カレーチェーン「カレーハウスCoCo壱番屋」がインドに進出する。国内では約1300店舗を展開し、盤石の地位を築いている。なぜわざわざカレーの本場・インドに進出するのか。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は「ココイチは国内カレー業界の一強状態で、飽和感が漂い始めている。さらなる成長を果たすには、海外市場の開拓が欠かせない」とみる――。
写真=時事通信フォト
カレーショップ「カレーハウスCoCo壱番屋」の看板=15日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■フランチャイズ含め10年後には30店を目指す

「カレーハウスCoCo壱番屋」(ココイチ)を運営する壱番屋は、今年7月、三井物産と組んでインドに進出すると発表した。壱番屋は日本での実績を引っさげて、カレーの本場インドで勝負する。

進出するにあたり、新会社を設立した。資本金は約3億円で、出資比率は三井物産のグループ企業であるアジア・大洋州三井物産が6割、壱番屋が4割となる。三井物産が持つネットワークや知見と、壱番屋のカレー店運営のノウハウを持ち寄る。

壱番屋は6月末時点で、国内外で1500店近くを展開。このうち海外では、中国や韓国、米国など12の国と地域に計180店を展開する。海外展開は1994年にハワイのオワフ島に出店したのが始まりだ。

インドは13億人もの人口を抱えており、うまくいけば大きな収益が見込める有望市場といえる。筆者が壱番屋に取材したところ、日本のカレーを持ち込んで勝負するという。現地の食習慣に合わせて、動物性食品を含まないルウを日本の工場で製造してインドに輸出し、2020年をめどに1号店を首都のニューデリー近郊に出店する計画だ。5年で合弁会社の直営店舗として10店、その後フランチャイズ(FC)展開し、10年後にFC含めて30店を目指す。

■インド人は「うま味」になじみがない

ココイチのインド進出は興味深い。インド人は食に関しては保守的で、見慣れない食べ物にチャレンジする気持ちはそれほど強くはないと言われている。ココイチの日本式カレーが通用するかは不透明だ。

また、日本のカレーは小麦粉でとろみをつけ、うま味やコクを特徴とするものが主流だが、インドでは小麦粉を使わずサラッとしていて、スパイスを効かせたものが主流だ。両者は別物と見る向きが強い。そしてインドでは「うま味」になじみがなく、うま味をおいしいと感じない人が大半だ。この点も気がかりだ。

とはいえ、インドでも、主要都市を中心に欧米など外国のライフスタイルに憧れる中間層の購買力が増したことで、「マクドナルド」「ケンタッキーフライドチキン」「ドミノピザ」といった世界的な飲食チェーンがそれなりに浸透してきている。外国の飲食チェーンが受け入れられる素地は整いつつある。見慣れない外国の食べ物だからという理由だけでは拒絶されにくくなっているだろう。

■マクドナルドは「スパイシー」「チリ」押し

インドで成功している外国の飲食チェーンの多くは、インド人の嗜好に合ったメニューを積極的に開発して提供している。

例えば、マクドナルドはインドでは「spicy(スパイシー)」や「chilli(チリ)」といった言葉を冠した商品を多く取りそろえている。香辛料が効いた料理を好むインド人に合わせたメニュー構成にしているのだ。食文化に合わせて牛肉を使わず鶏肉を使ってもいる。

インドのマクドナルドのメニュー(HPより)。「スパイシー」がひとつの商品カテゴリーになっている。

また、地方領主を意味する「マハラジャ」の名を冠した「マハラジャバーガー」をインド限定で販売している。本家のメニューをそのまま持ち込むのではなく、インド向けにアレンジして市場の攻略を図っているのだ。

中華料理も、アレンジを利かせたものが大半だ。通常の中華料理にインド独特のスパイスを入れるなどして、現地の好みに合った味付けにしている。これは「インディアンチャイニーズ」と呼ばれ、インド人に広く受け入れられている。

■日本料理店も味付けに工夫をしている

インドの日本料理店も、もちろんこうした工夫を行っている。例えば、鉄板焼きのソースに豆板醤や唐辛子、マサラなどのスパイスを加えて刺激を出すようにするなど、日本のスタイルそのままを出すのではなく、インド人が好む味付けにして提供しているところが多い。

インドでは日本料理はイタリア料理や中華料理と比べてマイナーな存在だ。しかし近年はインドの有名人が「健康に良い」という理由で、すしなどの日本食を食べていることをメディアで話し、一般人が興味を持つケースが増えている。日本食に注目が集まり出しているのだ。これは追い風だろう。もっとも、他国同様にインドでも日本料理といえばすし、鉄板焼き、天ぷらであって、日本のカレーはあまり知られていない。

こうした状況のなか、ココイチは日本のカレーをそのまま持ち込み、「ジャパニーズカレー」として売り出す考えだ。ある程度インド向けにアレンジする可能性はあるが、日本のカレーが受け入れられるかどうかに注目が集まる。

■国内では順風満帆なココイチ

難しい挑戦に挑む壱番屋だが、日本では順風満帆だ。国内では約1300店のココイチを展開している。既存店売上高は好調で、17年10月から19年6月まで21カ月連続で前年を上回っている。通期ベースでは、19年2月期が前年同期比2.1%増、18年2月期が1.8%増と2年連続で前年を上回った。

直近本決算の19年2月期の連結売上高は、前期比1.5%増の502億円だった。3カ月でそれぞれ200万食以上販売した「手仕込とん勝つカレー」と「手仕込ささみカツカレー」が好調だったほか、9カ月で約260万食販売したスパイスカレーシリーズの存在もあり、既存店売上高が好調に推移したことが寄与した。

営業利益は、食材価格や人件費の上昇でコスト高となったことから、前期比5.7%減の44億円となった。それでも売上高営業利益率は8.8%にも上る。飲食店を運営する企業の中ではかなり高い水準だ。

■値上げをしても客離れが起きない圧倒的人気

ココイチは国内のカレー業界では圧倒的なポジションを築いている。ココイチの約1300店舗に対し、店舗数業界2位とされるゴーゴーカレーですら約80店にすぎない。これほどの寡占は、飲食業界では極めて珍しい。カレー業界内では脅威となる競争相手が存在しない状況だ。

他ジャンルの飲食チェーンでカレーを提供するところもあるが、味やコストパフォーマンスの面でココイチを上回るところを筆者は知らない。また、個人経営のカレー店でココイチよりもおいしいカレーを提供するところはあるが、コスパやブランド力の観点からココイチの大きな脅威にはなりえないだろう。ココイチは味とコスパの良さを武器に、圧倒的ポジションを築いているのだ。

こうした際立った存在感ゆえか、ココイチは値上げを行っても客離れが起きなかった。

今年3月、一部の店舗を除いて、定番商品のポークカレーと甘口ポークカレーを21円値上げした。それにより東京23区と横浜市、川崎市の店舗では505円に、それ以外の地域では484円となった。客の移ろいが激しい飲食業界では値上げは客離れにつながるが、値上げ後の3〜6月累計の既存店客数は前年同期比0.1%増と、むしろ増えている。コスパの良さと、ほかにはない味がココイチにあるためだろう。

■ハウスとの深い協力関係が繁栄につながった

ココイチの圧倒的な強さの背景には、カレーの原材料の供給元であるハウス食品との深い関係性がある。カレーソースの原材料となるルウや香辛料を大量に安定的に調達できる企業となると、ごく一部に限られてくる。「バーモントカレー」に始まって、ハウス食品は他企業よりもカレーに関して一日の長がある。長く協力関係を築き、原材料を安定して調達できたことがココイチの今日の繁栄につながっている。

早くからセントラルキッチン(集中調理施設)を設けたことも大きいだろう。カレーソースは工場で集中加工して大量生産するのに向いている。店舗ではカレーソースを温めるだけでカレーを提供できる。

■創業の翌年には工場を開設した

ココイチの1号店が誕生したのは1978年。翌79年には愛知県にチェーン本部と工場を開設している。97年には佐賀県、99年に栃木県にそれぞれ工場を完成させた。これらの工場ではハウス食品から仕入れたルウなどを使ってカレーソースを製造し、全国の店舗に供給している。

ほかのカレー店では、カレーソースの製造を店舗で行ったり、社外の工場に委託したりすることが多い。これではコストが膨らむため、その分を価格に転嫁するしかない。そうなればコスパは悪くなってしまう。一方、ココイチは自社の工場を持つことでそのコストを削減し、低価格・高利益を実現してきたのだ。

ココイチの国内における圧倒的なポジションは当面、安泰だろう。だが、国内店舗数は伸びているとはいえ、かつての勢いはなく飽和感が漂い始めている。さらなる成長を果たすには、海外市場の開拓が欠かせない。そうしたなかで、インドで勝負する道を選んだというわけだ。ココイチがカレーの本場で成功するかに注目が集まる。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)