岸田文雄元首相が会長を務める資産運用立国議員連盟も、個人の国債保有を推進する提言案を出している。写真は2025年4月の同連盟会合のもの(写真:共同通信社)


 金利上昇を背景に国債投資が注目されている。特に個人を対象とした個人向け国債は、2026年に入ってから発行額が、マイナス金利解除前の倍以上の水準で推移する。近年は個人向け国債のネット販売が広がり、ネット証券を利用する現役世代の購入者も増加傾向にある。大口の買い手だった日本銀行が国債購入を減らす中で、財務省は26年12月募集(27年1月発行)分から名称を「個人向け国債プラス」に変更し、マンション管理組合などの非営利法人や資本金5億円未満の非上場企業など一部法人も購入できるようにする。“拡大戦略”の国債は「買い」なのか。国債をめぐる動向や買い手の本音を探った。

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個人向け国債10年物の金利は過去最高に

 イラン情勢緊迫化による物価上昇を受けて長期金利が高騰している。

 そうした中で、5月募集の国債の利回りは、固定金利の新窓販国債10年物が2.4%、半年に1度の利払いごとに実勢金利に合わせて適用金利が変わる個人向け国債10年物(いわゆる「変動10年」)が1.67%となり、後者は過去最高を更新した。

 個人向け国債は、1万円単位で購入でき1年保有すれば解約しても元本が保証される安全な運用先として人気を集め、発行額は24年春のマイナス金利解除前と比べて倍以上に急増している。

 72歳の元会社員の男性は、保有していた個人向け国債10年物が4月に満期を迎え、購入窓口だったゆうちょ銀行の担当者から、「すぐにお金を使う予定がないのなら」と再投資を勧められた。

「今後も日本銀行による政策金利の引き上げが実施される可能性が高く、金利はまだまだ上がりそうです。変動金利の個人向け国債10年物なら、先々の金利上昇の恩恵も受けられますよ。しかも、利回りは現時点でお客様が前回購入された際の30倍近くになっています」

 事実関係は確かにその通りだが、そのまま再投資の手続きをする気になれず、「少し考える」と資料を持ち帰った。

相続時、ゆうちょ銀行では原則、相続人の代表者への名義変更が必要

 躊躇した理由は、10年という預け入れ期間の長さだという。

「自分はもともと安全志向だし、10年前は今のような投資ブームでもなかった。地を這うような低金利の中で、利回りに0.05%という“最低保証”の付いた個人向け国債は魅力的に映った。当時は(定年後の)再雇用期間中で10年の預け入れ期間に抵抗はなかったが、先日再投資を勧められた時にふと『10年後、自分は生きているのだろうか』と考えてしまった」

 男性は今年の誕生日で満73歳。10年後の年齢は、日本人男性の平均寿命(2024年の「簡易生命表」によれば81.09歳)を超える。毎年4月には勤務先の同期との定例飲み会があり、国債の10年物に預けるのをためらったという話をしたら、周囲から「俺も」と同調する声が相次いだという。

 個人向け国債購入の中心は、男性のような安全志向のシニア層(60代以降)だ。10年物を満期まで持ち切ることを前提に考えれば、人によっては相続が発生する可能性もある。そして、実際の相続となった時になかなか厄介なのが、実は、ゆうちょ銀行で国債を購入していたケースなのだ。

 国債の相続手続きは購入した金融機関で行い、換金(相続解約)か名義変更のいずれかを選ぶ。ただし、ゆうちょ銀行では原則、相続人の代表者に名義変更することが求められるというルールがある。

 名義変更は必ずしも悪手というわけではない。相続税を計算する際、個人向け国債は被相続人が亡くなった日に解約した場合の払い戻し額で評価するため、その後、金利が上がれば名義変更の方がお得になることもある。

強まる政権周辺による“国債推し”

 とはいえ、相続人がゆうちょ銀行で国債を取引したことがなければ、本人確認書類などを用意した上で国債専用口座の開設から始めなければならない。いくつもの手続きを踏んで名義を書き換えた上で換金して相続人間で分配するとなると、それなりの手間や時間がかかる。

 実際に、都市部と違って金融機関の選択肢が限られる地方に親が在住していた場合、亡くなった親がゆうちょ銀行で国債を買っていたというケースがそれなりにあるようだ。筆者自身もその一人だが、似たような境遇の知人数人もこの面倒な手続きを経験しており、中には「やっていられないと思って司法書士に一任した」という人もいた。

 昨今は運用環境の好転を受け、政権周辺による“国債推し”の圧力が強まっている。

 岸田文雄元首相をリーダーとする資産運用立国議員連盟は、4月下旬の提言案で「個人の多様なニーズに応えるため、国債の魅力を向上させていくことが重要」とし、個人向け国債についてNISA(少額投資非課税制度)の投資成果への非課税分(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)に相当する約20%の利回りの引き上げや、1年間の解約制限の緩和などを求めた。

 こうした動きの背景には国債をめぐる環境変化が指摘されている。

 発行残高の半分以上を保有していた日本銀行が金融政策の変更で買い入れを段階的に減らしており、代わりに海外の投資家が大量保有するようになると金利市場の変動リスクが高まるという危機感があるようだ。ちなみに、25年末時点の日本国債(国庫短期証券を除く)の海外保有比率は7%弱だった。

 資産運用立国議員連盟の会合では国債の相続税を減免することで保有を促す案も出たらしいが、財政不安と勘繰られかねないという懸念から提言には盛り込まれなかった。ゆうちょ銀行での相続経験者としては、相続人1人につき500万円という生命保険のような非課税限度額が設定されれば相続の手続きはかなりスムーズになるのに、と残念に思う。

投資格言では「国策に売りなし」だが…

 ともあれ、財務省が毎年6月に開催している国債トップリテーラー会議では、こうした提言も踏まえながら国債のさらなる商品性向上や販促強化が打ち出されることになりそうだ。

 直近では、財務省が個人向け国債に、元本が物価に連動するタイプの商品や、満期が20年、30年と長く高利回りが期待できる超長期の商品の導入を検討しているという報道もあった。

個人向け国債の発行額・償還額・残高の推移(出所:財務省「債務管理リポート2025」)


 投資の世界には「国策に売りなし」という格言があるが、高市早苗首相が主張する「責任ある積極財政」が意味するところ--財政健全化に重きを置くのか、国債を大量発行するのか--は明確にされておらず、個人がこの時期の国債購入の可否を判断するのは難しい。

 1つ言えるのは、定期預金や金銭信託など類似金融商品との比較の上で、利回りや税制優遇よりも、個人のライフスタイルへのメリット、使いやすさなどを優先する“自分ファースト”の目線で選ぶのがいいということだ。

筆者:森田 聡子