クレイジーケンバンド横山剣さんは、これまで40台以上を乗り換えてきた大のクルマ好きだ。そんな横山さんはいま4台を持っているが、あと1台、トヨタでほしい車種があるという。それはなにか。『トヨタ物語』(日経BP)著者の野地秩嘉氏が聞いた――。(後編/全2回)

※本稿は、野地秩嘉さんのnote「クレイジーケンバンド横山剣さんが読み解く「トヨタの強さ」|『トヨタ物語』続編執筆にあたって 第11回」の一部を再編集したものです。完全版はこちら。

撮影=尾関祐治
横山剣:1960年生まれ。1997年クレイジーケンバンド(CKB)を発足し、ヒット曲多数。2020年にニューアルバム「NOW」をリリース。トヨタ自動車Global Newsroomにて「カーレース入門〜Let's go to the Circuit!」が連載中。 - 撮影=尾関祐治

■トヨタは安心感が半端ない

【横山】トヨタはCMがスタイリッシュですね。特にセリカのCMがすごくスタイリッシュで、「食べてしまいたいクルマ」というのがありました。コピーがすごくよくて、「ちょっとうれしいカローラ」とか、「わたしのカローラ」とか、刺さるコピーが今も記憶に残ってます。

【野地】そうした横山さんの心をつかむようなCMを作る裏では、トヨタ生産方式でひたすら地味に……。

【横山】一生懸命、クルマを作っていたんですね。この本を読んでから、改めて当時のCMを見ると、また違った感慨がありますね。

【野地】トヨタの車に乗ってみて、特徴ってありますか。

【横山】そうですね、安心感が半端なくありますね。で、僕はカローラの何でもない、あえてスポーティなやつじゃなくて、デラックスという最もオーソドックスなやつに乗ったんですけど。KE70というカローラです。

■ハチロクが断然人気だけど、僕はKE70です

もう加速が素晴らしくて、ほかのクルマに乗れないぐらいイイ感じなんですよ。そのプレーンな感じが逆に色っぽくて好きだったんですけど、とにかく安心感があって。走る、曲がる、止まる、すべてにちょうどいいというか、コンフォタブルというか。で、けっこう速いんです、びっくりしちゃうぐらい。マニュアルだったんですけど。

【野地】KE70っていつ頃ですか。

【横山】昭和56年頃ですかね。

【野地】いわゆるカローラ、みんなが覚えてる。

【横山】ええ。このKE70というのはマニアの間でファンが多くて、それをカスタムしてレースに出てる人とかけっこういるんですね。やっぱりハチロクは断然人気ですけども、僕はKE70がすごい好きで。あとKE30というのもすごくよくて。

外車と交互に乗ってたんですけど、やはり雑なんですね、外車って(笑)。特にイタ車とか、ほんと雑、アメ車とかも。なんかギシギシいったり、どっかしら壊れるというか。それがトヨタの車は、どんな無茶しても、あ、オイル交換するの忘れた! とかあっても、まあ大概、元気よく走るし、ほんとタフですよね。

■センチュリーも乗ったことがあって…

【横山】それと、クラウン。「いつかはクラウン」というコピーがありましたね。僕はクラウンはけっこう長く2種類乗ったんですけど、もうベッドというか、おふとんというか、すごい包容力があって、ほんとにストレスのない車なんですよね。今、うちのメンバーでは洞口信也ってベースの彼がクラウンのすっごいオーソドックスなセダンに乗ってるんですけど、もうほかのクルマには乗れないって。すごい広いし。

写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

【野地】センチュリーは乗ったことないですか。

【横山】あります(笑)。

【野地】いや、そういう気がしたんです(笑)。センチュリーは今なかなか中古がないらしいんですよ。

【横山】ないですね。

【野地】出さないようにしてるらしく。変な人に流れちゃうと……。

【横山】そうですよね、やからみたいなやつが乗ったら、ねえ。

【野地】昔はあれ、サーファーがけっこう乗ってましたよね。横山さんは今も?

【横山】もう乗ってないです。30代のときに乗ってました。

【野地】ちょうど今、代替わりする前のやつ。

【横山】初代はすごい希少というか、市場に出回っていなくて、1980年代後半のやつですね。

■これがとてもコンフォタブルなんです

【野地】何色ですか。

【横山】白です。

【野地】皇室みたいですね。

【横山】アイボリー。

【野地】要するに白いロールスロイスみたいな。

【横山】そうです。これがとてもコンフォタブルで。ちょっと車体が大きすぎるので、停めるところには困りましたけど。すごく気持ちいいクルマです。

【野地】でも、あれ後ろに乗る車ですよね。

【横山】そうですね。黒だと特にそうなんですけど、白だと乗り方次第で運転手さんに見えない(笑)。

【野地】センチュリーはどのくらい乗りましたか。

【横山】2年ぐらいです。

【野地】ガソリン代、大変ですよね。

【横山】大変だったんですけど、それ以上に大変なアメ車に乗ってたから、それほど気にならなかったですね。その頃は5700佞箸でっかいのばっかり乗っていたんで。でも、そういう意味ではクラウンがちょうどいいですかね。

そして、そういう快適なクルマ作りを支えているのが、トヨタ生産方式なんですよね。この本を読んでいると、すごく丁寧に、慈しむように現場の人たちが仕事をされている感じが伝わってきます。

■電気自動車も自動運転もいいけど、やっぱり

【野地】電気自動車とか自動運転になって、横山さんのクルマへの愛は変わるんですか。

【横山】手を離しても走れるとか、別の乗り物として見る分には、それはそれで面白いと思うんですけど、やはりブオン! と響くエンジンの音とか、そういう官能の世界がなくなるのはちょっとさみしいというか。

【野地】電気自動車は空吹かしもないし。

【横山】そうなんですよね。まあ、これからの世代の人はそれが当たり前になっていくわけですよね。僕はいまだにガラケーなんですけども、あ、スマホが嫌いとかじゃなくて移行できないだけなんですけど、そんな感じの断絶は起きるのかなあというのは思いますけどね。

フォーミュラEという電気自動車のレースを見てても何か面白くないんですよ。無音でシャー、シャー、ヒューッてモーターの音はするんだけど。まあ違う見方で見りゃ面白いのかもしれないけど、ちょっとまた別モノですね。

【野地】ガソリンのレースカーがスタートするときは、動物が吠えてるみたいですもんね。

【横山】そうなんですよね。まあタイヤは消費するし、ガソリンも消費するし、そんなに吹かさなくてもいいって言われちゃう時代なんでしょうけど。

■あのル・マンは泣きました

【野地】これまでは排気量で車の大きさってイメージできたけど、EVになったらどうなるんですかね。モーターが大きい、小さいなんですかね。

【横山】ねえ。あとどのぐらい充電できるかによってグレードが変わるとか。テスラとかそうですよね。

でもね、2018年のル・マンのワンツーフィニッシュ、トヨタがやり遂げたじゃないですか。その前にすごいショッキングな、あともうちょっとというところで最後の最後にリタイアしてすっごい悔しかったから、僕も含め、みんな泣きましたよ、あのル・マンは。勝利のエンジン音、やっぱり最高です。

【野地】そのガズーレーシングを率いているのが、トヨタのエクゼクティブ・フェローの友山茂樹さん。この本にも登場いただいていますが、この人が1日中でもクルマに乗っていられる人で、この間は動画が送られてきて、「ドリフト走行をし続けて、後ろのタイヤを潰した」って。経営幹部が自ら、タイヤがバーストするまで1日中クルマを乗り回しているという(笑)。

■自動車ファンとしてはホッとする

【横山】ガソリン車的な、そしてFR車的な発想ですね。そんなことまでやっているのが経営幹部ご本人というのが、僕ら自動車ファンにとってはすごく頼もしいです。

撮影=尾関祐治

【野地】友山さんは「群馬の走り屋」だったというから。

【横山】サイコー、イイネ!(笑)。

走るクルマというと日産のGT‐Rもいいんですけど、ちょっと敷居が高すぎるんですよね。庶民が手が届かないじゃないですか。それがトヨタのハチロクなら、がんばれば買えるお値段で。

あと、ガズーレーシングでワンメイクレースのシリーズ戦をやってますよね。あそこは予選に落ちた人にも敗者復活戦があったりとか、モータースポーツを身近にしてくれていますよね。で、そうしたレースからフィードバックできるようなクルマが市販されているということだから、また自動車ファンとしてはホッとするというか。

【野地】この本ではモータースポーツのことは全然書いてないですけれど。

【横山】いえいえ、ここに書いてあること、つまり、もっといいクルマを作ろうという情熱の、その先にモータースポーツがあるんだなという感じは、ちゃんと伝わってきました。

■僕らはムダが財産だったりして

【野地】改めて、この本をビジネスパーソンはどういうふうに読めばいいですかね。

【横山】標準の作業時間を調べるためにストップウォッチを持った人がそばに立って計る話がありますよね。

自分がそこの作業者だったらやだなあとか、集中できないなあとか、なんだよ、と思うかもしれないんですけど(笑)、でも、そういうチェックをしっかりするから、ジャスト・イン・タイムが機能するわけですよね。一見、監視されたりしているようだけど、そうして現場が無理をせずに、しかも効率が上がる作業スピードを追求している。そのあたり、管理されるのは嫌だと反射的に突っぱねる前に、今、そこで行われていることの意味をちゃんと考えてみるとか、そういうことは大切だと思いましたね。

【野地】ダブルジョイレコーズでもジャスト・イン・タイムを導入しますか。

【横山】うちは8人の小所帯ですけど、時間をムダにしないで、ムダな残業はなくすとか、課題を明日に残さないとか、この本を読んで、自分たちでもできること、見直せることはあるなと思いました。

【野地】僕も本を書きながら、やっぱりムダは無くしたほうがいいのかなと考えたりするんですけど。

【横山】僕らはムダが財産だったりもして、ゴミ箱の中からなんかビビビッとくるものを見つけて拾ったりすることもあるので、必ずしも全部が全部、効率よくというのがいいわけではないんですけど。

■ムダなものも含めて、曲は生まれていく

【野地】いろいろ思いもかけないことが刺激になったり、影響を受けたり。考えてみたら「わたしのカローラ」だって、テレビから勝手に流れていた歌が横山さんにビビビッときて、浜口庫之助さんからも影響を与えられているという。僕も思えばあれが初めてのボサノバだった。

写真=iStock.com/Dutko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dutko

【横山】ボサノバ初体験。あの曲のすり込みはでかいですね。子供のときになんておしゃれな曲だと思いました。

【野地】横山さんの曲でも、ボサノバっぽいのもいっぱい。

【横山】あります。いろんなことが刺激になって、ムダなものも含めていろんな影響を受けながら、曲になっていく。

というのはありながら、効率化すべきところはしたほうが、結果の数字がよく出たりもするんですよね。効率化というか、ちゃんとというか、丁寧にというか。自分のエゴとは別に、そういうことの大切さもありますね。

■マンネリはイヤだけど、通底した一本も必要

【野地】コンサートも、本当に何回も練習して、ツアー中も毎回練習してるんですよね。で、ちょっとずつ変わっている。僕もある年、CKBのツアーの最初を見て、真ん中で見て、一番最後を見て、あぁ、ずいぶん変わるもんだなと。曲も変わってますよね。

【横山】はい、トヨタで言うところのカイゼンですね。

【野地】やっぱりそうしたほうがいいわけですか。

【横山】そうですね。もう昨日より今日、今日より明日って感じにしていきたいという志だけは持ってないと、というのがあるんで、練習しては反省ばっかりですけども。

やっぱりマンネリになるのはイヤだなという気持ちがあるわけですけど、同時に、でも、何かこう通底している一本のラインみたいなものがなきゃいけないとも思っていて。

それがクルマで言えばエンブレムだったり、フォルムだったりというのだとすれば、CKBの場合は、20年前の「クレイジーケンバンド!」っていう声のジングルを必ずCDに入れて、ロゴマークを変えないとか。そういうので一本、通底していると、冒険していろんなところに飛んでも、また正道に戻れるという感じで、そういうのだけは続けてやっているんですけど。

■トヨタでもう1台欲しいクルマは?

【野地】最後に横山さん、もしトヨタでもう1台欲しいとしたら、なんですかね。

【横山】今、うちにはエスティマハイブリッドがあるんですけど、それの新型を。家族で乗る車、自分が乗る車、レースに出る車と分けていて……。

【野地】じゃあ今、3台。

【横山】レース用だと普通の耐久レース用はBMWの2002、クラシックレース(年式が古い車だけが走る)にはオースチンヒーレー。それにキャデラックとエスティマ、4台です(筆者注=取材当時)。普段乗るのは2台ですね。

【野地】それは全部、自宅にあるんですか。

【横山】3台は自宅に。レース用のは本牧ガレージといって楽器置場があるんですけど、そこに置いてあります。

【野地】高倉健さんに聞いたんですけど、スティーブ・マックイーンはビバリーヒルズにある高級ホテルに自分のクルマを22台置いてたんですって。1人、エンジンかけるための専任の人がいたって。

【横山】もうスケールが(笑)。

■高倉健にCKBのアルバムを渡したら…

【野地】高倉さんもホテルパシフィックに18台、持ってたんですよ。亡くなってから初めて聞いたんですけど。

【横山】品川ですか。

【野地】あそこに全部停めてて。三菱の車もあったし、ポルシェもあったし、ベンツも、アメ車も。

【横山】見たかった。

【野地】高倉さんもクルマが大好きでしたねえ。全部、自分で運転して。高倉健か横山剣かというぐらい。

【横山】いやいやいや、足元にも及ばないですよ。

【野地】そうそう10年ほど前、高倉さんにCKBのアルバム「グランツーリズモ」をプレゼントしたことがあります。ドライブのときに聴いてくださいと。

【横山】うれしいですけど、怒ってなかったですか?

【野地】えっ? って戸惑ってました。

【横山】やっぱり(笑)。

【野地】今日はどうもお忙しいところありがとうございました。すごくいい話で。あ、クレイジーケンバンドをトヨタのコマーシャルにとぜひ推薦したいですね。忘れないようにこの記事にも書いておきます(笑)。

【横山】ありがとうございます。ぜひ(笑)。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『ヤンキー社長』など多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。noteで「トヨタ物語―ウーブンシティへの道」を連載中(2020年の11月連載分まで無料)
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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)