ANAは「お客様」でJALは「お得意様」…SFC改悪で浮き彫りになった“顧客への本音”
ANA「SFC」に無慈悲なメス
「一生涯VIP待遇が受けられる」--まるで夢のような抜け道として流行した、航空会社の上級会員(ステイタス)を獲得するための「修行」。だが、そのブームもいよいよ終わりを告げそうだ。
ANAは4月23日、『ANAスーパーフライヤーズカード(SFC)』の制度見直しを発表。その内容に“修行僧”と呼ばれる人たちの悲痛な叫びがSNS上にあふれている。
制度見直しで、「年間決済額に基づく2つの区分」が設定される。これにより、今まで「カードの年会費さえ払えば、あとは格安航空券でもラウンジでタダ酒が飲める」という“フリーライダー(タダ乗り)”的な使い方が通用しなくなる。これまで必死に修行してきた利用客にとって、まさにハシゴを外された格好。そして、カード決済額で選別される「新・階級社会」の現実がある。
ラウンジ利用は「年300万」の壁
SFCは、ANAなどの搭乗時に貯まるプレミアムポイント(PP)が年間5万ポイントで到達するランク「プラチナ」以上だと申し込むことができるクレジットカード。一度手に入れるとその後は年会費1万円強を支払い続けるだけでずっと維持でき、空港でANAなどのラウンジや優先チェックインなどが利用できる。海外の提携航空会社でも利用できる『スターアライアンス・ゴールド』のステイタスも付き、家族会員もある。
そのSFCで’28年4月以降、新たな区分でのサービスを開始する。「PLUS」と「LITE」の2つに分け、上の「PLUS」はANA・ANA Payの年間決済額300万円以上で、《ANAラウンジ/5000マイル積算/スターアライアンス・ゴールドのステイタス》が付与される。
一方、その年間決済額が300万円未満だと「LITE」となり、《ANAラウンジの利用不可/スターアライアンス・シルバーのステイタス付与のみ》。なお、ANAグループ運航便の搭乗時における優先搭乗や優先手荷物受取などラウンジ以外のサービスは、LITEでも従来通り受けられる。
新制度は、これからSFCを取得する新規会員だけでなく、既存会員も対象となった。搭乗や加入歴の実績などは一切関係なく、“決済額”が区分対象。なお、ANAグループ運航便で100万ライフタイムマイルに到達していると、その年間決済額に関係なく「PLUS」の対象となる。
「大改悪」の悲鳴と喜ぶ上級客
今回の制度見直しが発表された直後から、ネット上で「改悪」と「改良」の声が入り乱れている。
例えば、〈大改悪、衝撃〉〈そもそも年間300万もクレカで使わない〉〈上級サービスにタダ乗りはもうできなくなってしまう〉〈修行やめようかな〉といった声や、〈最近のANAは改悪続きのイメージ〉〈改正時に既存会員にも配慮したJALはやさしい〉なども。
一方、今回の制度見直しを「改良」と評価する声も少なくない。多くは、普段からANAカードをメインに多く決済している、毎年ダイヤモンドやプラチナなどのランクに到達するビジネスパーソン、そして上級クラスで搭乗する芸能人・文化人らだ。
その声を拾うと、〈分不相応な会員が一掃されて快適になる〉〈ラウンジがだいぶスッキリ、混雑緩和されそう〉〈ラウンジの品格が保たれる〉など。そして、〈用事もないのに飛び回ってラウンジ占拠している〉〈(ダイヤモンド会員しか利用できない)スイートラウンジもごった返している〉〈餌のように群がる利用者にうんざり〉など、今のラウンジの混雑に対する苦情も多い。
今回、「ラウンジ」の利用可否で対応がはっきり分かれた。そのラウンジは近年、確かに混雑がひどい。筆者も10年ほどSFC会員だが、実際、羽田や福岡などの空港にあるANAラウンジは時間帯によって座席を確保するのも一苦労で、落ち着かない空間となっている。国際線のANAラウンジで、3、4人が集まってアルコールを飲んで騒ぐ宴会状態や、飲食物を手当たり次第取って机に並べながら動画配信する人らを見たこともある。
JAL改定でANAラウンジ大混雑
JALにも同様の制度、『JALグローバルクラブ(JGC)』が存在する。ただ’24年1月から大幅改正され、生涯の搭乗やサービスで貯まる「Life Status Point(LSP)」へ移行した。その際、JGCの既存会員はJALおよび提携航空会社のラウンジが国内外で利用できる「JGC Three Star」のランクが保証された一方、新規でJGCを取得する基準が大幅に引き上げられた。
実はJALには過去、JGC会員の待遇を巡り、紆余曲折があった。年間の搭乗実績に“ノルマ”を課し、それをクリアできた会員はラウンジが利用できる「ワンワールド・サファイア」、クリアできないと下のランクの「ワンワールド・ルビー」に。これは既存会員らからの反発があってノルマはなくなり、全員にサファイアが付与されて今日に至る。
ここ10年ほどで、ANAの「SFC修行」とJALの「JGC修行」をする人々が、SNSやメディアの影響などもあって増え続けていた。特に、コロナ禍は搭乗実績が通常より貯まる「2倍キャンペーン」などを、両社ともに実施。そして、JALが制度を改正したことにより、飛行機修行する人々がANAに集中し、ラウンジがさらに混雑する原因になったのも否定できない。
突然のハシゴ外しに会員の怒り
今回、「年間決済額300万円」という基準が新たに設けられたが、〈お金の問題ではない〉と話すSFC会員は少なくない。ANAは先の「2倍キャンペーン」しかり、SFCの会員勧誘を積極的に行う動きが、今回の発表直前まで見られていたからだ。
ANA公式サイトにあるSFCの紹介ページには〈永続的に享受できる〉〈サービスが永続的に〉〈会員でいる限り『プラチナサービス』メンバーと同等のサービスを享受〉〈永遠に約束されたステイタス〉などと、まるで煽るかの如く、大きく載っている。読み進むと、小さな文字で〈※記載の内容は(中略)変更となる場合があるのでご注意ください。〉とも明記されてはいるものの、目立たない。
また、日本テレビのバラエティ番組『沸騰ワード10』で、タレントの風間俊介さんらが飛行機で“修行”する様子がたびたび紹介され、ANAも取材協力している。ANA・JAL合わせてこれまで10回以上放映され、直近だと今年’26年2月13日にANAのトルコ・イスタンブール便での番組が放映されたばかり。それから2ヵ月あまりしか経っておらず、今回の発表にANAという会社の姿勢そのものに対し異議を唱える声もある。
迫る階級社会と企業の「本音」
クレジットカードの決済額で“ランク付け”するのは、実は珍しくない。航空会社だと、アメリカ・デルタ航空が自社の『デルタAMEXゴールド』で、年間150万円を決済すると「スカイチーム」のラウンジを利用できるステイタスを付与している。
また、飛行機と同様、ホテルでも上級会員の資格を取得または維持する「ホテル修行」がある。全世界にホテルを展開するマリオットは’25年夏、自社の『Marriott Bonvoyアメリカン・エキスプレス・プレミアム・カード』の年会費4万9500円を8万2500円に、継続特典で無料宿泊が付与される条件となる年間利用額を150万円以上から400万円以上に引き上げた。これが発表された際も、ネット上で「改悪」というカード会員の声が相次いだ。
増えすぎた会員を減らすための施策としてはよくあることで、最近では、世界中のラウンジで利用できる『プライオリティパス』で、クレジットカード付帯だと利用回数が「無制限→5回」などのルール変更が行われた。以前同様のサービスを受けるなら、さらなる支出を余儀なくされるわけで、こういった状況は現代における階級社会の様相を呈している。
ただ、SFCの件はこれに加え、直近のテレビ番組しかり、「会社としてどうなの?」という疑問をぬぐえない人が多いのではないだろうか。
ちなみに、ANAの会員番号は「ANAマイレージクラブお客様番号」、JALは「JMB(JALマイレージバンク)お得意様番号」という違いがある。「お客様」は商品やサービスを購入する・利用する不特定多数、すべての人を指す一方、「お得意様」は高頻度や定期的、関係性が深い重要な顧客やVIPのような特別な存在というニュアンスも含まれる。この表現の違いから、会社としての利用者に対する見方の違いが垣間見られる気がしないでもない。
取材・文・写真:シカマアキ
