「高市首相は案外、長くないかもしれない」自民党内から聞こえる面従腹背の声、囁かれる健康不安と派閥復活の包囲網

参院予算委員会に向かう高市早苗首相(2026年3月16日、写真:共同通信社)
衆議院で3分の2議席を獲得し、安倍晋三政権を超える「一強」と見られている高市早苗政権だが、その実態は脆い。高市首相のペースで進む国会運営についても自民党内の半分以上は是としているわけではなく、面従腹背ともいえる。「日刊ゲンダイ」第一編集局長の小塚かおる氏がレポートする。
対米隷属の「媚態外交」か? トランプ大統領が絶賛した高市政権の危うい独走
アメリカとイスラエルが始めたイラン戦争の渦中に行われた3月19日の日米首脳会談が終わった。
高市首相とトランプ大統領との会談は友好ムードで、懸念されたホルムズ海峡への艦船派遣を要請されなかったことから、首相官邸周辺は「訪米は成功」とアピールする。だが、その代わりにトランプ大統領の「日本は踏み込んだ対応を考えている」という発言が何を意味するのかは表に出ていない。

会談で握手を交わす高市早苗首相(左)とトランプ米大統領(2026年3月19日、写真:共同通信社)
高市首相がホワイトハウスでトランプ大統領に迎え入れられた際の、ハグ(欧米流挨拶)というより自ら抱きつくようなしぐさや、イランに先制攻撃したトランプ大統領に対し「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」と口にしたことも、「大統領を怒らせないでうまく懐柔した」との評価がある一方、「対米隷属極まれりの媚態外交」との批判もある。
関税合意に伴う5500億ドル(約87兆円)の対米投資の第1弾と第2弾、計17兆円超も日本の国益に照らして見合うものなのか、まさにこれから問われることになる。
トランプ大統領にも絶賛された今年2月の衆議院選挙での歴史的圧勝で、高市首相は「数の力」で押し切る政治にかじを切った。その象徴が来年度予算案の今年度内成立に固執する姿だ。
高市首相は国会答弁でも「国民の皆様の生活に支障を生じさせないよう、年度内に成立させていただく」と繰り返す。理があるように聞こえるが、解散総選挙によって予算案審議のスタートを1カ月も遅らせたのは高市首相自身だ。過去最大の122兆円もの予算案を例年より短く甘い審査で成立させていいわけがない。
自民党も財務省も野党も、「国民生活に支障を生じさせない」形での暫定予算の編成を既定路線と考えていたが、高市首相の“鶴の一声”でひっくり返った。そのため、衆院では予算委員長が「職権」を乱発して日程も採決も強行した。
これには、「憲政に禍根を残す横暴」「立憲主義を骨抜き」との批判が渦巻いたが、高市首相は意に介さず、高支持率と巨大与党をバックに「我が世の春」を謳歌しているように見える。
睡眠3時間の限界、国会答弁で露呈した高市首相の「健康不安」
しかし、自民党内からはこんな意外な見方が聞こえてくる。
「選挙であれだけの勝利を党にもたらした総理・総裁ですから、今は執行部含め党内はみな、もの言えば唇寒しでおとなしいが、その実は面従腹背。党内の7割は高市首相の政治手法をいいとは思っていない。高市さんはもともと党内基盤が弱い。案外、長くないかもしれない」(党重鎮のベテラン議員)
理由のひとつは、最近、永田町で頻繁に耳にする「健康問題」だ。
3月12日の衆院予算委員会で、高市首相は途中、ふらついたり、壁にもたれたりする様子があり、終了後、自席から立ち上がれなくなってしまった。風邪の疑いで医務官の診察を受け、首相官邸での在京イスラム諸国外交団との夕食会を欠席した。

衆院予算委員会を終え、片山さつき財務相(左)に声をかけられる高市早苗首相。予算委終了後の公務日程は木原稔官房長官が代行した(2026年3月12日、写真:共同通信社)
体調を崩したのは睡眠不足が理由とされる。
「予算委のある日は3、4時間ほどしか眠っていない。そのため昼休みは執務室のソファで横になっている」(官邸関係者)
国会中継などを見ても、確かに以前に比べ痩せて頬もこけたように見える。
昨年末にも、ある閣僚経験者が「高市首相は、関節リウマチの持病があり、薬剤で進行を止めている状況だと国会答弁で自ら明かしている。首相の激務にストレスが重なって病気が悪化。潰瘍性大腸炎の持病が悪化し、1年で退陣した第1次安倍政権を思い出させる」と話していたが、その見立てがまだくすぶっているということだ。
高市首相の足元で着々と進む「旧派閥」の再結集
そして、もうひとつの理由は派閥復活の兆候だ。
衆参合わせて400人超の大所帯となったうえ、新人が66人。裏金問題などで落選していた議員もほとんど戻ってきた。
自民党内で唯一、派閥を存続させている麻生派は18人が新規加入し、60人の勢力にまで拡大した。これが契機となり、旧派閥がみな蠢きだした。

自身の派閥(志公会)の例会を終えた自民党の麻生太郎副総裁(2026年2月19日、写真:共同通信社)
表で報じられているだけでも、旧二階派は衆院選で返り咲いた武田良太元総務相が新たに研究会を発足。政界引退した二階俊博元幹事長ら20人超が出席した会合は、さながら派閥引き継ぎの“セレモニー”だった。

2026年3月10日、日韓議連の総会で会長に選出され、あいさつする武田良太元総務相(左から2人目/写真:共同通信社)
旧岸田派は岸田文雄元首相、木原誠二元官房副長官らが初当選組を含む30人ほどで会合。林芳正総務相や小野寺五典税調会長らも、旧派閥議員20人ほどと別途、会合を開いた。
旧安倍派も萩生田光一幹事長代行と西村康稔選対委員長が呼びかける形で食事会を開き、約20人が集まった。
旧茂木派は会長だった茂木敏充外相が旧派閥議員らとの昼食会を定期的に開催している。

衆院予算委員会で答弁する茂木敏充外相(2026年3月11日、写真:共同通信社)
「党の規模が大きくなればなるほど、主導権争いで議員数がものを言う。勉強会や研究会などと称してグループ化が進むのはある意味、必然だ。派閥復活は次の総裁選を見据えた動きでもある。
高市さんの任期は、前任の石破総裁の残り期間なので来年秋まで。普通に考えれば、無投票再選を狙うだろうが、その時の支持率と状況次第だ。もともと高市さんは仲間がいない。支持率が3割台にでも下がれば、各派閥は『ポスト高市』を探して動くだろう」(前出の党重鎮)
「反高市」の号砲は8月の人事か、支持率次第で加速する政権崩壊のシナリオ
実際、高市政権の生みの親とも言える麻生派は現状、高市首相を支えてはいるものの、麻生太郎副総裁の目的はキングメーカーとして政権与党に大きな影響力を持ち続けることであり、権力維持が狙い。必ずしも高市氏である必要はない。
茂木氏も閣内にいながら高市首相から距離を置いている。高市首相の台湾有事をめぐる不用意な発言で日中関係は悪化の一途だが、外相として問題解決に積極的に動く様子はない。「茂木派の木原稔官房長官は官邸内の監視役だろう」(別のベテラン議員)という見方もあるほどだ。それは同じく閣内にいる旧岸田派の林氏も同様で、高市首相と距離がある。

衆院予算委員会で答弁する木原稔官房長官(2026年2月27日、写真:共同通信社)
石破茂前首相や石破政権で要職を務めた岩屋毅前外相、村上誠一郎前総務相ら党内の穏健保守議員はタカ派の高市首相とはハナから路線が違う。
そして、旧安倍派にしても、落選していた所属議員が国政に復帰できたのは高市首相のおかげなので当面は支えるものの、根っこには打算がある。例えば西村氏などはかねて総理・総裁を目指しているだけに、どこまでも高市首相について行くのかは疑問だ。
「派閥やグループは8月にも行われる内閣改造・党役員人事が終わるまでは水面下で静かにしているだろうが、人事が終われば支持率次第で『反高市』の号砲が鳴る」(前出の党重鎮)
与党は衆院では圧倒的多数でも参院は過半数に4人足りず、少数だ。唯我独尊で強行突破する国会運営をいつまでも続けられるはずがなく、歯車が逆回転し始めたときは速い。

参院予算委員会で水を飲む高市早苗首相(2026年3月16日、写真:共同通信社)
筆者:小塚 かおる
