「米国は十分な準備をせずに攻撃開始した可能性が」 トランプ氏の元側近が明かす 地上軍投入は避けられない?
トランプ米大統領が艦船の派遣を要請するなど、わが国も重大な決断を迫られつつある。ジャーナリストの吉田賢司氏が、第1次トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏(77)にイラン攻撃や日本の今後についての分析を聞いた。
***
【写真を見る】「激ヤセ」が心配される高市首相 以前と比較すると「まるで別人」
当初、トランプ氏はレジームチェンジ(体制転換)の可能性に言及していました。しかし、攻撃開始以降、本人や側近たちはさまざまな目標を挙げている。トランプ政権の最終的な目的が何であるのかは、現時点で明確ではありません。
イランは47年にわたり権威主義的な神権政治体制を維持し、テロ組織を支援しながら核開発を進め、自国民を抑圧してきました。ハメネイ師は亡くなりましたが、後継体制もこうした路線を改める意思を一切示していません。現体制が完全に崩壊しない限り、問題は解決しないのです。

ではまず、米国は何を優先すべきか。イラン国内の反体制派や亡命勢力と連携し、体制内部で反体制派を支持する意思のある人物に働きかけることです。特に、イラン革命防衛隊ではなく通常軍の動向が重要。革命防衛隊はその名の通り、神権政治体制とイスラム革命の理念を守ることを任務としています。片や、通常軍は組織としては別個の存在です。兵力規模を見ると、革命防衛隊が約20万人であるのに対し、通常軍は予備役などを含めれば約80万人を擁しています。
「内部分裂を促すべき」
米国は体制転換を実現するための具体的な戦略を構築しなくてはなりません。資金を用いて体制内部の適切な人物を取り込み、内部の分裂を促すべきです。昨年12月から今年初めにかけてイランで反体制デモが続く中、米国が反体制派に約6000台のスターリンク端末を提供したとの報道もありました。武器の提供を求められるのであれば、応じた方がよいでしょう。
イラン革命防衛隊の通信網や指揮統制システムは、現在著しい機能不全に陥っています。今こそ、弱体化に乗じて圧力を強めるべきです。とりわけ、クルド人やバルーチ人が居住する地域などで、体制への圧力を強化する余地があります。
政権が崩壊寸前と判断される場合には、フォルドゥ、イスファハン、ナタンズなどの核施設を確保し、濃縮ウランが悪意ある勢力の手に渡らないようにする必要もあります。同様に、遠心分離機や核開発に関連するインフラ、さらにはコンピュータ内などに保存されたデータも、悪意ある勢力の手に渡してはなりません。
攻撃前に十分な準備を進めていたのか
とはいえ、トランプ政権が攻撃前に十分な準備を進めていたのかという点にはかなり疑問があります。
当初、トランプ氏はイランに対する軍事作戦は4〜5週間続くとの見通しを示していました。私も当時、「4〜5週間、あるいはそれ以上になる可能性もある」と指摘していました。もっとも、それはトランプ氏の予測同様、やや楽観的だったのかもしれません。
すでに米国軍とイスラエル軍は、イランの防空システムの無力化に成功し、イラン政権が報復手段として用いる弾道ミサイル能力には打撃を与えました。
しかし、特にホルムズ海峡を巡っては疑問が残ります。ペルシャ湾の海上交通や、同海峡の通航を脅かし得るイラン海軍などに対し、なぜ開戦当初からより優先的な措置が取られなかったのか理解し難い。
米中央軍(CENTCOM)は3月10日、ホルムズ海峡付近でイランの機雷敷設艦16隻を攻撃し、撃沈したと発表しました。これは歓迎すべき動きです。ただ、機雷を敷設する手段は多岐にわたり、機雷敷設艦以外にも方法があります。例えば、高速艇に機雷を搭載して数十隻規模で展開することもできますし、ドローンに機雷を取り付けて上空から投下することも技術的には可能なのです。
地上軍投入は避けられない?
イラン政権の変革には米国の地上軍投入が避けられないのではないか、との議論も活発化しています。米国では、アフガニスタンやイラク戦争の経験から、いわゆる「boots on the ground(地上軍の投入)」に強い抵抗感を持つ国民が多い。ただ、これはある意味で言葉の問題でもあります。すでに、特殊作戦部隊が現地に展開しているのは間違いないからです。
トランプ氏は今回の軍事行動に対する支持率が、第2次世界大戦以降で最も低い水準にある中、攻撃を開始しました。一般に、戦争への支持率は時間の経過とともに低下する傾向があります。だからこそ、特殊作戦部隊やイラン国内の反体制勢力を巧みに活用し、可能な限り早期に政権の崩壊を図らねばならないのです。
後方支援の重要性
必然的な帰結として、イランへの軍事攻撃は中国への圧力にもなります。ペルシャ湾岸諸国から供給される石油の80〜90%は東アジア向けであり、約3分の1、すなわち40%近くが中国へ向かっています。残りは日本、韓国、台湾などに輸出されています。これが遮断されれば、中国は極めて厳しい状況に直面することになるでしょう。
〈トランプ氏はホルムズ海峡の脅威を取り除くためにフランスや韓国などと並んで日本にも艦船を派遣するよう求めている。だが、自衛隊艦船の派遣へのハードルは高い。高市早苗首相は3月16日の参院予算委員会で、「日本政府として必要な対応を行う方法を現在検討中だ」と述べて態度を保留した。〉
船舶への攻撃や、イラク領海内で発生した2件のタンカー火災を見ても分かるように、問題はホルムズ海峡だけにとどまりません。海峡での航行を再開させ、石油を世界市場へ、特にその大半が向かう東アジアへと再び流通させることは、極めて重要な優先課題です。
もしイランの政権打倒が長引けば、ホルムズ海峡の安全は引き続き脅かされる。日本のような友好国や同盟国が、その封鎖を打破する能力を提供できれば、航行の自由を回復させることができますし、米国の軍事作戦を加速させることにもつながります。
日本は中東の石油に大きく依存している以上、安全で確実な供給を確保するための取り組みに参加する正当な理由があります。戦争が長期化すれば、後方支援や掃海能力の重要性は一層高まります。日本が、後方支援や掃海艇の提供といった形で貢献できれば、その意義は大きいでしょう。
安倍元首相が築いた基盤の恩恵
3月末にはトランプ氏の訪中が予定されたものの、その準備が混乱しているとの報道もあります(17日、「1カ月延期」要請の報道)。トランプ氏が米中首脳会談で狙うのは、「史上最大規模の貿易ディール」です。トランプ氏は第1期の任期中にも中国との「ビッグディール」を追求しましたが、実現には至りませんでした。中国側が農産物購入の約束を履行せず、不公正な貿易慣行の是正も進まなかったのです。
準備不足や他の優先課題を踏まえると、今回の米中首脳会談で“ディール”が成立する可能性は現時点では低いといえるでしょう。現状では米中の立場の隔たりは依然として大きく、中国との貿易協定を成立させるためにトランプ氏が台湾を巡って譲歩するリスクは、以前に比べ大きく低下しているとみられます。
トランプ氏は、日本や韓国の指導者とおおむね良好な関係を築いています。特に日本との関係について言えば、安倍晋三元首相が築いた基盤の恩恵が大きい。高市早苗首相は安倍氏の系譜に連なる政治家ですから。仮にトランプ氏自身が一部の政策で方向転換したとしても、米議会や国家全体の対日関係が大きく変わることはありません。
バイデン政権下で合意した日米韓の3カ国共同訓練が、今も継続されているのは歓迎すべき点です。トランプ氏はこれまでも欧州諸国に防衛費の増額を強く求めてきました。中国を取り囲む東アジアからインド太平洋に至る同盟国や友好国が防衛費を増やすことは、極めて理にかなっています。高市政権は防衛費増額を前倒しし、安全保障政策でより積極的な姿勢であると、トランプ氏に明確に示さねばなりません。
政権内で混乱が起きている可能性
政権内部には、J・D・ヴァンス副大統領をはじめ、自国の利益を優先し、他国への関与を避ける孤立主義的な人物が少なくない。当初から彼らは、イランへの軍事行動には反対していました。そもそも、彼らは戦争そのものに否定的です。こうした事情から、政権内では混乱が起きている可能性があります。
またトランプ政権は攻撃に先立って、その正当性について米国民や議会、さらには同盟国に対して十分な説明を行ってきませんでした。MAGA支持層の多くが孤立主義的傾向を持つこともあり、これもトランプ氏特有の政治的な難題といえます。
このまま戦争の正当性が十分に示されないまま、イランでの軍事作戦が長期化して米軍の犠牲者が増えれば、戦争反対の声はさらに強まります。しかし、ホルムズ海峡の封鎖が解除され、原油価格が落ち着いて市場が安定すれば、最終的には中間選挙の主要争点にはならないはずです。
「週刊新潮」2026年3月26日号 掲載
