主砲を失っても「勝てるチーム」「沈むチーム」 村上宗隆、岡本和真流出で問われる“再建力”
主砲が抜けたチームは、本当に弱くなるのか。メジャー移籍1年目のホワイトソックス・村上宗隆とブルージェイズ・岡本和真が、本塁打を量産している。日本球界を代表する4番打者を失ったヤクルトと巨人にとって、その穴は決して小さくない。【久保田龍雄/ライター】
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オマリーの反骨心に
村上が抜けたヤクルトは、長打力不足を抱えながらも、前年の最下位から一転してV争いの主役に躍り出ている。一方の巨人は、岡本の後継4番として期待されるダルベックが8本塁打(5月14日現在)を記録。ただ、打率は今ひとつで、チームを引っ張る存在とまでは言い切れない。

4番打者の流出は、チームに何をもたらすのか。過去を振り返ると、そこには単なる「戦力ダウン」だけでは語れない明暗がある。
主軸の2人が抜ける“飛車角落ち”から、2年ぶりのV奪回を果たしたのが1995年のヤクルトだ。
4番・広沢克己、5番・ハウエルの両主砲がそろって巨人に移籍し、打線の再編成を迫られた。そこで新4番候補として野村克也監督が目をつけたのは、前阪神のオマリーだった。
阪神時代は93年に首位打者を獲得するなど、4年連続で打率3割以上をマークした。しかし、長打力に物足りなさがあり、緩慢な守備もマイナス材料となって94年オフに自由契約となった。
もともとオマリーを「頭がいい。頭を使って投手の配球、試合の流れを読む力がある」と高く評価していた野村監督は、退団によって芽生えた反骨心にも期待をかけた。
「阪神に『クビにして失敗した』と言わせたかった」とオマリーもリベンジを誓い、翌95年は打率.302、31本塁打、87打点の活躍でリーグ優勝に貢献。MVPにも輝いた。オリックスとの日本シリーズでも打率.529、3本塁打、4打点と日本一の立役者となり、シリーズMVPも手にした。
一方、広沢、ハウエルが加入し、重量打線で2連覇を狙った巨人は2人が期待ほど働かず、最後まで投打がかみ合わないまま3位に終わった。
シーズンが始まると評価が一変
不動の4番が抜けたにもかかわらず、3年ぶりのV奪回を果たしたのが1997年の西武である。
10年間4番を打った清原和博が巨人にFA移籍。新4番・鈴木健は打率.312、19本塁打、94打点と結果を出したが、それ以上の活躍でチームを乗せたのが、新外国人のマルティネスだった。
意外にも入団時の評価は低かった。春季キャンプ合流直後にアキレス腱を痛め、オープン戦も24打数4安打0打点0本塁打。“ダメ助っ人”の烙印を押された。東尾修監督が開幕直前、マルティネスに代わる新外国人の獲得を堤義明オーナーに直訴したという話も伝わっている。
ところが、シーズンが始まると評価は一変する。5月5日のロッテ戦で来日後初の1試合2発を記録するなど、開幕から29試合で9本塁打と大当たり。最終的に前年の清原(打率.257、31本塁打、84打点)を上回る打率.305、31本塁打、108打点をマークし“マルちゃん”の愛称で人気者になった。
一方、清原が移籍した巨人は、近鉄の主砲・石井浩郎も獲得するなど大型補強でV2を狙った。しかし、長打力はあっても打線のつながりを欠き、エース・斎藤雅樹の不調もあって6年ぶりのBクラスとなる4位に沈んだ。
前出のヤクルト、西武とは対照的に、主砲の穴を埋めることができなかったのが2003年の巨人だ。
前年、リーグ最多の50本塁打、107打点を記録し、日本一の立役者となった松井秀喜がヤンキースに移籍。その穴埋めとして、ヤクルトの主砲・ペタジーニを獲得した。清原和博、高橋由伸、江藤智らを含めた重量打線は相変わらず破壊力十分だったが、4番の存在感という点で、松井の穴を埋め切れなかった。
主砲流出は終わりか始まりか
開幕から9試合は高橋由伸が4番を打ったが、本塁打ゼロで3番に打順変更となった。その後は清原、ペタジーニが交替で4番を務めたものの、ともに故障離脱。打線は最後までつながりを欠いた。
リーグトップの205本塁打を記録しながら、一度もV争いに加わることなく、阪神に15.5ゲーム差の3位でシーズンを終了。前年チームを日本一に導いた原辰徳監督が、就任わずか2年で退任する事態となった。
2023年のオリックスでは、主砲流出をきっかけに意外な選手が台頭した。新4番に定着したのは、前年まで控え捕手の立場だった頓宮裕真である。
前年、チームの三冠王としてV2に貢献した吉田正尚が、ポスティングでレッドソックスに移籍。吉田の穴を埋めるために西武の3番打者だった森友哉をFAで獲得したが、山本由伸、宮城大弥らの投手陣を強力援護し、V3のキーマンとなったのは頓宮だった。
捕手の森が加入し、若月健矢、日本ハムから移籍した石川亮との捕手3人体制からはみ出る形になった頓宮は、前年自己最多の11本塁打を記録した打力を生かして一塁、DHに回った。
前年まで、試合での感覚がしっくりこないときに吉田から打撃練習での心構えなどをアドバイスしてもらっていた頓宮は、今度は野球に真面目に取り組む森の姿勢を参考にした。結果に左右されず、気持ちを切り替える大切さを学んだという。
2023年は5月3日の西武戦から森の後の4番を打ち、「常に自分のスイングをする」をモットーに、プロ5年目で初めて規定打席に到達。打率.307、16本塁打で首位打者になった。
主砲の流出は、チームにとって大きな痛手である。ただ、それは同時に、眠っていた選手が表舞台に出るきっかけにもなる。オマリー、マルティネス、頓宮のように、開幕前の想定を超える選手が現れれば、チームの形は大きく変わる。
一方で、2003年の巨人のように、本塁打数だけでは埋められない穴もある。4番打者が担っていたのは、単なる数字だけではないからだ。
村上を失ったヤクルトと、岡本を失った巨人。両チームの現在地は、その難しさと面白さを改めて示している。主砲流出を「終わり」にするのか、新たなチームづくりの始まりに変えられるのか。シーズンが進むにつれ、その答えはより鮮明になっていく。
久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)
デイリー新潮編集部
