「透明人間みたいになっていった」性被害訴えた女性検事が辞表、涙の記者会見で“生き地獄”の日々語る
「自分の体の半分は検事でできている。自発的に仕事を辞めたいと思ったことは、今日のこの日まで一度もありません。でも、生き地獄から解放されたかった」
大阪地検トップの検事正だった北川健太郎氏から性被害を受けたと訴えている女性検事のAさんが4月30日、辞表を提出した後に記者会見を開き、そう語った。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●検察庁は「私の居場所だった」
Aさんはこの日の昼前、勤務先だった大阪地検が入る大阪市内の庁舎を訪れ、辞表を提出した。Aさんによると、公務災害申請などの手続きがあるため、正式な退職日はまだ決まっていないという。
その後、大阪市内の司法記者クラブで記者会見を開き、検察官という仕事への強い思いと、組織を去らざるを得なくなった悔しさを繰り返し口にした。
「(検察庁は)私の居場所だったんです。私はずっと検事の仕事が大好きで、寝ても覚めても仕事のことばかり話しているぐらいでした。トイレに行く暇もないぐらい、1分1秒を惜しんで仕事をしていました。一緒に闘ってきた被害者が喜んでくれたり、被疑者からも『検事さんに担当してもらって救われました』と言ってもらえたりした。検事という仕事はかっこいい」
その思いは、2018年に被害を受けた後も変わらなかったという。
「すごくショックで、現実として受け止められなくて、自分の過去も今も未来も、全部汚されてしまって、どうすればいいかわかりませんでした。それでも検事の仕事を辞めようとは思いませんでした。自分の体の半分は検事でできていたからです」
●「あの組織は日本語が通じない」
しかし、被害を申告した後に待っていたのは、検察組織の冷淡な対応だったという。
Aさんは、庁内で広がった誹謗中傷への対応や、第三者による調査の実施などを求めてきたが、期待した反応はなかったという。
さらに最近、自身を支えてくれていた職場の先輩職員が、本人の希望に反して異動することになったと知り、退職の決意を固めたという。
「あの組織は日本語が通じない。自分の声が届かない。透明人間みたいになっていって、存在していないかのように扱われるのがすごく辛かった。生き地獄から解放されたいと思って、辞表を出さざるを得なかったんです」
●「準強制性交致傷罪」への訴因変更求める
この日、Aさんと代理人弁護士は、捜査情報を北川氏側や第三者に漏らしたとして国家公務員法違反などの疑いで刑事告訴し、その後不起訴となった副検事と北川氏の処分について、大阪第二検察審査会に不服申し立てをしたことも明らかにした。
また、北川氏の事件について、性被害によって重いPTSDを発症した点が考慮されていないとして、現在の起訴罪名である「準強制性交罪」から「準強制性交致傷罪」への訴因変更を求めていることも説明した。
ただ、検察側からは「応じられない」と説明を受けたため、大阪地裁に対して、訴因変更を求める文書を提出したという。
Aさんの代理人をつとめる田中嘉寿子弁護士は、準強制性交致傷罪に訴因変更されれば裁判員裁判の対象になると説明したうえで、次のように批判した。
「検察庁が訴因変更しないのは、組織防衛としか思えない。証拠上明らかなのに、裁判員裁判にしたくないんだと思います。検察庁の恥部をさらすことになる。裁判所には職権発動していただきたいと切に願っています」
●「検察庁や司法全体の信用が問われている」
Aさんは再発防止策として、第三者委員会の設置などを求めてきたが、実現しなかった。
その影響について、「自分だけではなく職員が見捨てられたなと。コマなんだなと。単に、組織に都合が悪くなったら切り捨てるんだなということを痛感しています」と話した。
さらに、職場でハラスメントや性被害を受けても、安心して外部に訴えられる窓口がないことに触れて、危機感をにじませた。
「私が被害を訴えて得られるものは何もないんです。キャリアも失った。でも、勇気を振り絞って申告しても誹謗中傷をする人がいる。誰も被害を訴えられなくなります。そうすると、みなさんの大事な家族が被害に遭うかもしれない。
今の検察のやり方はそういうことにつながるんです。今回、声をあげても私みたいになると証明されてしまったので、訴えることが怖くてできないことがほとんどじゃないかなと思います」
代理人の安齋航太弁護士も「検察庁、司法全体の信用が問われている事態だと考えています」と述べた。
●「連帯して検察改革に声を上げたい」
Aさんは会見で何度も涙を流した。一方で、真相解明などを検察庁に求めるオンライン署名に9万人近い人が賛同し、東京・霞が関の最高検察庁前でデモがおこなわれていることに触れ、次のように語った。
「この2年間、たくさんの方が支援してくださって、今まで闘い続けられました。最初は被害申告したことをすごく後悔していたんですけど、諦めずに言い続けた結果、今は被害申告してよかったなと思えるし、今日がリスタートできる日になったなと思います。連帯して検察改革に一緒に声を上げていただきたい」

