逆転の発想でたどりついた境地!大横綱・白鵬が解き明かした、大横綱・双葉山の理想の立ち合い「後の先」のトリックの巻。

写真拡大 (全3枚)

後の先とはこういうことだったのか!!

「後の先」。いわゆるコントルアタック、カウンター。剣術においては相手を先に動かし、その切っ先を払いのけ、体勢を変えられないところに放つ必殺の一撃であるとも。一度動き始めたものは大きなチカラを加えなければ止まらないという自然の摂理を背景に、相手を仕留める達人の極意です。

相撲の世界でもその境地に達した伝説的横綱がいました。第35代横綱・双葉山、言わずと知れた69連勝。その双葉山が目指した理想の立ち合いこそが後の先でした。そして、双葉山の「後の先」の境地とは「相手より一瞬遅れて立つものの、先手を取って勝つ」という魔法のようなものであると僕は長年信じてきました。

しかし、それは自然の摂理に則っているのだろうか。

剣術の「後の先」、空手の「後の先」、ボクシングの「後の先」はわかります。相手の1本しかない剣、2つしかない拳を払いのける、あるいは見切ることができれば、そこにはもはや守りも攻めもありません。ガラ空きの有効面を突くのみ。なるほどコレは納得の極意です。それができるならば必勝です。

ですが、相撲はどうでしょう。「相手が先に立ったら、間に合わなくない…?」という率直な違和感。この違和感は長年に渡って無視されてきました。なぜなら「双葉山が理想だって言うから」。歴史上最強とも謳われる双葉山が理想だって言うんだもん。イチローが「バットを振り遅れ気味に出して身体の前でとらえる」って言ったら、「ん?」と思ってもそのまま受け入れるしかない感じで、双葉山がそう言うんだもん。違和感は双葉山の威光によってかき消されていました。

その違和感に真っ向から挑んだ大横綱、それが第69代横綱・白鵬でした。白鵬は世間がイメージするとおりの「後の先」に取り組み、実際にそうした取り組みを見せ、やがてそれをやらなくなりました。「やっぱり双葉山には及ばないのか」「白鵬は理想を諦めたのか」「やっぱり相撲に後の先なんてないんだよ」と世間はいつしかそのことを忘れていきました。

だが、白鵬はつかんでいたのです。「後の先」の境地を。それはまさにコペルニクス的転回でした。キン肉マンで言うところのマッスル・リベンジャーでした。説明しなくてもわかると思いますが、マッスル・リベンジャーの「上から頭突きをしているほうが技を仕掛けていると思っていたけれど、実は下から頭突きをしているほうが技を仕掛けていたのだ」というトリック、そこに白鵬は気づいたのです。

↓説明しなくてもわかると思いますが、マッスル・リベンジャーとはこういう技です!


壁画の左端、縦長のヤツをずっと「上が落下式頭突きで攻撃してる」と誤解させられていたんですが、実は「下が突き上げ式頭突きで攻撃していた」んです!

ビックリしますよね!気づきませんよね!

説明しなくても知ってると思いますけど!

そして白鵬は気づいたのです。「後の先」とは相手を先に立たせることではないのだと。相手に先に準備を終えさせて、自分は後から仕切りに入り、そこで自分のタイミングで立つことなのだと。相手に先に「ようい」をさせ、自分が「ドン」の合図をすることで、先に立ち上がって先手を取れるという立ち合い駆け引きの極意であったのだと。もとからあった違和感に自然にしたがっていればもっと早く気づいたであろう真実を、日本中が何十年もダマされていたトリックを、白鵬はようやく解き明かしたのです。

さすが白鵬です。逆に言えば白鵬でなければ気づくことはできなかったでしょう。「歴史上一番強いはずの俺ができないことを、誰ができるんだ?」という圧倒的自負がなければ気づけるはずがありません。「後の先」の境地に至らない自分を、単に双葉山にチカラ及ばないだけと思ってしまったはず。「俺のほうが双葉山より絶対強い」と思える男でなければ気づけないことに、ようやく気づけた。さすがは白鵬です!

↓それではご確認ください、これがついに見出された「後の先」の極意です!

「後の先!」
「俺も後の先!」
「負けじと後の先!」
「絶対譲れない後の先!」
「誰が何と言おうと後の先!」
「後の先!後の先!後の先!後の先!」

意地と意地のぶつかり合い!

後の先と後の先が激突したとき、戦いは始まらなくなる!


時間いっぱい、待ったなしの仕切り。白鵬は後の先を繰り出します。立ち上がって碧山をにらみつけ、「先にしゃがめ、先に手をつけ」と見下ろします。足でその辺の砂をさすって、早く手をつけと待っています。しかし、碧山も「後の先」の秘密に気づいていました。中腰の体勢から一旦置き上がると、下がりをいじったりして時間を潰し、「しゃがむかな…?」というフェイントを繰り出してはまた中腰で止まります。掟破りの「後の先返し」。白鵬に対して「そっちこそしゃがめ、手をつけ」「いっつも駆け引きしやがって」「横綱だからって後出しは許さんぞ」と睨み上げます。

しかし白鵬も偉大なる後の先マスター。咳払いをひとつし、足で砂をさすると、「一度そんきょの体勢になってからもう一度立ち上がって再びしゃがまない」という「二段後の先」を繰り出したのです。さすらなくてもいい砂をさすり、振らなくてもいい手を振り、白鵬はじっと待ちます。たまらず行司は「手をついて!」と言いながら手で合図を送りますが、白鵬は動きません。碧山もまた中腰のまま動きません。

時間いっぱいから1分以上、「後の先」を繰り出した両者の火花散る戦い。白鵬が足で砂をさすった回数は20回にも及びました。さすりすぎて土俵は鉄板のようにカチンコチンです。観念したように少しずつ両者は地面に近づいていきますが、白鵬は最後まで決して手を下ろすことはなく、尻だけを浮かせて「立ちそう」な気配を見せ、相手の動きを誘います。そして、碧山が右手を土俵につき、わずかに重心を下げた瞬間、「今こそが後の先!」と白鵬は動きます。砂を舐めるように両手でわずかに地面をこすると同時に重心を浮かせ、碧山が左手を土俵につく前に立ち上がったのです。

相手が動き始め、まだ「両手を土俵につけねば」と思っているその最中に、自分はサッと両手で土俵をかすめて立ち上がる。土俵への接地順で言えば「相手の右手⇒自分の両手⇒相手の左手」という順で手をつき、相手より先に立ち上がる。「相手がまだ下がっている間に上がっていく」。これこそが「後の先」の正体だったのです。

「き、き、きったねー!」「そう言えばソレ、いつもやってるな」「これまでは相手が先に動くのが当たり前だったからスーッと流れてきたけど、相手も後の先の使い手だとこんなことになるのか」と慄く茶の間。この技を破るには、碧山が粘ったように「自分も手をつかない」「絶対立たない」か、逆に「両手を先について、突っかけ気味に立つ」しかありません。しかしそれは、相手が立たないなら自分も立たない、相手が先に立ったら自分は立たない、という「立たない」ことで潰せるのです。「地位が下の者が先に腰を割り、先に手をつく」というマナー的なものがある限り、白鵬の「後」を取ることはできないのです!

こうして現代に完全に甦った「後の先」の極意。

双葉山も双葉の陰から微笑んでいることでしょう。

「そうじゃ、それが後の先じゃよ」と…!

↓ま、行司のサジ加減次第で「後の先」を止められることもありますが!

「後の先」を繰り出した明生は、行司に二度「手つき不十分」で止められました!

「後の先マスター」だらけの大相撲になったら、両者手をついてピストルの合図で立つしかない感じになりそうですね!

白鵬さんからも注意してやってください!

「これをやっていいのは俺だけ」と!


豪栄道さんも「そうだそうだ」「俺と白鵬の特権」と怒っています!