴジラ」のキャラクター利用権を有する。
「キャラクターの著作権」は撤回
ただし、今回の裁判では「ゴジラのキャラクター権」そのものは争われていない。提訴直前の今年10月、本多フィルムは「ゴジラのキャラクターに関する著作権」の主張は撤回しているからだ。同社は、主に以下の2点に絞って著作権を主張し、パチンコ台のCMをめぐる裁判を戦うことになった。A.1954年公開の映画「ゴジラ」の映像著作権これらを根拠にして「パチンコ台のCM」に無許可で使われたゴジラの利用は違法だと訴えた。1億2700万円の損害賠償を求める根拠となっている。
(この映画は、脚本家及び監督として最も主要な役割を果たした本多監督の著作物である)
B.1954年公開の映画「ゴジラ」に使われた着ぐるみの著作権
(ゴジラのぬいぐるみに対して、本多監督は脚本家及び監督として決定的な関与をしている)
過去には「ウルトラマン」も裁判に
これまで初代「ゴジラ」の映像に関しては、本多監督の著作権を東宝側は認めており、DVD化やテレビ放映などの際には、遺族に著作権料が支払われてきた。しかし、ゴジラのキャラクターに関しては、本多監督と東宝の間で明文化された契約は見つかっておらず、慣例で東宝が著作権を管理してきた。(※2012年3月30日訂正:上記の記述ですが、追加取材の結果、以下のように訂正いたします。)
これまで初代「ゴジラ」の映像に関しては、「本多監督が著作者」と東宝側は認めており、DVD化やテレビ放映などの際には、遺族に脚本使用料と監督追加報酬が支払われてきた。ただし、東宝側は本多監督が関わった部分を含む「ゴジラ」の全著作権が「自社に譲渡された」と主張している。「ゴジラ」と並ぶ特撮作品である「ウルトラマン」シリーズも、製作元の円谷プロとタイ人の実業家の間で泥沼の著作権裁判となり、2004年に最高裁でタイ人に軍配が上がっている。結果的にタイ人側が1974年までに公開された「ウルトラシリーズ」の海外利用権を認められた格好になった。
製作当時の関係者の多くが故人となる中、生前には問題にならなかった著作権をめぐって遺族が訴えるケースが今後は増えてくる可能性もある。果たして裁判所はどのような裁定を下すのか、特撮ファンのみならず注目が集まることになりそうだ。
問題となったCM(YouTubeより)
CRゴジラ~破壊神降臨~「降臨編」CRゴジラ~破壊神降臨~「破壊編」
