佐野勇斗が“高校生役”から脱皮 朝ドラ『おむすび』で体現する等身大の父親像
NHK連続テレビ小説『おむすび』の放送も、残すところあと3週間を切った。次クールに放送される『あんぱん』が早くも楽しみなところでもあるが、ヒロイン・米田結(橋本環奈)をはじめとするにぎやかな面々との別れは惜しいもの。それぞれの視聴者ごとに、とくに思い入れのあるキャラクターがいるのではないだろうか。ここでは結の夫である翔也について言及してみたい。演じているのは佐野勇斗である。
参考:『逃げ恥』『リモラブ』などドラマが描いてきた“コロナ禍” 『おむすび』はどう向き合う?
本作は、平成元年生まれの結が栄養士として、「食」をとおして人々と未来を結んでいく青春模様を描くもの。自分らしさを貫く“ギャルマインド”で、結は多くの人々に笑顔を与えてきた。それと同様に、朝から日本のお茶の間を元気づけてもきた。ところが、劇中の世界はついにコロナ禍へと突入。私たちの生きる時代に追いつきつつある。これから暗い展開が続くのだろうか。あの、私たちが経験してきたような。
そんな本作で佐野が演じている翔也は、先述しているように結の夫である。かつては高校球児としてその名を知らしめ、社会人野球の選手としてプロ野球界を目指していたが、怪我により断念。それからは星河電器の総務部でマジメに働き続けてきたが、理容師である結の父・聖人(北村有起哉)の姿に憧れ、一念発起して理容師の世界へ。聖人が営む「ヘアサロンヨネダ」で修行をしつつ、資格取得を目指している。結とも、娘の花(宮崎莉里沙)とも、関係は良好。この3人で微笑ましい家族関係を築き上げている。
そうなのだ。あまりにも自然な流れだったためすんなり受け入れてきたが、ついこの前まで高校生役を演じていた佐野が、本作においてはいま父親を演じているのだ。
『青夏 きみに恋した30日』や『3D彼女 リアルガール』、『走れ!T校バスケット部』、さらには『小さな恋のうた』に『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』シリーズと、高校生の青春を描いた作品には必ずといっていいほど彼の姿があった。そんな彼がもう「お父さん」を演じているのである。
「朝ドラ」はひとりの主人公の人生を描くものなのだから、自然とその周囲の者たちも年齢を重ねることになる。人生における大きなイベントが発生し、登場人物たちの社会的な立ち位置が変わっていくのも当然だ。俳優たちはそれぞれの実年齢や人生の経験値に関わらず、これを表現していかなければならない。
佐野が演じる翔也の現在の年齢はまだ30過ぎで、佐野本人の実年齢と近いといえば近い。スポーティーで若々しい父親像を等身大のサイズ感で立ち上げながら、柔らかくて温かみのある「お父さん」としての翔也へと、佐野は自身の演じるキャラクターを育て上げてきた。翔也が高校生だった頃から感じていた佐野の演じることへの誠実さが、ここに力強く活きている気がする。いや、事実そうに違いないのだろう。
■佐野勇斗が『トリリオンゲーム』で見せる対照的な魅力 そんな佐野といえば、封切りから間もなく1カ月が経とうとしている劇場版『トリリオンゲーム』が好調だ。同作は2023年に放送された同名ドラマの「劇場版」で、主演の目黒蓮が演じる主人公・ハルの相棒であるガクを佐野は力演している。スケールの大きな作品だが、ガクはコミュニケーションを取るのが苦手な気弱な青年だ。が、そのいっぽうでズバ抜けたITスキルを持っている。『おむすび』の翔也とは完全に正反対のキャラクターであり、作品における佐野の立ち位置も大きく異なる。このふたりの人物を並べてみることで見えてくる佐野の演技者としての力量というものがあるだろう。
さて、『おむすび』でヒロインのパートナーという重要な役どころを担っている佐野は、これからどのような俳優へとなっていくのだろうか。この物語のゴールまで並走してようやく、私たちにも見えてくるものがあると思う。(文=折田侑駿)

