"バイトリーダーvsゆとり社員"の戦い
■ゆとりを追い込む、バイトの嫌がらせ
アルバイト(非正規雇用)と正社員(正規雇用)はその待遇はもちろん、業務内容も大きく異なる。一般には正社員がリーダーシップを発揮し、現場で働くアルバイトの指揮系統を担うものだ。だが、正社員よりも長く在籍したバイトが現場に入った若手社員と対立しトラブルに発展するケースが現在、後を絶たないのだ。
まずは若手社員のトラブルを紹介する。有名国立大学卒の太田穣さん(仮名・30歳)はマスコミ勤務を経て、26歳のとき映画館の運営会社に転職した。「出版業界でいう本屋大賞のように映画館発でヒット作を出したいと思い、映画館の運営会社に思い切って転職しました」と話す。
彼が配属されたのは西日本にある大規模なシネコン。同社では社員の9割が現場(映画館)に立っておりアルバイトを束ねていた。太田さんは1週間の研修のあと早速、100人のバイトに指示を出す現場のリーダーとなった。
現場発の企画やアイデアを出すことで映画業界を盛り上げようと思った太田さんだったが、そこで待っていたのは典型的なトップダウン構造。本部からは現場は現場の仕事に徹しろと言わんばかりの指示を出された。そして苦痛の日々が始まった。
「配属してすぐにベテランのバイトさんがやけに反抗的な態度を取ってきました。聞けば、彼女は8年前のオープン時から在籍している41歳のバイトリーダー。彼女が実質的に現場を支配していたのです」
いきなり浴びた洗礼は太田さんへの“逆差別”だった。
「『大学を出ているのにこんなこともわからないの?』といった学歴批判から始まり、まだ20代という若さを理由に『若いからわからない』などとすべての行動に嫌みを言われる。最初に配属されたのは映画館でドリンクやフードを出すチーム。配属初日にポップコーンをつくるペースやレジの使い方まで学んだのですが、私がそのバイトリーダーに質問しても何も教えてくれない。それでもがんばって覚えようとメモを取っていたところ『メモっても意味ないですよ』と言われました。しかし、それでは当然仕事は覚えられない。翌日、再度作業フローを聞いたところ『なんでメモ取らないんですか?』と嫌がらせのように言われました」
■バイトリーダーが現場で王様のように振る舞える理由
その後も彼女の態度は悪化する一方だった。
「同時に大勢の客が訪れた際、バックヤードで事務作業をしていた私は現場のヘルプに入ろうとするのですが、彼女は必ず拒否しました。明らかに人が足りていないので強引に手伝っていましたが、私が『現場にくると余計混乱する』そうでして。さらには全員参加が必須の新商品の研修会にも無断で欠席したり、若手バイトには『社員は無視して自分の言うことに従え』と指導したり、とにかくやりたい放題でした」
もちろん、これには現場も混乱した。バイトリーダーと社員・太田さんの2つの指揮系統ができてしまったため、アルバイトはどちらの指示を聞いてよいのかわからずトラブルも増えたという。その後入った社員もバイトリーダーと馬が合わず退職し、自身も精神的に摩耗していったという。
このような事態に対して太田さんがアクションを起こさないわけがなかった。当時上司だった店舗マネジャーに自身の部署異動もしくは彼女を解雇するよう遠回しに懇願した。だが、「彼女はオープニングスタッフで今では発注も担当している。現場の全ジョブローテーションも終え、新人教育もできるから強くは言えない」と申し出は一蹴された。
そんな中、上司は1度彼女に社員登用の相談をしたが、彼女は断った。
「バイトは急に休むことも日常茶飯事。その分の仕事を社員が補填するので本来は午後5時終わりでも深夜残業や休日出勤も珍しくありませんでした。社員の辛さを見ていたバイトリーダーは、現場で王様のように振る舞える自身の立場を手放したくなかったのでしょう」
バイトリーダーからの嫌がらせは日に日に強まり、結果、太田さんはわずか8カ月で退社を決めた。
「その後、問題のあったバイトリーダーは新しいマネジャーが彼女の勤務態度の悪さを理由に解雇しました。しかし、彼女は業務の核を担っていた存在。辞めてからは社員が半年間ほぼ無休で働いたそうです」
■忙しいに副店長は “つめしぼ”を作っていた
太田さんとは真逆の立場からも言い分はある。現場を仕切るバイトリーダーとして長年飲食店で勤務していた男性は「新人として現場に入ってきた正社員とは衝突せざるをえない理由がある」と振り返る。
新宿駅前にある中堅規模のチェーン居酒屋で11年間アルバイトをしていた伊藤大輔さん(仮名・33歳)。平均して週に6日勤務した彼は「仕事ができない社員」の迷惑を被り続けていた1人だ。
「主な業務内容は調理以外の接客、会計、清掃など。ホールはすべて私がバイトリーダーとして仕切っていました。250人入る大規模店でしたが、2年で仕事は一通り覚えられます。しかし、私の数カ月後に入った正社員が本当に使えなくて……」
伊藤さんの職場は店長と副店長が正社員である以外は全員がアルバイト。伊藤さんは10人のアルバイトを束ねる立場で店長と副店長の次のポジションだったが、実質的には店長と副店長の間のポジションだった。
「最初の2年は互いに仕事を覚えたてということで副店長との間に問題は起きませんでした。しかし、次第に彼が使えないということがわかり、他のアルバイトにも迷惑をかけていたため、私が彼を注意せざるをえないことが増えてきました」
客席の多い居酒屋はとにかく席の回転率をあげなければならない。2時間で食事と飲み物のオーダーを終え、次の客を案内する必要があった。
だがこの副店長、バイトリーダーの伊藤さんから見ると「使えない」。
「ホールが大忙しのときに副店長はキッチンで“つめしぼ”(冷たいおしぼり)を作っていました。仕事の優先順位が間違っていると感じたので『忙しいのに何をしているのだ』と注意したのが最初でした」
■バイト中、副店長と殴り合いの喧嘩する事態に
それからは店内のオペレーションで食い違うことが増えてきたという。
「団体客を案内しなければいけない席に自分の判断で勝手に他の客を移動させるなど、とにかく判断ミスが多い。彼が起こしたトラブルのクレームは私が処理していました」
だが、一連の問題行動を注意するたび、副店長は伊藤さんに反論してきた。伊藤さんは店長に直談判し、彼を異動させるかクビにしてほしいと懇願したそうだ。この構造、前出の太田さんとは真逆のパターンだ。しかし、店長は社員である副店長を擁護する。結果、事態は最悪の展開を迎えた――。
「バイト中、副店長と殴り合いの喧嘩になってしまったことがあって。店長が止めに入りましたが、彼はその場で『もう帰ります』と言って立ち去ってしまった。職場放棄ですよ(笑)。副店長は『伊藤がいる限り俺はもう出勤しません』と店長にダダをこねてきたそうです。この騒動の翌日以降、店長からはしばらくはバイトに入らないように指示されました」
2週間の“謹慎”のあとも、喧嘩は続いた。ロッカールームで2人きりになると副店長は伊藤さんに何度もつっかかってきたのだ。
「彼は仕事ができないにもかかわらず、謹慎したのは私のほう。副店長の意見を優先したことを含め、正社員はいかに優遇されているかを思い知りました。現場を回しているのはこっちなのに、トラブルになると雇っている会社はこちらを守ってくれない」
ここで、当然の疑問が。太田さんのケースのように、そこまで仕事ができたのなら社員に登用したいという誘いもあったのでは?
伊藤さんも「何度も正社員登用を勧められましたが、すべて断りました。社員になれば業務量は増えるし、簡単に休みも取れなくなる」と説明する。有名私立大学卒業という学歴もあり「働くならばホワイトカラーの職場で働きたい」と思ったという。
その後、店は閉店。それと同時に伊藤さんは飲食業界とはまったく異なる広告業界に就職した。以来副店長とは会っていない。
■「アルバイトリーダーの権限が大きすぎるのが最大の問題」
ベテランアルバイトと若手社員のトラブルは「以前より増えている」と解説するのは、これまでに数百社の人事や労務にまつわるトラブルに応じてきた特定社会保険労務士の稲好智子氏だ。
「アルバイトリーダーの権限が大きすぎるのが最大の問題です。特に、飲食業や接客業の現場ではアルバイトの業務範囲をきれいに線引きするのが難しい現状があります。トラブルが起きた場合、解決策は物理的に両者を引き離す人事異動しかありません。しかし、2つのケースのように上司に相談しても取り合ってくれないこともあります。あまりにも辛辣な発言があった場合は、録音するなどして記録を取らない限り、上は動いてくれないでしょう」
この問題は根深い。同じ大卒でも年代によって就職のしやすさが異なっているため、就職氷河期世代のバイトリーダーは苦労せずに採用された正社員を妬んでいる、そんなケースもあるのだという。
さらに両者の問題をこじらせるのが、2018年4月から本格的に始まる、“無期転換ルール”だ。「2013年よりアルバイトや正社員など、雇用形態を問わず同じ職場に5年以上勤務した場合、本人が希望すれば、会社は雇用し続けなければならないと法律が変わりました。極端な話、週1日勤務のスーパーのレジ打ちバイトでも、5年以上働いていた場合は5年1カ月目以降も会社は無期雇用しなくてはいけません」。
なぜ法律改正が行われたのか。
「労働者を守るためです。これまで、有期労働契約とはいいながらも、実態としては契約が何度も更新され長期にわたって雇用が継続されているケースが多く見られました。その場合であっても、会社側はある日突然被雇用者にクビを通告できてしまっていた。結果、訴訟トラブルになっても、被雇用者の多くは何もできずに泣き寝入りしてしまっているという実態があったのです。そのような問題を防ぐためや、雇われている側の不安を解消するために設けられたのがこのルールです」
平たくいえば、長く雇用された労働者を企業は簡単にクビにしてはいけないというルール改正だ。だがこのルール、早速問題を生み出していた。「ちょうど18年度末をもって通算契約期間5年となるアルバイトが急に雇い止めを通告されるというケースが増えています。無期転換権が行使される前に有期雇用者を全員雇い止めするという方針を出した会社もありました」と稲好氏。
■若手社員がベテランバイトと良好な関係を保つ5つのコツ
景気が悪くなったときにアルバイトを簡単にクビにできないことは、リスクと会社は考えているようだ。もう1つ懸念点はある。5年以上勤務したアルバイトは、何年も同じ仕事をすることになり、昇進や昇給もしない事態が生じるかもしれない。
「もちろんそれもありえます。一方で、今後は同一労働・同一賃金の法制化も予定されています。同法では、同じ仕事をし、同じ責任を担っているのであれば、会社は正社員であるのか、バイトであるのかといった身分にかかわらず、被雇用者に同じ処遇を保障しなければなりません。それによって、伊藤さんのようなベテランのアルバイトには、正社員と同等の給与や賞与の支給義務などが生ずることになってきそうです」
会社側としては人件費の高騰は避けたいのが実情だろう。今回のケースでは各職場とも、安い賃金で雇えるからという理由で現場の大半をアルバイトが占めていた。双方のトラブルを防ぐ策はほかにはないのか。
「アルバイトよりひとつ上の処遇をつくるのもひとつの方策ですね。バイトリーダーのように様々な仕事を任せる場合、バイトと社員の中間にあたる“準社員”という雇用形態を導入する会社も見られます。アルバイトを束ねるのは準社員、さらに全体をマネージするのは正社員。仕事の権限と雇用形態を細かく分けることで太田さんの職場で見られたようなバイトリーダーの暴走を防げるかもしれません」
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(1)“使っている”意識を捨てる
スタッフを「自分の仕事を助けてくれる人」「企業に貢献してくれる人」と考えるのがベスト。「人を使っている」という意識だと、知らないうちに言動に出てしまうことも。
(2)年上だからと気を使いすぎない
年長だからといって、気を使いすぎて注意ができなかったり、他のスタッフとの接し方に差をつけすぎたりすると、若いスタッフたちが不満を抱くことも。体力面への配慮以外は平等に接するべし。
(3)“人生の先輩”に敬意を
仕事では部下でも、人生でいえばベテランバイトは自分より先輩。「人生経験の豊富な方として、認めています」という気持ちを持とう。気持ちを変えればベテランバイトのよさが見えてくるかも。
(4)とにかく話し合う。そして柔軟に対応する
同業種を経験してきたベテランバイトには、「前の職場では○○だったのに、なぜこの職場では違うのか?」と疑問を持つ人も。正しければ意見を取り入れるなど柔軟に対応しよう。
(5)名前をしっかり呼ぶ
スタッフ数が多くても、「バイトさん」「パートさん」などと雑に呼ばず、きちんと名前で呼ぶこと。個として尊重していることを示すことができる。
(6)あいさつ+αを心がける
「おはようございます。昨日は遅くまでお疲れ様でした」「お疲れ様です、今日はあの仕事を終わらせていただいて助かりました」など、あいさつに一言、ねぎらいの言葉などをプラスする。
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フォーブレーン代表
特定社会保険労務士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。企業の人事労務に関するコンサル業務などを経て2005年に独立。
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(編集者・ライター 鈴木 俊之 撮影=横溝浩孝)

