好調維持の鳥栖、“オシムサッカー”彷彿の躍動スタイル 覚醒した“天才”に響いた監督の言葉「もっと楽しめ」
鳥栖は第12節FC東京戦でMF堀米が直接FKを決めて勝利
5月初旬、上位戦線への生き残りを賭けたアウェーゲームを制したサガン鳥栖が5位に浮上し、FC東京との直接対決を6連勝まで伸ばした。
リーグ第12節FC東京戦(1-0)の試合後、鳥栖の川井健太監督は試合後の会見で開口一番「フットボールでは理不尽な負けもあるが、今日の出来からすれば勝利が妥当」と語った。それに対しFC東京のアルベル監督は「サッカーではない要素が影響した」と、理不尽な負けだと感じていた様子だが、どちらが明確に狙いを表現できたかと言えば、それは明らかに鳥栖の方だった。
鳥栖は序盤からハイプレスで主導権を握った。FC東京のアルベル監督は、ポゼッション型へとシフトチェンジの過程で「厳しく批判をするのは来年以降にしてください」と牽制をしており、今は我慢の時期だ。昨年までGKのロングキックから個の能力に託してカウンターを武器に戦って来たのに、今年は最後尾からゲームを作ろうとしている。そして鳥栖は最初から成長過程の弱点を徹底して突いた。
鳥栖はMFでスタートする小野裕二が、FC東京のアンカー青木拓矢をマーク。シャドーの岩崎悠人がFC東京の右センターバック(CB)木本恭生をフルスプリントで追いかけてプレッシングのスイッチを入れた。木本がGKヤクブ・スウォビィクへ戻すとパスコースは左CBの岡崎慎に限定される。だが鳥栖は右シャドーの堀米勇輝が岡崎との距離を詰めており、岩崎もターゲットを変えて2度追いで迫って来る。岡崎がなんとか松木玖生を探して縦に入れれば、鳥栖はMF福田晃斗だけではなく、CBの原田亘までもが躊躇なく押し上げ厳しく潰しにかかる。20分にはプレッシャーを感じたGKスウォビイクがミスキックで鳥栖にコーナーキックを献上してしまうシーンもあり、一方で岡崎が前線へ可能性の乏しいボールを蹴り込んでしまうとアルベル監督は大仰に苛立ちを表した。
しかも鳥栖の果敢な守備は、監督が設計したものを忠実に実行しているだけではなかった。右サイドでFC東京の永井謙佑がフリーになりかければ、逆側の最前線から堀米が全速力で戻りプレスバックして潰す。福田が「上手くいかなければ、ピッチ上の自分たちの判断で変えていく。また監督がそうさせてくれている」と話すように、攻守両面で個々が臨機応変にアクションの優先順位を決断しており、だからこそ危機を回避しチャンスに繋がったシーンが無数に連鎖した。リスク覚悟で大胆に躍動するスタイルは、かつてイビチャ・オシム監督が率いた頃のジェフユナイテッド千葉を彷彿とさせる部分もある。
鳥栖に加入した天才肌の堀米勇輝は特徴を発揮
今年の鳥栖は、それぞれ20人近い選手たちの出入りがあり指揮官も変わった。だが川井監督が追求するサッカーの実現のために必要な人材を見極められたことが、しっかりと伝わって来る。例えば、この日芸術的なFKで勝利に導いた堀米は、10代から嘱望され多彩なキックを持つ天才肌の部分と瞬発、持久両面の走力を備えていた。だが所属チームに恵まれず、その特徴を発揮し切れずに来たが、ようやく鳥栖へ来て水を得た魚のようだ。川井監督からの「もっと楽しめ」は、覚醒のカギになったのかもしれない。
両チームを比較すれば、トータルの走行距離で11キロ以上、スプリント回数では56回の差が生まれた。それだけに酷暑の夏場は鳥栖の大敵になるかもしれないが、川井監督は「前戦のパフォーマンスでメンバーは選ばない。来ていない選手が悪いわけではなく、対戦相手で誰を使うかを決めている」と宣言している。総合力を引き出す采配の妙が、長丁場でどう活かされるのか興味深い。(加部 究 / Kiwamu Kabe)
