【インタビュー】松岡茉優「目標は女性版の八嶋智人さんになることです!」
猫好きの、猫好きによる、猫好きのための人気コミックス「猫なんかよんでもこない。」が映画化。風間俊介さん演じる冴えない元ボクサーミツオの前に突如現れた捨て猫のチンとクロとの貧乏生活の中で、ヒロインとして登場するのが、若手注目女優の松岡茉優さん。3度目の共演とあって息の合った姿を見せた風間さんのこと、初の動物映画出演で感じたこと、そして自身の女優観について、お聞きしました。


『監督には全部筒抜けで、ちょっと恐ろしいくらいでした(笑)』




――2匹の猫と不器用な元ボクサーの男の物語ですが、すごくほっこりしつつ、それでいて将来のことを考えさせられるような作品ですよね。松岡さんはご覧になっていかがでしたか?

松岡:今回の作品は撮影がタイトで私も参加したのは2日間だったんです。私は風間(俊介)さんとのシーンがメインだったので、他の現場の空気は全然感じることができなかったのですが、出来上がった作品を観て、本当にキュートだしチャーミングだし癒されるし、でもグッとくるし、命のことも考える魅力溢れる作品だなと思いました。だから劇場に癒されに来ていただきたいなと思いました。

――松岡さんが演じたウメさんは、山本(透)監督が「ぜひ松岡さんに」と熱望されてのオファーだったそうですね。

松岡:山本監督との出会いは映画「グッモーエビアン!」のオーディションだったんです。別の撮影とかぶってしまって二次オーディションに参加することがどうしてもできず、私の中で「不戦敗」の気持ちがあったので、今回呼んでくださって、私を覚えていてくださったのが本当に嬉しかったです。

――監督はどんな方でしたか?

松岡:監督は、見た目はパンクなんですよ(笑)。髪型がツンツンしていて、パンクのTシャツ着て、ダメージジーンズを穿いて(笑)。でも、すごく繊細な方で、撮影中、誰も気づかないような私にとってのちょっとした違和感を感じとってくださって「もう1回やってみる?」と聞いてくださったりしました。「監督には全部筒抜けだ」とちょっと恐ろしいくらいでした(笑)。本当に小さな機微まで全て見逃さずに、俳優を信頼してくれる監督なので、こちらもその信頼に応えたいし、信じてもらえるということがすごくありがたく心地が良かったです。


『風間さんは私がどんな球を出しても全部投げ返してくださる方でした』




――猫と風間さんのシーンが多いので、ウメさんを登場させることで物語の幅が広がると監督はおっしゃっていました。そうなると結構重要な立ち位置のヒロインですよね。

松岡:男性とオス猫という男が主軸の物語の中で、雌猫もいますけど女性である私がどういう関り合いができるかというのは私自身としても、ウメさんとしても、俯瞰で見てよく考えた部分でした。女性の包容力であったり、優しさだったりとかを特に意識していました。

――風間さんとの共演は3度目になります。

松岡:風間さんの主演俳優たる意識は物凄いなと思いました。現場ではスタッフさんの顔も名前も全部覚えているし、好きなものとかも覚えているんです。撮影中も通行人の方をスタッフさんより先に気づいて「お通りください」と気遣っていらっしゃいました。その言い方もとても気さくな感じで友達みたいに言うんです「あっ、どうぞ、どうぞ!」って。私は人見知りするタイプなので本当にすごいなぁと思いました。

――主演の方っていろいろなタイプの方がいますよね。

松岡:そうですね、主演俳優の方々をたくさん現場で拝見してきましたけど、「俺について来い!」タイプだったり、「みんな一緒に行こうぜ!」というタイプだったり、「好きにやっていいよ」タイプなど、俳優さんそれぞれだと思います。風間さんの場合は、「みんな一緒に楽しもうよ!頑張ろうよ!」ってタイプなのかなって私は思いました。風間さんが現場でどっしりと構えてくださっていたので私も自由に演じることができましたし、風間さんに頼りっきりでお芝居をさせていただきました。

――確固たる主演俳優がいたからこそ、自由なお芝居ができたんですね。

松岡:映画のミツオはちょっと情けない男の子なので、あんまりそういうふうには見えないかもしれませんが。風間さんご自身は、どっしりと構えた、お芝居にすごく真摯に向き合っていらっしゃる方です。軽快に見えるんですけど真の真まで突き詰めて演じていらっしゃる方だなというのは思いました。こちらがどう出るかを構えて待っていてくださるので、私がどんな球を出しても全部すくって投げ返してくださる方でした。そういう部分って私にはまだないんですよね。どちらかというとエネルギーで押してしまうので。風間さんは聞き役や受け取り役というものにもの凄く長けてらっしゃる方だなと思いました。


『「コウノドリ」は影響を受けました…子供を産むまでが奇跡』




――この映画は「猫映画」なわけですが、松岡さんご自身は、ペットや動物との思い出ってありますか?

松岡:セキセイインコを昔飼っていたんですけど、体調が悪いのに気づいてあげられなくて病院に慌てて連れていったけれども、結局すぐ亡くなってしまったことがありました。もっと早く気づいてあげていれば助けられたんじゃないかなと思うと、今でも心残りです。

――そのお話って、今回の映画ともすごくリンクしていますよね。最近の松岡さんの出演作を観てみると、「ストレイヤーズ・クロニクル」や「コウノドリ」など「命」を主なテーマにおいた作品が多いなと思うのですが…。

松岡:そうなんです!多いんですよ!でも気づいたんですけど、生きとし生ける人間を演じている以上、命が関わらないことってないんですよね。私も、やたらに「命に関わる役が多いな」と思ってはいたんですけど、どうやら生きている以上、命に関わるものしかありえないことがわかっちゃいました(笑)。

――そういう役を演じてきて、生き方について影響を受けたりしたことはありますか。

松岡:毎回影響はありますね。特に「コウノドリ」は影響を受けました。私、15歳の頃から「子供は3人ほしい」と声高らかに言っていたんです。けど、そんなに軽々しく言うものでは無くて、子供を産むまでが奇跡だし、育っていくことも奇跡だし、とてもじゃないけど「3人欲しいです!!」って言えるような覚悟も責任も経済力もないと痛感し、白紙になりました。「コウノドリ」の影響でこれまで5年間ずっと温めていた思いが真っ白になって、そんな日が来るとは思ってもいなかったんです。そんなこともあって、今回は特に「動物を飼う」「飼わせていただく」「飼ってみる」ってどういうことなのだろうとじっくりと考えました。今まで動物を飼ったことのない子どもたちがこの映画をどう受け取るのかということにもすごく興味があります。是非小さい子に観てもらいたいな、というのが個人的な願いですね。


『私には「最終兵器・新人女優」という肩書があるんです(笑)』




――こうしてインタビューさせていただいていると、ポンポンポンと回答してくださって、頭の回転が早いなと感心してしまいます。松岡さんは女優以外にもバラエティーでの活躍も注目されていますが、バラエティーと女優のお仕事ってやはり違いを感じますか?

松岡:そうですね、15歳で俳優になりたいと決めて20歳になったこの5年間は俳優に関してはプライドもこだわりも持ってやってきました。だからこそ口出しされたくない部分も正直あるんです。例えば、お芝居の先生や先輩に指示していただくことはアドバイスですけど、母とかに何か言われると「もうやめて!」と思うようになってしまいました(笑)。子役の時は、母にセリフ合わせとかしてもらっていたのに、今はとてもじゃないけどできないです(笑)。バラエティーに関しては、バラエティーという王国に芸人さんやタレントさんがいるわけで、そこに行くために私は、番宣物を持ち、それが“通行証”になるんですよね。通行書で入れてもらって、お仕事させていただいている感覚なので、俳優とバラエティーってまったく別物だと思います。でも、テレビが大好きで、バラエティーも大好きなのでバラエティーは本当に一生やっていきたいと本気で思っています(笑)。

――通行証があっても、バラエティーではご本人の素が出ると思うんですけど、それに対しての恐怖というか、反響などを考えたりはされますか?

松岡:めちゃめちゃあります。ただ私には「最終兵器・新人女優」という肩書があるんですよ(笑)。なんとなくこの肩書があるだけで許されるっていう、なんともありがたい立ち位置で(笑)。だから、バラエティに関しては完全に見学者ですね。恐怖心も持たないくらいプライドがないです。


『高校時代は、ストーカーみたいなことをしてたような…(笑)』




――見学者、プライドがないと言っても、バラエティーでの瞬発力はまわりの人の呼吸を感じたり、観察していないとできないですよね。その点が松岡さんってすごく長けているように思うんですよ。

松岡:もともと趣味がモノマネですからね(笑)。親戚のモノマネを親戚の前でやったりとかしていた子供だったので、もともと人を見るのがすごい好きだったんです。人の癖とか、髪型とか。「この前あの髪型してたけど変えたよね」とか、そういうのを見つけるのがすごい好きなんです。電車の中とかで「ああいう脚の組み方があるんだ」とか思ったらメモして自分でやってみたりとかしていました(笑)。高校時代は千差万別の女子高生たちがクラス中にいるわけで、それはもう観察のフルコースでした(笑)。ギャル役が来た時には、学校にいたすごいギャルっぽい子の横で聞き耳を立てて、ギャル語を勉強したり、スカートの短さとか、仕草とかをメモして、メイクも自分で試してみたりしていました(笑)。スポーツをやってる女の子の時は、運動部の子たちの所に行って、「何持ってるの?持ち物なんなの?」とか「会話の流れなんなの?」とか聞いていました。なんかストーカー見たいなことをしてたような気がしますが(笑)、あの時は本当に宝庫でしたね。

――無料サンプルがいっぱいあった?

松岡:そうなんです、本当にそうなんです(笑)。ネットで探さなくたってそこら中に見本がある。この日本にはありがたいことに一億人分の教科書があるのでストックは貯め放題です(笑)。

――目の前にいる人たちすべてが演技のお手本。生粋の女優さんですね。

松岡:そう言ってもらえたらありがたいんですけど(笑)、逆に言えば集団行動ができない人なんです。昔から苦手でした。だからたぶん「この職業があって本当によかったね」という人種です。

――ひとりでいるからこそ周りが見えるということもありますよね。

松岡:高校の時に転校して一回「友達ゼロ」の時があって、その時はずっとひとりでしたね。だから周りを見る動体視力が発達しました(笑)。あの時間があったから、いじめられっ子の役もできたし、今までの役があったと思いますね。

――全部糧になるというか、演技の栄養になるというか。

松岡:糧になります。全部がそうですね。


『漫画を読む時間のために生きているってくらい、漫画が好き!』




――今本当に大活躍されていてこれから二十代をつき進んでいくと思いますが、女優としてゆくゆくはどういうふうになっていたい、などのビジョンはありますか?

松岡:目標とする先輩はたくさんいますし、かといって変わりたくない部分もあるんですよね。でも15歳の時に決めた、「女性版の八嶋智人さんになる!」という目標はやっぱり未だに思っています。そのポジションはまだ空いているし、私がなりたいもののカタチなので、バラエティーもラジオも続けたいけれど、「本業は俳優」というのが2016年も続けばいいなと思っています。

――女性としてはどんな女性になりたいですか?

松岡:やっぱり先輩女優さんとかを見ていると、ゆとりがあるんですよね。余裕があって、現場がどんなにカツカツになっていても、その方だけは柔らかくいてくださって、女性ならではの包容力を持っているんです。私もその方のように現場が少しでも明るくなるような人になれたらいいなって思います。

――Peachyというのがゴキゲン、ハッピーという意味なのですが、今、松岡さんにとってハッピーなものってありますか?

松岡:漫画、ゲームがずっと好きで撮影の合間とか、オフにはずっとゲームをやっています。

――インドア派ですか?

松岡:ド・インドアです!本当に外に出ません(笑)。

――ゲーム以外には?

松岡:漫画ですね。漫画はもう最近はジャンルにこだわらず読むようになりました。漫画読む時間のために生きているって思っちゃうくらい、漫画が好きですね。


『ペットって飼うものではなくて“共に生きていく”もの』




――最後にあらためて「猫なんかよんでもこない。」の見どころをお願いします。

松岡:やっぱり私の個人的な希望は、小さい子に観てもらって、動物を飼うことの意味や、動物にとって何が幸せなのかということを受け取ってもらえたらいいなと思っています。ペットって飼うものではなくて、「共に生きていく」、「共生していくもの」だと私は思っているので日常に疲れた社会人の方が劇場で癒されて欲しいという思いももちろんあるんですけど、どこかで「動物ってなんだろう?」と考えてもらえたら嬉しいです。一番強くないはずの人間が一番上にいる今、何が動物にとって幸せなのかというのは一生考えていかなきゃいけない。人間に生まれた以上、そう思うので、ぜひ小さい子に社会見学として観てもらえたら嬉しいです。


【作品情報】
「猫なんかよんでもこない。」は1月30日(土)TOHOシネマズ新宿ほか全国公開
出演:風間俊介 つるの剛士 松岡茉優
主題歌「Morning sun」 SCANDAL(EPICレコードジャパン)
公式サイト:http://nekoyon-movie.com/

スタイリスト:大内悠子
ヘアメイク:服部さおり

撮影:平岩享
取材・文:木村友美
制作・編集:iD inc.