7点差でも安心できない…中日の悪夢で思い出すプロ野球“悲惨すぎるサヨナラ負け”
開幕以来、低迷が続く中日の“負のスパイラル”を象徴するような試合があった。
5月20日の阪神戦。中日は7回表まで7対0とリードしながら、その裏に4点、8回に3点を返され、あっという間に同点に追いつかれた。そして9回、森下翔太にサヨナラ本塁打を浴び、悪夢の逆転サヨナラ負けを喫した。だが、過去にはこの日の中日以上に、信じがたい形でサヨナラ負けに泣いたチームもある。【久保田龍雄/ライター】
【逆転負け】圧倒的リードからの逆転負け…そんな試合で活躍した中日・マラー選手
ホンマ、こんなこともあるもんか
7回以降の3イニングで7点差をひっくり返された中日に対し、最終回のたった1イニングで6点差を逆転されたのが、1993年のダイエーだ。

6月5日の近鉄戦。5対2とリードしていたダイエーは、9回にも岸川勝也の右越え3ランで追加点を奪い、8対2とリードを広げた。勝負あったかに思われた。
ところが、その裏、3回以降をゼロに抑えていた先発・渡辺正和が近鉄打線につかまる。先頭の石井浩郎に四球を与え、次打者・鈴木貴久の左越え二塁打で1点を失う。さらに村上嵩幸も四球で歩かせると、根本陸夫監督はリリーフエース・池田親興を投入した。
だが、「今日の出番はない」と思っていた池田は、セーブが付かない場面での緊急リリーフに気持ちの整理がつかないまま、マウンドで炎上する。いきなり代打・大島公一に中越え二塁打を浴び、4対8。暴投で5点目を失ったあと、代打・安達俊也にも中前タイムリーを許し、あっという間に2点差となった。
勢いづいた近鉄打線は、3番手・下柳剛からも代打・中根仁が中前安打で続き、無死一、二塁とたたみかける。それでも下柳は踏ん張り、大石大二郎を遊ゴロ、水口栄二を中飛に打ち取り、勝利まであと1人。この場面で、一発のあるブライアントを敬遠し、満塁策をとった。
次打者は石井の代走・内匠政博だったが、鈴木啓示監督は10日前、5月26日のオリックス戦で代打決勝3ランを放った山下和彦を代打に送り、勝負をかけてきた。山下は見事に期待に応え、下柳の2球目を中前に弾き返す起死回生の同点2点タイムリー。一塁走者・ブライアントも三塁を狙った。さらにセンター・大野久の三塁送球がブライアントに当たって転々とする間に、ブライアントがサヨナラのホームを踏んだ。
奇跡的な大逆転劇に、鈴木監督は「ホンマ、こんなこともあるもんか…。皆で夢をつないでくれた」と感無量。一方、継投失敗でほぼ手中にしていた勝利がスルリと抜けていった根本監督は、「可哀相なことをしてしまった」と渡辺の白星を消してしまったことを悔やみに悔やんだ。
珍サヨナラ劇
うのない、不運なサヨナラ負けに泣いている。
序盤からノーガードの打ち合いとなった乱打戦は、11対11の8回、ダイエーが秋山幸二のソロで1点を勝ち越し、12対11で最終回を迎えた。
だが、9回裏、近鉄も最後の粘りを見せる。ダイエーの守護神・岡本克道に対し、先頭の代打・山本和範が中前安打。1死後、中村紀洋の右越え二塁打で二、三塁とチャンスを広げた。これに対し、ダイエーは岡本から斉藤貢にスイッチし、代打・大石大二郎を敬遠して満塁策を取ったが、水口栄二に右前タイムリーを許し、同点に追いつかれてしまう。
なおも1死満塁。大村直之はカウント3-1から強い当たりの投ゴロを放つ。併殺で延長戦突入かと思われた。ところが、ここで思いもよらぬハプニングが起きる。大村の打球を処理した斉藤は、すぐに本塁へ送球しようとしたが、ボールがグラブに挟まり、取り出すことができない。
この間に三塁走者・礒部公一がサヨナラのホームを踏み、無情のゲームセット。“投ゴロ”でサヨナラ勝ちという珍事に、佐々木恭介監督も「3-1から“1球待て”のサインでも良かったが、押せ押せのあの場面で“待て”はないよ」と笑いが止まらなかった。
一方、心ならずも珍サヨナラ劇を演出する羽目になった斉藤は、「(ボールが)挟まって取れなかった。悔しい。情けない」と天を仰ぐばかりだった。
勝ったと思った瞬間ほど、野球は牙をむく
0対9から追いつく猛追を見せながら、「骨折り損のくたびれ儲け」とも言うべきサヨナラ負けを喫したのが、2000年のオリックスだ。
5月27日のダイエー戦。先発・ブロウズがニエベスに一発を浴びるなど大乱調で、2回9失点KO。序盤で試合は決まったかに思われた。
だが、オリックスも負けていない。3回に6長短打と3四球で7点を返すと、5回に田口壮の中前タイムリーで1点差。7回にも藤井康雄が右越えソロを放ち、同点に追いついた。
ところが、9対9の最終回に悪夢のような幕切れが待っていた。8回途中からリリーフした5番手・杉本友が、先頭の秋山幸二に死球を与えたのが負の連鎖の始まりだった。次打者・小久保裕紀の併殺コースの三ゴロを、セカンド・大島公一が一塁へ悪送球。小久保の二進を許してしまう。
杉本は味方の拙守にもくじけず、坊西浩嗣を左飛に打ち取って2死までこぎつける。さらに井口忠仁(資仁)も空振り三振に打ち取った。ところが、「さあ、これで延長戦」と思われた直後、ワンバウンドしたボールを捕手・三輪隆が後逸し、振り逃げを許してしまう。
そして2死一、三塁から、柴原洋の左前安打で無念のサヨナラ負け。仰木彬監督は「9点差をひっくり返したら罰が当たる」と吐き捨てたが、負け惜しみにしか聞こえなかった。
一方、2つの敵失に救われて勝利を拾ったダイエー・王貞治監督も「2回まで9点を取って負けたんじゃどうしようもない。説明がつかん。“疲れた”の一言だよ」とげんなりした様子だった。
野球は、たった一つの四球、送球、捕球ミスで流れが一変する。大量リードも、土壇場の同点劇も、最後のアウトを取るまでは何の保証にもならない。
7点差を守れなかった中日の敗戦も、球史の中で見れば決して前代未聞ではない。だが、勝利を目前にしながら、最後の最後で一気に崩れていく怖さは、過去のどのサヨナラ負けにも共通している。
勝ったと思った瞬間ほど、野球は牙をむく。悲惨なサヨナラ負けの歴史は、その残酷さを何度も証明してきた。
久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)
デイリー新潮編集部
