「1日の長さ」が数百万年ぶりの規模で増加していた…過去の自転周期をミリ秒単位で測定する「意外な手法」

写真拡大 (全5枚)

地球温暖化に伴う気候変動は地球規模で様々な変化をもたらしています。その影響範囲は様々ですが、意外なことに「1日の長さ」にも及んでおり、21世紀から22世紀にかけて1日は1.33ミリ秒長くなると推定されています。しかし、この数値がどれほどの規模なのかという点についてはよく分かっていませんでした。

ウィーン大学のMostafa Kiani Shahvandi氏とスイス連邦工科大学チューリッヒ校のBenedikt Soja氏は、過去360万年間の自転周期の変化について、機械学習の手法で誤差を小さくし、その変化を正確に測定しました。

その結果、これほど1日の長さが伸びるのは約200万年前の一度あったきりで、過去360万年間で最大規模であることが分かりました。地球温暖化の進行度合いによっては、今現在が真に最大の規模になる可能性もあります。

気候変動は1日の長さも変える

地球が24時間の周期で自転していることはよく知られています。しかし、正確に自転周期が24時間ぴったりかといえば、そうではありません。月の重力や、大気・海・マントル・核の動き、巨大地震など、地球の自転をふらつかせる要素がたくさんあるためです。このわずかな自転周期の変化……つまり1日の長さの変化は、原子時計のような精密な時計を使うと測ることができます。

自転をふらつかせる要素が複合的であるため、1日の長さの変化は数年のスパンで不規則に起こり、予測が困難です。しかし数十年以上の長さで見ると、短期で変動しやすい要素が平均化されるため、長期的な変化を見ることができます。少なくとも紀元前8世紀以降、1日の長さは1世紀あたり1ミリ秒前後長くなる傾向にあることが分かっています。

しかしここ数十年は、それまでの数千年間とは状況が異なっています。二酸化炭素などの温室効果ガスの排出により地球の平均気温が急激に上昇しているからです。この気候変動に伴い、それまで極地にあった氷が融け、水として海へと流れ込んでいます。これも1日の長さに影響を与えます。

回転する物体は、全体の質量が変化しなくても、質量の配置が変わると回転速度が変化することが分かっています。回転しているフィギュアスケートの選手が、腕を引っ込めると回転速度が上がるのは見たことがあるかもしれませんが、これも回転する物体が持つ性質を利用したものです。

地球で起こるのは、このフィギュアスケートの選手の回転と原理は同じですが、状況は逆です。極地にある氷が融けて海に流れ込み、自転軸から離れた方向に質量が移動しています。これは、フィギュアスケート選手が回転中に腕を広げて回転速度を落とすことに相当します。つまり、ここ数十年で進行する気候変動は、地球の1日の長さを長くする方向に作用しているのです。

過去360万年間の1日の長さの変化を推定

では、気候変動はどれくらい1日の長さを変え、それは過去の歴史と比べてどれほど異例な規模なのでしょうか? ウィーン大学のMostafa Kiani Shahvandi氏とスイス連邦工科大学チューリッヒ校のBenedikt Soja氏は、この疑問に答える研究を行いました。

2024年の研究で示された、気候変動の影響による自転周期の変化の推定値。「2000-2018」の項目が、現時点での自転周期の変化である、1世紀あたり1.33ミリ秒を表しています。 (Credit: Mostafa Kiani Shahvandi, et al.)

両氏は2024年に、気候変動による氷の融解が、1日の長さを確実に長くしていることを示す研究を行いました。その規模は、21世紀に入ってから1世紀あたり1.33ミリ秒であると推定しています。これは、20世紀中に変動した0.3ミリ秒から1.0ミリ秒より確実に大きな値です。

しかし、これはどれほど大きな値なのでしょうか? 過去数百万年間で、地球は温暖期や寒冷期を何度も経験しており、この時代にも1日の長さはかなり変化していたはずです。しかし、紀元前8世紀頃までならば、古代の日食観測記録から1日の長さを推定することはできるものの、それ以前の自転周期について、ミリ秒単位で正確に知ることは困難です。

そこで研究チームは、「有孔虫」という生物の化石に注目しました。有孔虫は炭酸カルシウムの殻を持つ単細胞生物で、いつの時代も海に広く分布しています。研究チームは、過去360万年間の有孔虫の化石から、酸素同位体の変化を測定しました。これを使えば、過去の海面の高さを推定し、そこから1日の長さを推定することができます。

とはいえ、化石記録から推定される過去の地球の状況には、大きな不確実性があります。きちんとした手掛かりがなければ、ピンボケした写真から正確な復元ができないのと同じように、そのままではミリ秒単位の1日の長さの変化を推定することはできません。そこで研究チームは、最近得られた過去の気候データと、今回の研究で取得された有孔虫の化石のデータを下に、機械学習の手法の1つ (PIDM) で誤差を小さくする方法を確立しました。

今現在の1日の長さの変化は過去最大規模と判明

今回の分析の結果、現在起こっている1世紀あたり1.33ミリ秒という1日の長さの増加は、過去360万年間で最も速いペースの1つであることが分かりました。これに匹敵する事例は、約200万年前にさかのぼり、当時は1世紀あたり2.1ミリ秒も1日の長さが増加していました。この時代は大気中の二酸化炭素濃度と気温が上昇した時期であり、まさに地球温暖化が起きていた頃です。

ただし、数値の捉え方には注意が必要です。単純に数値を比べれば、約200万年前の方が、より激しく1日の長さが長くなっているように見えます。しかし、いくら機械学習の手法で誤差を小さくしたと言っても、過去の記録には大きな不確実性があることに注意しないといけません。実際には2.1ミリ秒よりももう少し小さな数値であり、現在の方が激しく変化している可能性も否定できません。

また、仮に約200万年前の変化が1世紀あたり2.1ミリ秒だったとしても、現在の変化の方が真に上回る可能性もあります。1.33ミリ秒というのは標準的な温室効果ガス排出シナリオに基づいた推定であるためです。もし、これよりも激しい温室効果ガスの放出 があった場合、最大で1世紀あたり2.62ミリ秒も変化する可能性があります。この場合、確実に約200万年前よりも1日の長さの増加が大きいことになります。

いずれにしても、1世紀あたり数ミリ秒という変化は、1人1人の生活リズムに影響するほどではありません。実感することすら不可能でしょう。ただし、影響がないかと言われればそうとも言い切れません。GPSや金融システムなど、ミリ秒以下の正確な時刻合わせを必要とするシステムは影響を受ける可能性があります。また、深宇宙を旅する探査機は、もっと深刻な影響を受ける恐れもあります。地球温暖化に伴う気候変動は、このような予想外な方向でも私たちの生活に悪影響を与える可能性を孕んでいるのです。

【もっと読む】『“シュレーディンガーの金属塊” の実験に成功…タンパク質よりも大きい「金属ナノ粒子」が波の性質を示すことを確認』

【参考文献】

・Benedikt Soja & Mostafa Kiani Shahvandi. (Mar 12, 2026) “Klimawandel bremst Erde: Veränderung der Tageslänge beispiellos in Millionen Jahren”. Eidgenössische Technische Hochschule Zürich.

・Mostafa Kiani Shahvandi & Benedikt Soja. “Climate-Induced Length of Day Variations Since the Late Pliocene”. JGR Solid Earth, 2026; 131 (3) e2025JB032161. DOI: 10.1029/2025JB032161

・Mostafa Kiani Shahvandi, et al. “The increasingly dominant role of climate change on length of day variations”. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2024; 121 (30) e2406930121. DOI: 10.1073/pnas.24069

【もっと読む】”シュレーディンガーの金属塊” の実験に成功…タンパク質よりも大きい「金属ナノ粒子」が波の性質を示すことを確認