重い知的障害を抱えた20歳の弟の性体験後、25歳の姉が母親に訴えた家族のこれから。「そろそろ私たちも…」
一般社団法人「輝き製作所」の所長として、性教育を普及するための講演会などを行いながら、「障がい者専門風俗」を運営する小西理恵さん。これまで数回にわたるインタビューでは、障がいのある人たちの「性」のリアルを伝えてきた。
インタビューに続き、小西さんが原案を手がけた漫画『障がい者専門風俗嬢のわたし』からエピソードも抜粋して紹介している。本作は彼女の実体験を通し、その現実をセミフィクションとして描いた作品。障がいを持つ本人だけでなく、家族が抱える悩みや葛藤についても綴られている。
第6話、第7話に登場したのは、重い知的障がいを抱える男性と、その家族。
知能が2〜3歳児相当の、20歳になる弟・ななと(なーくん)を持つ25歳の姉が、障がい者専門風俗「またたき」に相談を寄せたことから話が始まる。
最近女性は、弟が性に興味を持ち始めたことに、強い不安を抱えていた。その後、「またたき」の代表であるしずくと障がい者専門風俗嬢になって間もないつくしは、ななと本人と面談を実施。言葉だけに頼らず、カードを用いたコミュニケーションによって、ななとが理解していく様を紹介してきた。
続く第8話では、いよいよななとがサービスを受けることに。しずくは彼とどのように向き合い、それによってななとや家族にどんな変化がもたらされたのだろうかーー。
障がいを持つ男性の変化
重い知的障がいを抱える、ななとの面談から数日後、障がい者専門風俗「またたき」に、最初に相談を寄せた女性(ななとの姉)から一通のメールが届いた。
そこには、面談以降、ななとが外出先で下半身を触る行為をしなくなった、という報告が綴られていた。
ななとは「またたき」の代表・しずくと交わした「マスターベーションのお約束」をしっかりと守っていたのだ。面談が終わり、サービスを迎える日が近づいてきた。果たしてしずくとまなとは、どのようにそのひと時を過ごすのだろうか。
あとは男と女で
サービスを迎える直前、新米風俗嬢のつくしは、しずくにこう尋ねる。
「ななとさんのような方とプレイする時って特別に注意することって何かありますか?」
しずくがまず大切だと伝えたのが、プレイ前に約束を振り返ること。
そして、ななとが望んでいる「マスターベーションの練習」と「いっぱいくっつく」という流れをイラスト化したメモを準備し、それを使ってもう一度確認するという。
そして最後にしずくは言った。
「それだけであとはいつも通りで大丈夫よ」
「ここまできたら
もう細かいことは気にしないで
男と女でいればいいのよ」
迎えたサービス当日。ななとは約束を守りながら、二人の時間を過ごすことができたという。
母と娘も
ななとがサービスを受けてから数日後、ななとの姉である女性としずくは、オンライン通話で会話を交わした。女性によれば、その後のななとは驚くほど穏やかに過ごしている様子だった。
その理由の一つが、またしずくさんに会うためーー。
さらに日常にも変化が表れた。自分でひげ剃りをしたり、駅で切符を買おうとしたりと、いろいろなことに意欲的に挑戦するようになったという。
その変化は「またたき」を利用したことを知らない母でさえ、気づくほどだった。
そこで女性はこれまでの経緯を母親に打ち明けた。突然の告白に驚きを隠せない母だったが、女性にこう告げる。
「…一人で悩ませてごめんね」
女性は首を振り、戸惑いながらも前向きに変わっていく弟の姿を見て感じたことを母に話した。今の暮らしに不満はないけれど、と前置きをしながら言葉を続けた。
「わ、私も…
そういう自分だけの希望っていうの
持ってみたく…なっちゃって」
さらに、母親にも「一緒に探そう」と提案する。
これまで二人は、ななとのケアを中心に日々を送ってきた。決して我慢していたわけではないけれど、考えないようにしてきたことはあるでしょう、と母に問いかけながら語った。
「だからそろそろ私たちも
自分だけの希望を持ってみたらいいんじゃないかなって…」
その言葉に思わず涙が溢れ出す母親。「そうね、そうしていこう」。二人は前を向くことを誓い合った。
弟の性をきっかけに、家族にとって大きな転換期を迎えることに。女性は最後にしずくたちへ明るい声で精一杯の気持ちを伝えた。
「私たち家族に寄り添ってくれて
本当にありがとうございました」
障がい者が加害者にも被害者にもなりうる性被害
これまでの小西さんへのインタビューでは、障がいのある方たちが、性に関するつらい経験を抱えていることを伝えてきた。しかし実際にはその数はもっと多い可能性もあるそうだ。性被害に遭っていても、それを「被害」として認識できていないケースも少なくないからだという。
「重度の知的障がいを持つ女性が妊娠をしていた、という事件もあります。支援者が加害者になることもあり、『どうせこの子は分からないだろう』と思って行われてしまうことも。また、被害を受けた当事者が『嫌われたくない』という気持ちから受け入れてしまったり、何をされているのか理解できないまま、抵抗できずにいる場合もあるんです」(以下、小西理恵さん)
車椅子を利用している女性が電車内で身体を触られる被害に遭うケースも。
「多くの女性と同様に彼女たちもまた、恐怖を感じながらも、抵抗できずにじっと耐える女性が多いんです」
一方で、障がいを持った方が加害者になる事件もある。
「『危ないもの』『扱ってはいけないもの』として、見ないふりをされてきた結果、当事者も家族も、行き場のない苦しさを抱え込むことになり、その結果、最悪のケースを生んでしまった事件も起こっています。だからこそ、『ないもの』にしてはいけないと思うんです。
“欲求があること”自体が問題でもありません。どう扱えばいいのか分からないまま、社会全体が放置してきたことこそが、問題なのだと思っています。
私がやりたかったのは、“性行為”そのものをサービスするだけではありません。だからこそ、もっと社会全体で“性”についてきちんと考え、話し合っていく必要があると思います。私はこれからもより多くの人たちが性のことについて向き合い、恥じらうことなく考え、話し合う機会を作っていきたいと思っています」
【小西理恵】
「一般社団法人輝き製作所」所長。「障がいと性」を当たり前にすることを目的とし、障がい福祉に関わる支援者、障がい者家族に向けた講演会活動に加え、障がい者専門風俗嬢としても活動。
