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古い団地やマンションで広がる老朽化問題。建て替えに際して多額の費用を支払わなければならないケースも少なくありません。本記事では、永峰英太郎氏の著書『人はこんなことで破産してしまうのか!』(三笠書房)より一部を抜粋・再編集し、古い集合住宅に住むことの落とし穴について解説します。

団地などの老朽化が社会問題

日本全国で深刻化している団地やマンションの老朽化問題。特に1970年代以前に建てられた「旧耐震基準」の団地などでは、駆体や設備の老朽化が大きな社会問題になっている。

しかしながら、大規模な修繕をしようにも、区分所有者が多いため、その合意形成は難しい。国としては、災害リスクの低減や居住環境の改善を図るため、合意形成のハードルを下げる必要があった。

そこで、老朽化したマンションの建て替えや敷地売却をスムーズに進めるための「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」が施行された。これは、建て替えを区分所有者全員の賛成ではなく、区分所有者及び議決権の5分の4(80%)以上の賛成により決議・実施できるよう後押しするものだ。

愛知県名古屋市にある大型団地も、1969年に建てられたもので、老朽化が激しかった。5階建てでエレベーターはなく、住民の多くが65歳以上だ。バリアフリー化が急務となっており、2016年頃から管理組合内で建て替えの検討が開始された。

その後、2022年に行われた会議で、170人いる区分所有者のうち5分の4以上が賛成し、建て替えが決まった。

99歳の母と暮らす78歳女性「建て替え費用なんて払えない」

そんな中、反対票を投じたのが、団地の4階に住む78歳の女性だった。新築時に父親が購入したが、その後父親が死去したタイミングで、母親と一緒に暮らすため、40歳のとき、この団地に越してきた。

現在、母親は99歳。女性も本心では、建て替えを望んでいる。しかし、お金がなかった。業者の見積もりでは、建て替え後、同じ広さの部屋に移るとなると約400万円の追加費用が必要で、入居までの仮住まいの費用も約350万円かかるとのことだった。

年金で暮らしている女性に、そんなお金はなかった。母親と女性で、年金額は月12万円である。預貯金はほぼゼロだった。ローンも高齢のため組めなかった。

「終の棲家」にするはずが……

この女性のような「建て替え費用が払えない」という問題は全国的に深刻化しており、高齢で低所得の居住者の多くが直面している。

では、そうした反対組は、どのような道をたどるのか。多くは金銭清算型といって、反対した住民は「時価相当額の金銭」で持分を清算され、建物の所有権を失うことになる。

この女性もそうすることが可能だった。しかし、である。この「時価相当額の金銭」は市場価格を基準とするも、とても立ち退きに十分な額ではなかった。たったの400万円だったのだ。

とはいえ、裁判で争う余力もない。仕方なく賃貸物件を探すも、2人は高齢のため断られてしまう。ようやく見つけたのは、駅から歩いて30分以上かかる、月5万円の物件だった。

引っ越し費用や敷金・礼金などで50万円以上かかり、さらに高齢の母親の病院や介護の費用などで、5年後には400万円がなくなった。

年金の月12万円から5万円の家賃を引けば、1か月に使えるのは7万円である。2人はひもじい生活を強いられている。

駅へと向かう途中に、かつて住んでいた団地がある。建て替えが終わって雰囲気が明るくなり、子供たちの笑い声が絶えない。「ここは私や母の終の棲家になるはずだったのに」と呟き、破産間近の人生にため息をつくばかりの女性であった。

「安いから」で古い物件を選ぶことのリスク

国土交通省の予測によると、築40年以上の分譲マンション数は、2023年末で約137万戸に達しており、今後も増加が見込まれている。この女性が住んでいた団地のように、建て替えが実施されるケースは増えていくことが予想される。

しかし、建て替えが実施された場合、住んでいた部屋と同程度の部屋に移るとなると、追加費用は必ずかかる。入居までの仮住まいの費用もかかる。そのため、古い集合住宅に住んでいる場合や、今後住む予定がある場合、それ相応の貯蓄をする必要がある。そうした準備を怠れば、路頭に迷うことも十分あり得る。

「安いから」という理由で古い物件を購入するのは危険だ。物件の築年数は必ず確かめておこう。

永峰 英太郎