34年間、毎日「食事の写真」を撮り続けてわかった…現役バリバリの研究者(97)が推す、スーパーで揃う“最強食材”
※本稿は、五十嵐杏南『ヘンな科学“イグノーベル賞”研究40講』(総合法令出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■34年間欠かさずに食事の写真を撮り続けた
スマホを持つことで多くの人が、飲食店で儀式的に食べる前に写真を撮るようになった。食べ物が目の前にあるのに友人が撮り終わるのを待つのは、エサをおあずけされているイヌのような気分である。
と言いつつ私も結局、後からその写真を送ってもらって喜ぶのだが。
そんなぼやきはさておき、34年間にわたり欠かさず食事の写真を撮り、頭脳の働きや体調に与える影響を分析し続け、2005年のイグノーベル栄養学賞を受賞した有名人がいる。
フロッピーディスクを始めとする莫大な数の発明品で知られるドクター・中松だ。
42歳で始めた撮影は今でも続けており、2020年現在(※)では半世紀分の食事を撮影したことになる。
※編集部注:内容は、『ヘンな科学』(総合法令)出版当時(2020年12月)のものです。

よく、「私たちの体は食べる物でできている」などと言われるが、ドクター・中松によると、食べた物は3日後に脳や体調に影響を与えるそうだ。
写真を撮り、毎日採血を行い、食材との相関関係を調べ、この結論を導き出した。
今となっては食事の写真を撮ることくらい簡単にできるが、ドクター・中松が記録を始めたのは約半世紀前の1970年代。まだまだフィルムカメラの時代だ。撮影も今より面倒だし、経費もかかる。
その上、当時はご飯を食べる時に写真を撮る種族はまだいない。「撮影がその場の雰囲気を壊す」「シェフにレシピ泥棒と勘違いされる」など、周りの人からの風当たりが強かったこともあったそう。いちいちカメラを取り出して食事を撮る姿は、きっと怪しかったのだろう。
■頭がよくなる食品リスト55項目
そのような困難に屈せずに、何十年も根気よく撮り続けた面も評価されて受賞に至ったのではないだろうか。今ではさすがにフィルムカメラではなく、食事撮影専用のデジカメで撮り続けている。このカメラだと色がしっかりと写り、食材の種類や量を記録しやすいということだ。
ドクター・中松は分析結果から「頭が良くなる」品目55品を見つけ、1日3食よりも1食が良いという結論に達した。
ドクター・中松作成の頭が良くなる食品リストはこちら。
なかでも味噌や納豆などの植物性の発酵食品がおすすめだそう。となると、納豆汁なんて最強だ。
ドクター・中松は、これら55品目全てが入ったふりかけや飲料を発明している。
ドクター・中松は90歳を超えた今も、TwitterやYouTubeチャンネルで活発に情報発信を続けながら、発明品の開発や改良にも毎日大量の時間を割いている。
※編集部注:内容は、『ヘンな科学』(総合法令)出版当時(2020年12月)のものです。2025年11月時点でドクター・中松は97歳になっている。
精力的に活動し続けるためのポイントは、体づくりだとのこと。「そのためには、本物の食事を食べることが大切。だから今でも写真を撮り続けている」とコメントしている。
■和食“1975年版”の献立が最強だった
ドクター・中松のリストを見ると、魚介類や海藻、そして味噌・醤油など、和食の素材が多いことに気づく。

和食が日本人の長寿に貢献しているという説はよく聞くし、欧米メディアでもしばしば話題になる。実際に、日本は世界一100歳以上の人口が多く、10万人あたり6人が100年以上も生きている(※)。心臓病による死亡率も低い。
※編集部注:データは『ヘンな科学』(総合法令出版)出版当時(2020年12月)のもの。2025年9月現在、100歳以上の人口は、10万人あたり8人に増加している。
「和食」とひと言で言っても、そのレパートリーは多種多様だ。
和食と健康に関する研究を40点ほどまとめて評価した論文によると、魚介類、たくさんの野菜、そして大豆を使っていることが和食に共通する特徴ということが分かった。
薄い味の調味料をたくさん使うのではなく、濃い味の調味料を少量使うこと、炒めるよりも煮たり蒸したりすることが多いこと、そして品数が多いことも健康に貢献しているとされている。

そんな和食も、時とともにその姿を大きく変えている。
1960年、75年、90年、2005年の献立を参考に年代別の和食を作り、マウスに食べさせて比較した研究では、75年版の和食で糖尿病や脂肪肝を発症するリスクが最も低い、という結果が出た。
75年版の和食の特徴としては、魚介類や海藻、豆類、果物、発酵食品がふんだんに使われている上、比較的品数が多いことが挙げられる。
さらに肥満気味の現代人数名にそれぞれ、75年版の和食、もしくは現代版の和食を食べてもらい比較したところ、75年版の和食をとった人たちのほうが痩せたという。
実験終了後に、参加した人たちの腸内を調べたところ、それぞれの和食をとった人たちの間で、腸にいる微生物の構成が異なっていた。
研究者たちは、この違いにより体重減少に差が生まれたと考えている。
果たして、長寿大国日本の時代はいつまで続くのだろうか。
■「発明は発想ではない。理論である」
2020年9月時点で3626点の発明品があるドクター・中松。
あまりにとてつもない数だったから、「どうやったらそんなに発明する物を思いつけるのですかあ〜?」と無邪気に聞いてみた。
ドクター・中松には、独自の発明フィロソフィーがある。
いわく「発明は発想ではない。理論である」。
発明はひらめきから生まれると思われがちだが、そうではない、ということだ。
ドクター・中松が言うには、ひらめくよりも先に、論理的に考えて課題を見出すことがマスト。そして最終的には社会で広く活用される形に作りあげないと、発明品として不合格なのだ。
「じゃあ先生、潜在ニーズを探し出して市場を作るマーケティングみたいですね!」
と言ったら、それは違うとぴしゃり(ぐすん)。「必要は発明の母」という言葉はドクター・中松からしてみれば間違いである。必要になってからでは遅いのだ。
発明品を作るには、ずっと先の未来を見据えなければいけない。まず10年先のことを考えて、マーケットをゼロから作り出すつもりで挑まなければいけないのだ。
というのも、ドクター・中松でさえ発明品の完成までには数年かかるそうだ。形にするまでは早いが、改善のための実験や検証に多くの時間がかかるのだとか。
数年先の未来だけを考えて発明していては、発明品が世に出る頃には時代遅れになってしまう。発明品を形にする時は、単に今の生活を豊かにするだけではだめだ。様々な業界をひっくり返して、社会全体を良い方向に向かわせるものを作るつもりで考える。自分の金銭的な利益だけを追求してはいけない。
■ドクターが「毎晩ほとんど眠れない」ワケ
そうして生まれたものの1つが、フロッピーディスクだった。
新型コロナウイルスの流行で、売り切れになるほどの人気が出たフェイスシールド「SUPER M.E.N」もそうだ。SARSが流行った頃から「従来のマスクでは不十分だ」と考え発明に取り掛かり、ちょうど完成したところでたまたま新型コロナウイルスが大流行したのだとか。
ドクター・中松は「発明は一攫千金とか言われるけど、発明の精神は、お金じゃなくて、愛。発明でみんなが幸せになれば、それは僕の喜び」とコメントした。天才は1%のひらめきと99%の努力だというが、本当にそうなのかもしれない。
………………と思った矢先、ドクター・中松から衝撃の発言が。夜中にひらめきが次々と浮かんできて、毎晩ほとんど寝られないと言うのだ。
ベッドの横には常にメモが置いてあり、朝になると紙の山ができあがっているのだとか。こうして生まれた大量のアイデアは、試してみる価値のあるものと現実的ではないものに分けていく。それからプロトタイプを形にし、実験や検証を繰り返すのだ。
やっぱり先生、天才じゃないですか。
中松 義郎(なかまつ・よしろう)
1928年東京生まれ。5歳で模型飛行機の「自動重心安定装置」を発明。東京大学工学部卒業後、三井物産に入社。ヘリコプターによる農薬散布などを発明し、記録的なセールスを達成する。29歳で「ドクター中松創研」を設立。「灯油ポンプ(醤油チュルチュル)」や「フライングシューズ」など、世界に認められた発明件数は約4000件。2005年にイグ・ノーベル栄養学賞を受賞。栄養学賞は日本人ではじめて。
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五十嵐 杏南(いからし・あんな)
サイエンスライター
1991年愛知県生まれ。日英両言語でものを書くサイエンスライター。トロント大学で進化生態学と心理学を専攻。インペリアル・カレッジ・ロンドン修士課程修了(科学コミュニケーション)。時にはシリアスに、時には肩の力を抜いたテイストで、科学誌やオンラインメディアを中心に記事を執筆している。著書に『世界のヘンな研究 世界のトンデモ学問19選』(中央公論新社/2023年)、『生き物たちよ、なんでそうなった⁉ ふしぎな生存戦略の謎を解く』(笠間書院/2022年)、『ヘンな科学 “イグノーベル賞”研究40講』(総合法令出版/2020年)。雑誌『子供の科学』(誠文堂新光社)で「動物園の動物」連載中。
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(サイエンスライター 五十嵐 杏南)
