サカナクション(写真=後藤武浩)

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 サカナクションが今年4月より全国8カ所15公演を回ったアリーナツアー『SAKANAQUARIUM 2024 “turn”』の最終公演となる神奈川・ぴあアリーナMM公演が、7月9日、10日の2日間にかけて開催された。

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 2022年7月以降ライブ活動は休止状態にあったサカナクション。2023年10月から今年初めにかけて行われた山口一郎(Vo/Gt)のソロ名義でのホールツアー『懐かしい月は新しい月 “蜃気楼”』の最終公演にて、山口は自身がうつ病であることを公表。そして、そのライブのアンコールにはサカナクションのメンバーである岩寺基晴(Gt)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(Ba)の4人がサプライズ登場し、約1年8カ月ぶりにサカナクションが全員揃ってステージ上に集結。5人で「新宝島」を披露した。その日発表されたのが今回のアリーナツアーである。サカナクションがここから再び歩き始めることを告げるツアー。私はファイナル1日目、7月9日の公演を観ることができた。

 アンコールを含め全23曲が披露され、2時間半近くに及んだライブは、清々しく、地に足のついた希望が手渡しのように確かな温度感で伝わってくる、素晴らしいものだった。サカナクションといえば実験精神に満ちたコンセプチュアルな作品やパフォーマンスも多く発表しているが、この日のライブにあったのは、どこまでも剥き出しで、肉体的な“バンド・サカナクション”の姿。演奏する5人の佇まいからは、サカナクションとして音を奏でることに対して湧き上がる大きな喜びと、その喜びを1音1音に研ぎ澄ませ、集約させていくことの凄みを感じた。セットリスト2曲目「陽炎」では早くも紙吹雪が打ち上げられたり、会場中を乱反射するようにして色とりどりのレーザーが放たれたり、「新宝島」ではダンサーが、アンコールの「夜の踊り子」では踊り子が登場したりと、スクリーンや照明、客演を駆使したポップでアッパーな演出もたくさんあったが、ゴージャスな演出が照らし出すのは虚像ではなく、サカナクションというバンドの、とても純粋な姿だった。

 この“turn”と名づけられたツアーは、“本当に大切なもの”を5人の間で確かめ、そしてそれをリスナーたちに伝えていくためのツアーだったのだろうと、ライブを観ていて強く感じた。さっき“剥き出し”と書いたが、剥き出しであろうとすることは、何でもかんでも曝け出したり、明け透けにすることではないし、もちろん、捏造された生々しさに浸ることでもない。それは時代や、スタイルや、人と人の距離がどれだけ変わろうと、それでも“変わらないもの”を見つけ出す、ということである。サカナクションにも、何がどれだけ変わろうと“変わらないもの”がある。彼らはそれを今、改めて私たちに見せてくれた。

 あらゆるものが変化していく中で、それでも変わらないものの存在を感じ取ること。それは、バンドミュージックを聴くことの醍醐味である。あるバンドの音楽を聴き続けることは、そのバンドと、“変化するもの”と“変わらない大切なもの”、その両方を分かち合いながら一緒に生きていく――そういうことなのだ。

 有機的な楽器の重なりが生み出す叙情性とロックな高揚感があり、ライブ中盤にはサングラスをかけた5人が横並びになってプレイするDJセットのバッキバキなハイテンションゾーンがあり、みんなで歌える歌謡性があり……「これぞサカナクション!」と言うべきパフォーマンスを浴びまくった2時間半。でも、もちろんこれは「集大成」というわけではない。ステージ上で何度も「ただいまー!」と叫んだ山口も、メンバーたちも、感傷的になる暇もなく「今この瞬間」を謳歌し、そして1歩1歩、未来に向かって進んでいるようだった。MCで山口は「もう次にやりたいことがある」と語った。彼は「元には戻れないと思う。リハーサルや制作を休むこともあるし、元には戻れない。でも、この病気を抱えながら、またこの5人で、チーム・サカナクションと進んでいく自信がついたし、新しいサカナクションになる決意もできた」と、確かなビジョンとして、彼が思い描く未来を、言霊を宿すように口にした。

 最後に山口は「今日このライブに来てくれた皆さんにも、ここに来るまでにいろんな物語があったと思います。皆さんの物語と、サカナクションの物語が、これからも一緒に進んでいけるように。いい時も悪い時も、一緒に楽しんでいきましょう」と語った。アンコールのラストに演奏されたのは「シャンディガフ」。穏やかで美しい演奏が、サカナクションや私たちの前に広がる道を、そっと、丁寧に、照らし出すように響いた。

(文=天野史彬)