日本企業のオフィスは「衝撃的だった」…世界3位の経済大国・ドイツ人が日本出張で見た"非効率な光景"
■感銘を受けたドイツ人の「職場環境へのこだわり」
ドイツに赴任して、最初にオフィスに入ったときに驚かされたのは、開放感あふれる広々とした自席スペースです。2つのデスクが組み合わさっており、大きな空間が確保されています。
そしてフロアは仕切りで区切らず、隣席との間隔を2メートル以上空けることでプライバシーを確保していました。
3メートル近い高さの天井と窓の外に見える美しい自然が相まって、最高の環境といえました。
また、オフィス内には観葉植物がふんだんに置かれ、ここにもドイツ人の職場の環境に対するこだわりが感じられました。

■思考のスケールは作業スペースの広さに比例する
同僚のステファンは言っていました。
「この環境があるからこそ、良いパフォーマンスを発揮できるんだよね」
「こんな広いスペースで働くなんて、最初は戸惑ったよ」
と私が返すと、ステファンは笑いながら答えました。
「日本出張で見た狭いスペースは、衝撃的だったなあ! でも、ドイツではこれが標準だし、この空間があるからこそ集中できるし、効率が上がるんだよね。自分のスペースが広いと、考える余裕も生まれるからね」
「思考のスケールは作業スペースの広さに比例する」と多くのノート術の書籍が説いていますが、ドイツのオフィスほどそれを実感させられる場所はありませんでした。
創造性が刺激され、高い集中力が維持できるのが自分でもわかりました。
■午前中は集中して仕事をこなす時間
このドイツ流のワークスペースは、日本の職場にも応用できる要素がたくさんあります。
空間に限りがあるとしても、個人スペースの確保や、観葉植物の配置は、働く人々の心理的な満足感を高め、ストレスを軽減します。
自席に着くと、朝の「カフェ」タイムとは打って変わって笑い声は止み、従業員たちは一斉に集中タイムに入ります。
その場にいる全員がいわゆる「ゾーン」に入っており、静けさが広がります。
「午前中は、集中して各自の仕事をこなす時間だから、社内ミーティングは設定していないんだ」と、ドイツ人の同僚ジーモンが話してくれました。
■時間帯で業務を分散している
「午後に設定されているミーティングでは、朝の集中タイムで得たアイデアや成果を基に、課題に対する議論をするんだ。これが、効率的な仕事の流れを生むんだよ」とも。
電話が鳴り、雑談やミーティングが断続的に行われているオフィスでは、集中力の維持は困難です。
ドイツ人は、脳のリソースの限界を認識し、時間帯によって効果的に業務を分散しているのです。

■「ゴールデンタイム」に作業をしてはいけない
私も、このドイツ流のワークスタイルを取り入れて、1日の使い方が一変しました。
もともと、朝型ではあったので、朝5時には起床。瞑想、軽いランニングといったルーティンを終えてから、集中力が必要になるタスクに取り組みます。

この午前中の時間帯は、誰にも邪魔されない、貴重な自分専用タイムです。
本業に取り組むときは、大事なプレゼンテーションのアイデア出しやストーリー作りなどに充てています。
ここでのポイントは、プレゼンテーションの資料作成という「作業」に、この貴重な「ゴールデンタイム」を使わないことです。
■クリエイティブなタスクに使うべき
プライベートでも、この午前中の時間を使って、本書の執筆に取り組みました。頭がクリアに冴え渡り、新しいアイデアがポンポン出てきました。
この時間帯は、最も創造性が高まる時間なので、新しいものを生み出すクリエイティブなタスクに使うべきだと、ドイツ人に教えてもらいました。
午前中の仕事が終わり、ランチを済ませます。
デュッセルドルフの市内、私が勤めていたオフィスの裏手には、広大な森が広がっていました。
■「ランチの後の散歩」が仕事の効率を上げる
ランチタイムが終わると、同僚たちはデスクから立ち上がり、森へと足を運びます。春は新緑の葉が光を浴びてキラキラと輝き、小鳥のさえずりが耳に心地よく響きます。
また、秋には黄葉が森を、印象派の画家のキャンバスのように彩ります。
そこでの森林浴は、私たちにとって日々の憩いの時間でした。
「このランチの後の散歩が、午後の仕事の効率を上げてくれるんだ」
ある日、上司のクラウスがそう教えてくれました。
「本当に? どうして?」
と私が尋ねると、彼は笑顔で答えました。
■散歩は脳をリフレッシュさせる
「散歩は脳をリフレッシュさせるんだ。自然の中で過ごす時間が脳の働きを活性化させるって、科学的にも証明されているからね」
森の中を歩きながら、私たちは仕事やプライベートの話で盛り上がります。
風が木々を揺らす音と鳥のさえずりが、確かに心と体をリフレッシュさせてくれました。
今思えば、この散歩が、午後の中だるみや眠気を吹き飛ばし、仕事の効率を高める秘訣だったのです。

■「空気の質」に細心の注意を払っている
ドイツでは、オフィスの空気の質にも細心の注意が払われています。私の職場では、窓を開けて定期的に空気を入れ替えることが習慣となっていました。
同僚たちは、よく言っていたものです。
「空気が澱むと、脳へ酸素が行き渡らなくって、ぼーっとするんだよね」
この習慣は、自然と触れ合い、共に生きるドイツの文化からきています。
彼らは自然を大切にし、日常生活に積極的に取り入れています。オフィスにも新鮮な空気を通して、少しでも自然を感じることができるようにしているのです。
以前日本で、窓が一切ないオフィスで働いていたことがありました。
もともと工場だったところをオフィスに無理やり変更したので、そういう作りになっていたのです。
その職場でも、私を含む日本人たちは、淡々と仕事をしていました。
■「劣悪な環境」が非効率を生む
今考えると、あの環境こそが、非効率を生んでいたのだと思います。
会社側にとっては、一時的にオフィスの改築費用を節約できたのかもしれませんが、長い目で見ると生産性という点で、大きな損失を被っていた、と思えます。

ドイツでは「労働法」で定められているため、そもそもそのような劣悪な環境のオフィスは存在しません。
もし仮にあったとしても、退職者が続出するはずです。そんな檻の中のような空間で仕事をしたい人はいないからです。
どんなオフィスでも、このお散歩タイムと空気入れ替えは実践できると思います。
都会のビル群の中にも、小さな公園や緑地は存在しますよね?
ランチ後の短い時間を使って、少し歩くだけで、心も体も活性化されるはずです。
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西村 栄基(にしむら・しげき)
コンサルタント、経営学修士
自動車向け半導体部品を取り扱う商社のドイツ支社に勤務。国立大学理系修士課程修了。大前研一氏が学長を務めるBBT(ビジネス・ブレークスルー)大学大学院でMBA(経営学修士)取得。2つの会社での海外駐在で計17年間ドイツに在住、欧州向けビジネスに30年間にわたって携わっている。最初の勤務先では30代前半で5 年間のドイツ駐在生活を経験。そこで衝撃を受けたドイツ流の働き方を帰国後の職場で実践、自走型人材を育成することに成功した。帰国後は、さらなるステップアップを目指して、MBAを取得し、経営学、コミュニケーション、脳科学、心理学などの分野での自己投資を経て、43歳で転職し現在に至る。少数精鋭の組織を率い、ドイツ流の自律型の働き方を部下に指導。全員が有休消化し残業ゼロでありながら、高い労働生産性を実現している。自身が登壇するトヨタ自動車(株)、(株)デンソーなどの企業向けのオンラインセミナーでは、800名を超える受講者を集めることもあり、累計受講者数は5000名を超えている。著書に『ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密』(すばる舎)がある。
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(コンサルタント、経営学修士 西村 栄基)