2025年のマーケティングおよびメディア業界は、急速な技術進化と市場構造の変化が重なり、これまで当たり前とされてきた前提が揺らぎ始めた1年だった。とりわけAIの進化は、ツールの域を越え、マーケティングにおける生産性と創造性の前提を書き換えつつある。加えて、検索、ソーシャル、コマース、生成AIといった接点が絡み合い、顧客体験の「入り口」そのものも分散・再編されはじめた。Digiday Japan恒例の年末年始企画「IN/OUT 2026」では、当メディアとゆかりの深いブランド・パブリッシャーのエグゼクティブたちにアンケートを実施。2025年をどのように総括し、そして2026年に向けてどのような挑戦とビジョンを描いているのか。その声を紹介する。大丸松坂屋百貨店で、DX推進部 デジタル事業開発担当 部長を務める岡粼路易氏の回答は以下のとおりだ。

◆ ◆ ◆

――2025年のもっとも大きなトピック・成果は何ですか。

2025年は、これまでのクリエイターとの価値共創によるインフルエンサー事業、メタバース事業に加え、VTuber事業を立ち上げました。百貨店初のVTuber事務所を運営しています。弊社社員がタレントマネージャーやプロデューサーとなり、クリエイターの皆さんと夢の実現に向けて奮闘しています。前年末からオーディションを実施し、春のデビューを予定していましたが、私たちも初めてのことばかりで、結果的に夏の終わりの時期までずれ込みました。しかし、デビューからわずか1か月でYouTube登録者1万人を達成し、想定を上回る初速となりました。また、2年前から仕込んできたメタバース事業が大きく花開きました。それが石見神楽メタバース化の成功です。島根県江津市のシティプロモーションの一環として、島根県西部の石見地方に伝わる伝統芸能である石見神楽を、メタバースで再現するプロジェクトに取り組みました。石見神楽の著名な演目をメタバース空間で再現するという難題に対し、2月に現地の神楽団の方々への取材やモーションキャプチャーによる演舞の収録を行い、5月末には完成させるという、極めて短い制作期間かつ難易度の高いプロジェクトでした。制作したメタバースワールドは、VRChatというプラットフォームで公開するとともに、大阪・関西万博の地方創生SDGsフェスで体験会を実施しました。いずれも大好評で、日本のみならず海外の方にも、メタバース空間で再現した石見神楽を体験いただきました。これらの取り組みは、Japan Metaverse Awards 2025においてメタバースジャパン特別賞を受賞し、2025年のもっとも大きな成果となりました。

――2026年に向けて見えてきた課題は何ですか。

石見神楽メタバース化プロジェクトを通じて、日本の地方にある素晴らしい伝統芸能に触れる一方で、地方が抱える地域課題を身近に感じるようになりました。急速な人口減少や少子高齢化に伴い、労働力不足、公共交通網の維持困難、空き家の増加といった深刻な課題が顕在化しています。これにより地域経済が縮小し、医療やインフラなど基礎的な行政サービスの継続が危ぶまれる状況が、大きな懸念となっています。これらの課題は、すでに数年前、あるいは十数年前から指摘されていたものもあると思いますが、都内で仕事をしているだけでは、なかなか自分ごととして捉えられていませんでした。2025年の取り組みを通じて、こうした社会課題を強く意識するようになりました。

――2026年にチャレンジしたいことを教えてください。

これまで携わってきたインフルエンサー事業、メタバース事業、VTuber事業といったエンターテインメント性の高いマーケティングソリューションを、シティプロモーションやシビックプライド醸成などに活用し、日本国内の地域課題の解決に貢献していきたいと考えています。具体的には、私たちが得意とするSNSショート動画を活用することで、地域の魅力をより多くの人、さらには世界中に届けられる可能性があります。また、メタバース石見神楽で培ったノウハウは、他の地域においても同様の手法で活用できると考えています。2026年は、地域創生に活かせるマーケティングソリューションへの挑戦を進めていきたいです。