【幹部自衛官・中国大使館侵入事件】容疑者が卒業した「幹部候補生学校」の元在校生が明かす「行き過ぎた受験者優遇体制」
自衛隊「幹部候補生学校」とは
陸上自衛隊の村田晃大・3等陸尉(23歳)が、在日中国大使館に潜入し、建造物侵入容疑で警視庁に逮捕された事件。侵入時に刃渡り18センチの包丁を植栽に隠していたことも発覚している村田容疑者は、
「中国大使に会って日本への強硬発言を控えてほしいと伝えるつもりだった」「意見が受け入れられなかった場合は自決して驚かせようと思った」
などと供述。それに対し中国大使館は、
「『神がみに代わって』と称して、中国の外交官を殺害すると脅迫した」
と主張するなど、日中の外交問題に発展する様相さえ呈している。
村田容疑者の動機の解明が待たれているが、今回の事件でもう1つ注目を集めているのが、卒業と同時に部下30人以上を持つ「3等陸尉」への昇任が約束されている幹部自衛官養成機関「幹部候補生学校」の存在だ。村田容疑者はこの学校を卒業した2ヵ月後に今回の犯行に及んでいた。
エリート陸上自衛官が中国大使館に潜入するという前代未聞の事件を起こしたのはなぜか。「幹部候補生学校」ではどんな教育が行われているのか。その内実を知るため、筆者は同学校で教育を受けた人物に取材。浮かび上がってきたのは、慢性的な人員不足問題を抱える自衛隊が受験者を露骨に優遇する「なれ合い面接」の実態だった――。
「防大組」と「一般大組」
実態に迫る前に、まずは「幹部候補生学校」の仕組みを説明しておきたい。
「幹部候補生学校」は、陸自(福岡県久留米市)・海自(広島県江田島市)・空自(奈良県奈良市)、それぞれに設置されている。入校者にはエスカレーターで同学校に入る防衛大卒の「防大組」と、試験を受けて入る一般大学卒の「一般大組」がいる。
村田容疑者は上智大卒の「一般大組」だ。昨年春に「陸自幹部候補生学校」に入校、今年1月に卒業し、えびの駐屯地に配属された。3月15日に3等陸尉に昇任している。中国大使館に潜入したのは、直後の3月24日だ。
防大から「幹部候補生学校」に進んだ経験を持つ人物・A氏が、匿名を条件に重い口を開いた。
「当たり前ですが、入校した者は皆、『自衛隊員』になります。特別職国家公務員として俸給も支払われる。そのため、正しくは入校ではなく、『入隊』なのです。
募集・採用業務を担当しているのは『自衛隊地方協力本部』、通称『チホン』と呼ばれ、防衛省の陸・海・空自衛隊の共同機関です。自衛隊と地域の連携を進めるのが目的で、47都道府県すべてにあり、地域事務所なども含めると関連施設は約400ヵ所にのぼります」
「チホン」は「幹部候補生学校」の一次試験の筆記試験合格者を対象に、二次試験対策のサポートも行っているが、そのサポート体制にかねてから疑念を抱いている人も多いという。
手厚すぎるサポート体制
A氏が続ける。
「『幹部候補生学校』の筆記試験はMARCH(明治・青学・立教・中央・法政)レベルと言われていて、例年、倍率は10倍を超えています。二次試験は小論文と口述試験、つまり面接です。『チホン』はこの面接のサポートもするのですが、それが『度が過ぎている』と思わざるを得ない内容なのです。
各年度、学校の入隊者の割合は『防大組』と『一般大組』で半分ずつ程度ですが、エスカレーターである『防大組』は人員数が決まっています。一方、『チホン』には目標の入隊人数があって、入れた人数が実績になるのです。各地の一次試験合格者を関連施設に集めて、面接時の想定問答をマンツーマンで指導、模擬面接を行うことも珍しくありません。
そのため、よほど変なことを言わなければ合格です。面接は『出来レース』と言ってもいいほどです。小論文についても、面接官が欲する書き方になるよう添削までしてくれる。同じようなことが、全国的に行われているのです。定員割れを起こすことは許されないのでしょう。
懸念しているのは、自衛隊幹部に求められている適応性や協調性などの資質が、本当にこうした面接でわかるのかということ。もちろん、だから今回のような事件に繋がった、ということではありません。しかし少なくとも、人員の確保数のために、自衛隊員として問われるべき資質の判断が二の次になっていいわけがありません」
背景には「自衛官不足」
本来は入隊させるべきではない人間を合格に導いてしまったのではないか――。今回の事件の遠因ともいえる自衛隊の事情が、A氏の証言からは垣間見える。
「幹部候補生学校」の内実に精通している軍事ジャーナリストが言う。
「陸・海・空とも募集人員に達しない場合、『チホン』は3〜9月の間に試験を3回まで行います。早い時期に行われる試験は就職試験の滑り止め的に受験されるケースも多く、例年倍率は高くなっています。
試験合格後、『一般大組』は卒業まで『防大組』との相部屋生活が基本。例年、規律正しい生活に耐えられず、辞める人が出てきます。それも見越して合格者は多めに出しているのです。
現実として、自衛隊は人員不足状態にあります。報道されているように、自衛隊員の定員約24万7000人に対して、2024年度の実数は約22万人。充足率89・1%と、25年ぶりに9割を下回っています。
こうした状況に対処するため、模擬面接までやって定員確保に走っているのでしょうが、適性の見極めが二の次になってしまっているのではないか。あくまでこの事件は村田容疑者の犯罪行為ですが、『自衛隊幹部』という身分は、国の責任まで問われるのです。真摯に見直す時期に来ているのではないでしょうか」
二度と「幹部候補生学校」出身者が同様の事件を起こさぬために、早急な対策が必要だ。
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