「不登校もひとつの生き方なんで」ドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』で断言した町田啓太への共感
ドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』(日本テレビ系)が4月11日にスタートした。主人公は、学校に行けない子どもたちが通うフリースクール「ユカナイ」の教室長・タツキ(町田啓太)。タツキは子どもたちにほとんど何も強制せず、一緒にゲームをしたり、絵を描いたりしながら過ごす。その姿に戸惑うのが、面接に来た青峰しずく(松本穂香)。元中学教師であり、自身も不登校の経験を持つことから「ユカナイ」で働くことになる。
第1話では、学校に行けない中学2年生の綾香(藤本唯千夏)と、勉強を心配する母(瀬戸朝香)の姿が描かれた。第2話では、友達とのトラブルはなく、勉強も運動も得意な小学5年生の朔玖(高木波瑠)が、「学校がダルい」と言ってフリースクール「ユカナイ」にやってくる。
放送後、SNSでは意外にも共感の声が多く見られた。
「不登校の娘と見ているけど、共感の嵐……。当事者の実況を入れたい」
「元不登校だから見てみたけど、不登校の再現度高すぎて泣ける……。学校の先生にも見てほしい」
こうした反応の背景には、不登校をめぐる現実がある。
2025年10月29日、文部科学省が発表した「問題行動・不登校調査」によると、2024年度に不登校となった小中学生は過去最多の35万3970人にのぼり、12年連続で増加している。こうした状況を受けて、不登校の親子に40年以上関わってきた相談員・池添素さんの経験をまとめた書籍『不登校から人生を拓く――4000組の親子に寄り添った相談員・池添素の「信じ抜く力」』(講談社)が2025年9月4日に発売された。ジャーナリストの島沢優子さんが丁寧に取材し、池添さんの言葉と具体的なエピソードを一冊にまとめたものだ。
長年不登校の現場を見てきた島沢さんと、池添さんは、このドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』を観て何を感じたのか。島沢さんの寄稿でその思いをお伝えする。
不登校を描くドラマが映すリアル
世界の映画作品を私たちに知らしめてくれるアメリカのアカデミー賞は、社会を映す鏡と言われる。これは、日本のテレビドラマでも同じことが言えそうだ。熟年離婚や児童虐待など、その数が増えたと報じられれば、その実情や実相、解決策に迫るドラマが提供され、私たちの暮らしに大きなヒントや気づきを与えてくれる。
4月11日にスタートした土曜ドラマ『タツキ先生は甘すぎる!』(日本テレビ系)もそのひとつだろう。舞台となるのはフリースクール。ここには主に不登校の子どもたちがやってくる。不登校は近年では社会課題のひとつで、2024年度の不登校の小中学生は35万3970人と過去最多。12年連続で増えている。そんな状況でこのテーマ。わが子が不登校という当事者の保護者はもちろん不登校を経験した若者など、これは観なくてはと視聴した方は多いはずだ。
主人公でフリースクール「ユカナイ」のスタッフであるタツキは、学校に行けない子どもたちに対し、驚くほど何もしない。勉強を強制せず、生活リズムも矯正しようともしない。叱らないし、急がせない。つまり「甘い」のだ。この甘々なタツキがいかにして周囲を巻き込んでいくのか。
調べてみると、同ドラマのフリースクールに関する監修には、不登校ジャーナリストである石井しこうさんがかかわっている。実在のフリースクールや臨床心理の現場にある実践がドラマに生かされているそうだ。第1話でひとつのテーマとなった「アートセラピー」の専門家で公認心理師でもある浜端望美さんも監修者に名を連ねる。
このようにしっかりした基盤を据えて脚本を書かれたのが徳尾浩司さん。映画化までされた人気ドラマ『おっさんずラブ』で、第97回ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞を受賞したヒットマンである。
主人公タツキを演じるのは、数多くのドラマや映画に出演する人気俳優の町田啓太。タツキの行動や価値観に躊躇いながらも子どもと向き合う「ユカナイ」スタッフのしーちゃんを演じるのは松本穂香。元中学教師で中高6年間不登校だった経験を持つ。ここに藤本美貴、いつの間にか大人になった(?)寺田心、比嘉愛未に江口洋介と贅沢な布陣が脇を固めている。
不登校の子どもを持つ保護者といった当事者はもちろん、「学校に行くのは当たり前」の文化の中で育った大人たちのこころを揺さぶってくれそうだ。
「不登校って治るんでしょうか?」
今後まだ見逃し配信でご覧になる方もいらっしゃると思うので、1話の具体的なストーリーは控えるが、私がもっとも胸を衝かれたのは、タツキが不登校の娘を「ユカナイ」に連れてきた母親(瀬戸朝香)と初めて面談した場面だ。
「皆さん、こちらにどのくらい通われたら、不登校って治るんでしょうか?」
そう尋ねた母親に、タツキはこう伝える。
「治るとかはないですね。不登校もひとつの生き方なんで」
「でも、それだと将来が……」と動揺する母親に、こう話す。
「大事なのは将来より、今ですよ」
ああ、そうなんだよ、その通りだと、テレビの前でうなずかされた。拙書『不登校から人生を拓く 4000組の親子に寄り添った相談員・池添素の「信じ抜く力」』で、「学校行かんでも大丈夫。充電期間やし」という池添さんの言葉を伝えた。
「今はじっくり休む時や。行かせようとしたらあかんし、行くとか行かないとか話題にするのもあかん。とにかく本人がしたいっていうことを認めてあげて」
子どもが不登校になり慌てる親たちをやさしく諭す池添素さんは、京都市職員として児童福祉センター療育課などで勤務した後、子ども支援の福祉施設を仲間と立ち上げた。発達障害や不登校などに悩む親子と40年以上向き合い、4000組以上の親子に寄り添ってきた。高い専門性に裏付けられた池添さんの豊かな実践と珠玉の言葉の数々は、タツキの価値観と間違いなく一致する。
『タツキ先生は甘すぎる!』の初回を観た池添さんは「女の子のこころを柔らかく開いていくアートセラピーと、(元教員で新人スタッフを演じる)松本穂香さんの存在によってマイルドな感じでハッピーな展開になったのがよかったですね」と感想を述べた。
保護者への支援を長く続けてきただけに「私だったら、女の子がなぜ学校に行けないのか。お母さんとの関係であったり、なぜ学校の前で足が止まってしまうのか。その背景などを深掘りしてしまうかもしれません」と話す。そんなことを想像することで、また違ったドラマの味わいが生まれそうだ。
「大人の視点しかなかった自分が恥ずかしかった」
実は『不登校から人生を拓く』には、「不登校の子どもを支える大人たち」のルポも掲載されている。そのなかに、タツキと同じくフリースクールのスタッフも登場する。伊ケ崎大樹さん。弟が不登校だった伊ケ崎さんは大学時代に子ども支援を決意したそうだ。
23年に不登校の子どもの居場所「ちくわのお庭」をスタートさせる。25年からは不登校や特別なニーズのある親子を支援する一般社団法人「こどもの応援団TEIEN」の代表に。2000年生まれの25歳は、教員OBなどが多い子ども支援の世界では異色の相談員だ。本に書いた彼の奮闘と、池添さんとの接点を少しだけ伝えよう。
伊ケ崎さんは池添さんの講演を聴き、その後はともにサポートする小学生がいたことが縁でかかわるようになった。例えば、ある小学生がした行動で、伊ケ崎さんはその子が「周囲から構ってほしくてやっている」と考えていたが、池添さんの見立ては違った。
「あの子、みんなにやってあげたい気持ちがあるんちゃうか。サービス精神みたいなものをすごく持っているよ」
その後、発達検査の結果やほかの人たちの話を統合すると、池添さんの解釈が最も近いものだった。このことに伊ケ崎さんは衝撃を受ける。
「構ってほしいと思うはずだと自分が結論づけたのは、この子は僕らが構ってあげなきゃいけない存在だと容易に決めつけてしまったから。でも、池添先生は常に子どもの視点を忘れない。大人の視点しかなかった自分が恥ずかしかった」
「不登校もひとつの生き方なんで」
子どもは生きづらさを抱えて不登校になっている。よって自分たちが守ってあげなければ。何かしてあげなければとつい支援行動を考えてしまう。ところが実は子どものほうも大人に何かしてあげたいと思っているのではないかという別の角度からの切り口にハッとさせられた。子どもの魂が乗り移るかのような考察の深さに胸を打たれた。
「僕は(支援員という)自分の仕事として見てしまった。だから気づかなかった。僕の中では180度見方が変わる出来事でした」
子どもの本心と、あくまで外から眺める大人の観察が異なることは子育ての中でも多々ある。ドラマの中では、女の子がアートセラピーによって自分の中の声を吐き出すことができた。またドラマの冒頭、瀬戸さん演じる母親から(フリースクールで)不登校は治るのかと尋ねられたタツキが「不登校はひとつの生き方なんで」と答えた。
そこに筆者は共感したが、親支援をする池添さんは「あそこでお母さんはそう言われてもなあって思ったんじゃないかな。最初はひとつの生き方とはなかなか思えないでしょうね。あとで気づけるといいですね」と実情に沿うかのように語る。
「お母さんは、治るイコール学校に行けるようになる。そこがゴールだととらえている。でも、それ以前に女の子にとって「行きたくない」という意思を表すことがものすごく高いハードルだった。そこにタツキが寄り添うことでハードルを越えられたのでしょう。さまざまな受け止め方があるかと思いますが、第2話もよかったです。いずれも子どもへの視点がやさしいのがとてもうれしいです」(池添さん)。
タツキみたいに「甘すぎる」でいいよねと、共感できる人が増えてほしい。AIの力では決して描くことができない共感の物語が、不登校という社会課題に一石を投じることを期待したい。
