AIによる画像の生成技術は日進月歩で進化しており、実際にAIが合成した実在のセレブっぽい写真や、この世に存在しない人物の画像などがインターネット上で公開されています。そんな中、AIが合成した顔写真をプロフィールに使用した架空のアカウントが、トランプ大統領の腹心だった政府高官と接触を図っていたことが報道により明らかになりました。

Experts: Spy used AI-generated face to connect with targets

https://www.apnews.com/bc2f19097a4c4fffaa00de6770b8a60d

A spy reportedly used an AI-generated profile picture to connect with sources on LinkedIn - The Verge

https://www.theverge.com/2019/6/13/18677341/ai-generated-fake-faces-spy-linked-in-contacts-associated-press

AP通信によると、スパイであるという「ケイティ・ジョーンズ」なる人物のLinkedInのプロフィールはこんな感じだったとのこと。知的な印象を与える女性の顔写真とともに、一流シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)や、アメリカ有数の名門大学であるミシガン大学卒という経歴が示されています。



しかし、アーティストでAI技術の専門家でもあるマリオ・クリンゲマン氏は、この顔写真を偽物だと看破しました。クリンゲマン氏はこの顔写真が偽物であることの根拠として「背景が不明瞭」「背景や目頭に不自然な斑点がある」「絵画的なタッチの髪」「頬のしわや汚れ」「イヤリングが溶けたようになっている」「耳に奇妙なうろこ状の模様がある」「目の形がゆがんでいて、左右の瞳の色も違う」点を挙げており、「敵対的生成ネットワーク(GAN)により生成された顔に典型的な特徴です」と指摘しています。





素人目にも明らかにおかしいと分かるのは耳の模様やイヤリングくらいものですが、それもよく見れば分かるという程度で、全体的にはSNSのプロフィール欄に掲載されていたら違和感を覚えないほど自然な顔写真に見えます。



「ジョーンズ氏」のLinkedInアカウントには52名の「つながり(一般的なSNSでいう友だち)」が紐付いていて、その中には以前トランプ大統領の下で国内政策アドバイザーを務めていたポール・ウィンフリー氏などが名前を連ねていましたが、AP通信がコンタクトを試みた直後に「ジョーンズ氏」はアカウントを削除してしまったということです。

偽のLinkedInアカウントが発覚したのは、イギリスのシンクタンクである王立国際問題研究所でコンサルタントを務めるキア・ジャイルズ氏が偽アカウントからの「つながり申請」を受けたことが発端でした。

ロシアに関する安全保障問題の第一人者でもあるジャイルズ氏には、「CSISでロシアとユーラシア地方の特別研究員を務めていたという経歴が本物なら、自分が彼女を知らないはずがない」という確信があったとのこと。AP通信によるとCSISのスポークスマンも「ケイティ・ジョーンズ氏」という人物の在籍を否定したとのことです。

アメリカの国家防諜・セキュリティーセンター(ONCIX)長官であるウィリアム・エバニーナ氏はAP通信の取材に対し、「アメリカに本物のスパイを送り込むより、上海からPCを使って3万人のターゲットに友だち申請を送る方がはるかに効率的です」と語り、アメリカの敵対国が偽のSNSプロフィールを使ってスパイ活動を行うのは日常茶飯事であるとの見解を示しました。