「東大卒の移籍組と、叩き上げの制作会社役員」話題の春ドラマ『銀河の一票』『田鎖ブラザーズ』を手掛ける二人の女性プロデューサーが社会へ突きつける強烈なメッセージ

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世間を魅了する二つのドラマ

今、話題のドラマといえば『銀河の一票』(関西テレビ)と『田鎖ブラザーズ』(TBS)の2作品だろう。前者は父親に絶縁された与党幹事長の娘・茉莉(黒木華)が、まったくの政治素人である元スマックのママ・あかり(野呂佳代)を擁立し都知事選に打って出るという内容で、後者は重大事件の時効が撤廃される直前に両親を殺害された警察勤務の兄弟(真=岡田将生×稔=染谷将太)が、自分たちで犯人を捜すストーリー。両作ともSNSなどで熱量の高い感想や犯人を考察する書き込みが多く見られ、TVerでの再生回数も好調だ。

この2つのドラマを手掛けているのが佐野亜裕美プロデューサー(『銀河の一票』)と新井順子プロデューサー(『田鎖ブラザーズ』)。ドラマの視聴動機として、出演俳優や脚本家の名前が挙がることも多いが、佐野・新井両プロデューサーに関しては「この人がプロデュースするなら観る!」と語るドラマ通が引きもきらない。なぜ見巧者たちは佐野・新井両氏のプロデュース作品を支持するのだろう。

佐野プロデューサーの代表作といえば、対話の魔術師、脚本家の坂元裕二や松たか子と組んだ『カルテット』(2017年/TBS)と『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年/関西テレビ)がすぐ浮かぶが、2022年O.A.の『エルピス-希望、あるいは災い-』(以下、エルピス/関西テレビ)は彼女のキャリアにおいて重要な意味を持つドラマとなった。

この『エルピス』で佐野プロデューサーは朝ドラ『カーネーション』(2011年)や松坂桃李主演の『今ここにある危機とぼくの好感度について』(2021年)など、NHKが主戦場だった脚本家の渡辺あやを起用。長澤まさみの主演、鈴木亮平、前田郷敦、三浦透子、岡部たかしらの共演で超大物政治家が絡む冤罪事件を追う女性キャスターとテレビ界の裏事情、政治の世界の駆け引きなどが硬派に描かれた。

『エルピス』が衝撃的だったのは、証拠が揃っているにもかかわらず、政界を揺るがす事件についてキャスターの浅川(長澤まさみ)が番組で語らなかった最終回の展開。代わりに超大物政治家が絡む冤罪事件は真犯人が逮捕され、元板金工の死刑囚は釈放されたが、本当の正しさとは一体何か、結局最後に笑うのは上級国民なのかと、カタルシスだけではない“染み”を視聴者に提示するラストとなった。

多くの視聴者に支持される理由

かわって、新井プロデューサーが脚本家の野木亜紀子、演出(監督)の塚原あゆ子と組んだ大ヒットドラマといえば『アンナチュラル』(2018年/TBS)と『MIU404』(2020年/TBS)のタイトルが挙がるだろう。特に石原さとみが不自然死究明研究所(UDIラボ)の研究員を演じ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、松重豊らが同僚役を担った『アンナチュラル』は放送から8年経った今でもSNSで定期的にバズり、新規の視聴者を獲得し続けている。

同じ世界線で物語が展開する『アンナチュラル』と『MIU404』の共通点は救いのないシチュエーションの事件でも最後は一筋の“希望”が視聴者に渡されること。また、主要登場人物が法医学者や警察官など法に準ずる立場にあるため、どんな事情があろうとも主人公らは加害側に厳しい態度で対峙する。

『アンナチュラル』の最終回でミコト(石原さとみ)が「ご遺体を前にして思うのは、ただ命を奪ったという事実だけです。犯人の気持ちなんてわかりはしないし、あなたのことを理解する必要なんてない。不幸な生い立ちなんて興味はないし、動機だってどうだっていい」と裁判の場で連続殺人事件の被告人に対し(一部作戦とはいえ)言い放つ場面には強いインパクトがあった。

『エルピス』の佐野プロデューサーは、個人の力だけでは変えられないこの世界の構造に対し“一縷の光はあるが今はまだ暗闇のなか”との結末を提示し、『アンナチュラル』『MIU404』の新井プロデューサーは“それでもこの世界にまだ光はある”と訴えているように見える。障碍者や法律に守られない人々など“いないことにされる存在”にも目を向け、社会に対して強いメッセージを突き付けているのは両プロデューサーが指揮を執る作品の共通項だ。また、物語の出口はそれぞれ異なっても、権力側におもねらず、正義を見つめる一個人の視点をドラマの根幹に置いていることも、彼女たちのプロデュース作品が多くの視聴者に支持される要因だろう。

社会に「一石を投じる」ドラマ

そんな2人のプロフィールだが、ぴったり重なりそうで微妙に重ならない。佐野亜裕美プロデューサーは東京大学教養学部超域文化科学科を卒業後TBSに入社。『王様のブランチ』などのADを経て2009年からドラマ制作部に所属していたが、2020年に関西テレビへ移籍。新井順子プロデューサーは2001年に東放学園放送芸術科を卒業後、番組制作会社を経て、現在はTBSスパークル執行役員兼エンタテインメント本部ドラマ映画部長の職に就く。

今期、佐野プロデューサーが仕掛ける『銀河の一票』は脚本に『これは経費で落ちません』(2019年/NHK)、『舟を編む』(2024年/NHK)の蛭田直美を起用し、難しくて数字が取れない、内容がセンシティブと民放ドラマでは忌避されがちだった政治や選挙にがっちり斬りこんできた。台詞のすべてが名文句な上に、まずは都政からこの世界を変えようとする茉莉とあかりの奮闘には多くをあきらめながら日々を生きている私たちも「もしかしたら、自分でも変えられるかもしれない」と小さな勇気をもらう。

そして、これまで事件そのものより、そこに生きる人たちの感情にフォーカスしてきた新井プロデューサーは『田鎖ブラザーズ』で兄弟が過去と向き合い未来を見つめることの傷と光とを描く。脚本を担うのは「グレートチキンパワーズ」として活動し、解散後、本格的に脚本家としての活動を開始した渡辺啓だ。

日々の生活の中で希望を見出すのがなかなか難しい2026年。私たちはドラマというカルチャーに何を求めるのだろう。恋愛ストーリーや考察系、憂さを晴らせるコメディももちろんあって然るべきだが、明日から自分がどう生きていけばいいのか、そのヒントとなる作品により出会いたいと思う。まさに今必要なのは『銀河の一票』内で語られた「正しい方へ、明るく強く」を信じさせてくれる物語ではないか。ドラマは社会を映す鏡だ。業界に風を吹かせ続ける佐野・新井プロデューサーの仕事に今後も注目していきたい。

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