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 ◇「ばけばけ」脚本・ふじきみつ彦氏インタビュー

 女優の郄石あかり(23)がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「ばけばけ」(月〜土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)も、残り2週(10回)。舞台は松江、熊本から東京に移り、主人公・トキと夫・ヘブンの物語もフィナーレが近づく。派手さはなくとも、泣き笑いを誘う会話劇で見る者を魅了してやまない脚本家・ふじきみつ彦氏(51)に約1年半にわたった作劇の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 朝ドラ通算113作目。松江の没落士族の娘・小泉セツと、その夫で日本の怪談を世界に紹介した明治時代の作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)をモデルに、怪談を愛してやまない夫婦の何気ない日常を描く。

 ふじき氏は広告代理店勤務を経て、30歳の時に作家活動を開始。日本の不条理演劇を確立した第一人者・別役実氏に師事。コント・小劇場からテレビドラマ・映画と、多彩な作品を生み続けている。テレビ東京「バイプレイヤーズ」シリーズやNHKよるドラ「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」など、日常描写や会話劇に定評。満を持しての朝ドラ初挑戦となり、オリジナル脚本を手掛けた。

 プライベートは2児のパパ。毎朝4時に起床し、その日の執筆を開始。2024年春にプロット作りに着手してから1年8カ月の長丁場を、育児と両立しながら完走した。

 全25週・全125回の台本は、キャリア史上最長にして最多の分量。脱稿の心境を尋ねると、ふじき氏は「周囲から“終盤は大変”と聞いていたので、自分も最後は追い詰められるものと思っていたんです。それが、少し早めに書き終えることができたらしく、当初の予想とは違って寂しさが込み上げてきました。もうこれ以上、『ばけばけ』の台詞を書くことはないんだな、もっと書きたいな、と。解放感より寂しさが勝りました」と“ばけばけロス”になったことを打ち明けた。

 「ばけばけ」の世界で生きるとしたら、どのキャラクターになりたい?には「難しいですが、(主人公の祖父)勘右衛門(小日向文世)ですかね」と答えた。

 「ちょうど数日前、子どもに“(登場人物の中で)誰が一番好き?”と聞かれて、子どもは英語もしゃべれるから錦織だと。僕は勘右衛門と答えました。僕の本の世界観を象徴しているキャラクターです。人を笑わせようとは一切していなくて、大真面目に生きているだけなんですが、どこか可笑しみがある。木刀を振り回しているのも、ヘブンのことをペリーと呼び続けているのも、別にふざけているわけではなく、自分に信念があるから。周囲からどう思われようと、愛する家族のためなら自分の芯は曲げないし、折れない。勘右衛門が好きなのと彼になるのは違って、今から勘右衛門になると冷静に考えると大変ですが(笑)」

 司之介(岡部たかし)が「リテラリーアシスタント(創作活動の手助け役)」のことを音の響きだけで「見てられん足がすくんで」と言い間違え、フミ(池脇千鶴)たちがツッコミを入れた第105回(2月27日)をはじめ、随所に盛り込まれる、クスッと笑える台詞がふじき氏の真骨頂。しかし、当初は自分らしい会話劇が書けず、クランクイン“直前”に大幅なテコ入れを敢行した。

 24年7月に執筆をスタート。約5カ月間で4週目まで完成したが、「今作は時代劇」という意識にとらわれてしまい、松野家のやり取りはオンエアされた内容とは程遠い、堅苦しいものに。「面白くないという自覚はありましたが、そのまま12月に入ってしまいました」と振り返る。

 ただ、舞台が一時東京に移り、錦織(吉沢亮)が初登場した第4週「フタリ、クラス、シマスカ?」(昨年10月20〜24日)は「ちょんまげの人もいないので、ようやく自分らしい台詞を書くことができて、執筆の時間が楽しいと思えるようになったんです。第1週からこのタッチにしたい、そうじゃないと25週まで続かない」と12月末に書き直しを宣言。年末年始の10日間ほどで3週目までを一気に書き上げた。25年3月に撮影開始が迫っており、準備期間を考えると1月上旬が締切というギリギリの変更だった。

 初回(昨年9月29日)は1875年(明治8年)、武士の時代が終わったことを松野家4人が恨み、新しい世を呪う「丑の刻参り」のシーン。当初の脚本では、勘右衛門は不在だった。

 「書き直した時、勘右衛門を勝手にいさせたんですね(笑)。司之介の“最高の夜じゃな”に対して、フミが“最高ではないと思いますが”、勘右衛門が“どちらかと言ったら最低の夜じゃろ”と応じますが、こういう会話ができていなかった。勘右衛門がいるから“ペリーも呪っちょくれ”の台詞も生まれました。武家の妻と娘ということで、フミと幼少のトキ(福地美晴)は堅物のキャラクターだったんですが、このシーンでフミは司之介に物申す、という関係性ができて。トキが立ったまま寝入る描写も、書き直す前はありませんでした」

 「初回は盛りだくさんなので、オンエア上は立ち寝してしまったトキが倒れそうになるところで終わっていますが、丑の刻参りのシーンには続きのやり取りがあって。司之介が“立ったまま寝るとは、トキは神の子なのでは”と言い始めると、フミは“私たちの子。第一、神様は寝ません”と反論。司之介の“神様も寝る”、勘右衛門の“寝ない。神様は毎日徹夜をしている”と続くんです。ここから松野家の会話が転がり出して、弾むようになりました。視聴者の皆さんが選ぶ印象的な台詞には入らないと思いますが、書く側からすると、松野家の方向性が決まる非常に大事なシーン、台詞になりました」

 この後に続くのが松野家の朝食のシーンで、幼少のトキがしじみ汁を味わう。トキが「あ〜」と声を漏らし、司之介に叱られるくだりのも、当初はなかった。

 デッドライン間際ながら、大胆な修正を決断したことが奏功した。

 八雲には「神戸時代」「静岡・焼津時代」のエピソードもあるが、今作は残り2週で「東京編」。スピンオフの構想は?と水を向けると「のんびりしたストーリーになると思いますが、チャンスを頂ければ、また書いてみたいですね」と意欲を示した。

 第24週(3月16〜20日)は「カイダン、カク、シマス。」。八雲の代表作「怪談」誕生がついに描かれる。