1000万人以上の大卒者が生まれる中国で科学技術が爆速で成長している理由〜パクリが「お家芸」の時代はもう終わった…

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アメリカの「締め出し」が推進力に

「中国は『完璧なAIができるまで待つ』という発想をしていません。そこそこの出来のAIを積んだ安価なロボットを大量に現場へ投入し、実際の稼働データでさらにAIを鍛えていく。開発から実用まで、すべての段階を実験と捉える中国はいまや、AI開発の脅威と言えるでしょう」(AI教育プラットフォーム「Anytutor.A鄯」のCEO・王士銘氏)

かつて中国製品といえば、「パクり」の代名詞だった。アディダスそっくりの「アビダス」、スマートフォンではApple製品「iPhone」を丸ごと模倣した山寨機が市場に溢れ、中国電気自動車メーカー「BYD」の主力車は日本車のコピーと揶揄された。

AIの分野でも同様だ。中国発の生成AIDeepSeek」が米「OpenAI」の出力データを無断で学習に利用したとする疑惑が浮上し、米政府も調査に乗り出すなど物議を醸した。

独自に生み出すのではなく、他国の技術を真似て安く大量に作る―それが中国の「お家芸」だと思っている日本人はまだ多い。

だが今、その認識を改めるべき時が来ている。

それを象徴する出来事が、'26年2月中旬に起きた。春節を祝う中国の国民的テレビ番組「春晩」に、人型ロボットが登場したのだ。隊列を組み、音楽に合わせてしなやかに踊るその姿は、思わずCGだと疑うほどなめらか。中国のAIとロボティクスが、かつてないほどの水準に達しつつあることを世界に印象づけた瞬間だった。

中国のITやトレンドを取材する、ライターの山谷剛史氏が解説する。

「中国製品はAIにより、特にこの10年で力をつけてきました。

それを下支えする科学力の伸びは、数字を見れば一目瞭然です。'25年の『Nature Index(自然科学系論文の国際的な成果指標)』では、中国が世界首位に立ち、米国を引き離しました。中国のロボット出荷台数は智元機器人(Agibot)や宇樹科技(Unitree)などを筆頭に年間1万台余りにのぼり、世界シェアの9割弱を占めるまでに成長しています」

これには、模倣を繰り返してきた中国に対し、アメリカが高品質な部品や半導体の輸出規制に踏み切ったことが関わっている。この「締め出し」によって、最先端技術を自国で賄えなければ生き残れないという危機感が高まり、内製化への猛烈な推進力となったのだ。

課税所得から200%が控除される

もっとも、短期間で起きた躍進は外圧だけで説明できるものではない。中国のテクノロジーがここまで進化した背景には、国家レベルで仕掛けられた、ある「仕組み」の存在がある。東日本国際大学経済経営学部准教授の伊藤道大氏が解説する。

「中国の産業発展は、常に国家主導で動いています。まず国が注力する分野を定め、政策で企業の背中を一気に押す。不動産しかり、EVしかり、国が次の柱と定めた瞬間に、補助金、税制優遇、人材育成など、あらゆるリソースが一点に集中投下される。その規模と速度は、民主主義国家の意思決定とはまるで次元が違います」

現在、企業が支出したAI研究開発費については課税所得から最大200%が控除される、つまり開発に投資すればするほど節税できる税制優遇措置がとられている。研究にカネをかければかけるほど、手元に資金が残る仕組みだ。

加えて、政府系基金からは毎年約5兆円が投じられ、拠点を置く省や市からも補助金が支給される。さらに将来の上場時には莫大なリターンが見込めるとあって、企業は競うように研究開発へ資金を注ぎ込むというわけだ。

「この号令に従って、企業や研究機関は一気に開発を進めます。かつてゲームやSNSで巨万の富を築いたアリババやテンセントでさえ、例外ではありません。国家の意向に従い、投資先をバイオ・量子コンピューティング・ロボティクスへと大きくシフトさせました。

大学も同様です。通信技術やエネルギー研究を進める清華大学や浙江大学など、国家の政策に沿うトップ大学には大量の研究予算が投じられます。その結果、毎年1000万人以上の大卒者が生まれ、理系博士の数も米国を上回る規模になっています。国家戦略に乗れない組織は生き残れない―企業や大学はそれを熟知しているのです。

対して政府は、市場の反応や技術の進歩を見ながら、補助金の受給基準を次々と引き上げていきます。たとえばEV分野では、航続距離やバッテリーのエネルギー密度、知能化のレベルといった条件が段階的に厳しくなり、それを満たせない企業は支援の対象から外されたのです」(伊藤氏)

【後編を読む】春節のデモ」は世界に衝撃を与えた…「人型ロボット」で世界をリードする中国

「週刊現代」2026年3月30日号より

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