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自治体と自動車会社の共同研究

ホンダのクルマの研究開発拠点として、僕たちメディアの人間も、新型車の事前取材会などで訪れる栃木県芳賀町。ここで自治体と自動車会社の共同研究が始まった。

【画像】本田技術研究所と芳賀町、EV公用車を休日にカーシェア提供する実証実験開始 全7枚

今年3月、ホンダの研究開発子会社である本田技術研究所と芳賀町は、『交通・環境課題解決へ向けた技術、実証実験に関する共同研究契約』を締結。そして10月25日から、EVの公用車を休日にカーシェアとして提供する実証実験を始めたのだ。


研究開発にはN-VAN eとホンダeを使用。    森口将之

芳賀町長の大関一雄氏によると、今回の連携は、2年前に『芳賀・宇都宮LRT』が開業したことがきっかけだという。LRTが走りはじめたことで人の流れが変わり、バスを使う人が少なくなったそうで、影響を受けて9月には、芳賀町を通って宇都宮市と茂木町を結ぶバス路線が廃止されたりしている。

町では事前に電話などで申し込みをして利用する、オンデマンド交通を代替手段として用意しているが、新たなモビリティサービスが必要だとも感じていた。

そんな中、本田技術研究所は茨城県常総市で、『ホンダCIマイクロモビリティ』の技術実証実験を始めていた。以前AUTOCAR JAPANの記事で紹介しているので、気になる方は見ていただきたいが(編集部注:欄外のリンクをご参照ください)、CIとはCooperative Intelligenceの頭文字で、人と分かり合えるホンダ独自の協調人工知能のことだ。

町内の企業とのつながりを、まちづくりに生かしたいと思っていた芳賀町にとっては、なぜ常総? という気持ちもあったようで、本田技術研究所と協議を重ね、今回の実証実験に結びついた。

CI運転支援システムを後付け

同町では昨年、『スーパースマートタウン』と銘打った第7次成長計画を策定していた。そこに本田技術研究所が提唱する『レトロフィット』、つまり既存の機能を活用するという提案を組み合わせて、実証実験を行うことになった。

具体的には、町の公用車として『ホンダN-VAN』2台を4月に導入。これにCI運転支援システムを後付けして、休日にカーシェアリング用車両として提供をすることになった。


車両が置かれる芳賀町工業団地管理センター。    森口将之

実施期間は来年1月31日までで、車両はLRTの停留場から近い、芳賀町工業団地管理センターに置かれる。実証実験ということで利用料金は無料。充電時間などを取る必要もあるので、当面は1日3コマ、1コマ70分のスケジュールで回していく。

車両はフロントウインドウに、前後ふたつの魚眼カメラを内蔵したドライブレコーダー型デバイスが取り付けられる。CIによって360度のリスクを予測するほか、ドライバーの頭向きも感知しており、危険をいち早く知らせる役目を持つ。

さらにウインドスクリーンの根元にはLEDインジケーター、助手席前面にはインジケーターとデータ記録の電源ボタンがある。インジケーターは起動時に緑色、歩行者などを感知したときに黄色、ドライバーがリスクを見落としている場合に赤色に光る。いずれも他の車種にも簡単に後付けできそうだ。

もっとも多い歩行者が亡くなる原因は漫然運転と脇見運転

運用開始に先駆けて行われた取材会では、プレゼンテーションのあと、町役場の駐車場を使って体験試乗会が行われた。僕はその後、町内の一般道を走る機会にも恵まれた。

といっても普通に運転している限り、歩行者を感知するとその方向のインジケーターが黄色に光るものの、赤色にはならない。


研究所周辺で実験走行中の様子。    森口将之

助手席に乗っていた開発スタッフが、それだけ運転中の視線移動をしっかりしている証拠だと教えてくれた。

運転を代わって、今度は助手席から状況をチェックしても、たまに黄色が点灯するだけと思ったら、横断歩行者が目の前を通過した直後に、インジケーターが赤く光った。

歩行者は安全に通り過ぎたあとなので不思議に感じたが、視線を元に戻すのが早すぎたためだと解説してくれた。たしかに渡り終えようとした歩行者が引き返すこともあるので、納得の判断だ。

開発を主導した、本田技術研究所先進技術研究所知能化・安全研究領域統括兼半導体研究領域統括の安井裕司氏は、交通事故で歩行者が亡くなる原因は漫然運転と脇見運転が各35%でもっとも多いことを挙げた。

しかし人がクルマを運転するシーンはしばらく続くことから、CI運転支援システムが必要だと考えたとのこと。このシステムでは走行データ収集も行っており、その結果は芳賀町を通じて、道路安全の強化に役立てていくそうだ。

ホンダと言えば、現行アコードに高度な先進運転支援システム『ホンダセンシング360+』を装備しており、高速道路でのハンズオフなどを実現している。

ただし安井氏は、このシステムはコストを考えると、アコードなどの上級車用とのこと。それに対して、CI運転支援システムは、価格は未定ではあるものの、安いクルマにも取り付けることができるだろうと語っていた。声が多ければ市販も考えていくそうだ。

こうした草の根的な安全対策が、ホンダが目指す2050年のカーボンニュートラル+事故死者ゼロに結びついていくのではないかと感じた。